日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年広審第37号
    件名
漁船竜正丸プレジャーボート永漁II世号衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奨一、上野延之、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:竜正丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:永漁II世号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
竜正丸…船首船底部に擦過傷
永漁…右舷外板に亀裂、船外機ぬれ損等

    原因
竜正丸…見張り不十分、船員の常務(避抗動作)不遵守(主因)
永漁…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、竜正丸が、見張り不十分で、錨泊中の永漁II世号を避けなかったことによって発生したが、永漁II世号が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月10日17時30分
島根県地蔵埼西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船竜正丸 プレジャーボート永漁II世号
総トン数 4.8トン
全長 15.10メートル 4.92メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 183キロワット 18キロワット
3 事実の経過
竜正丸は、船尾部に操舵室を備えた一本釣り漁及び小型底引き網漁に従事するFRP製漁船で、いか一本釣りの目的で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年8月10日17時00分鳥取県境港を発し、隠岐水道に向かった。
17時27分半A受審人は、美保関灯台から038度(真方位、以下同じ。)250メートルの地点に達したとき、針路を295度に定め、機関を半速力前進にかけ9.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室中央の左舷側に空き箱をおいてそこに腰掛けて磁気コンパスによる自動操舵により若干の船首振れを伴いながら進行した。
定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首700メートルのところに錨泊中の永漁II世号(以下「永漁」という。)が存在し、その後衝突のおそれのある態勢となって接近する状況となったが、いちべつして前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、これに気付かず、その後境港で新替えした機関室内の機器の状況を見るため足元の同室内を覗きながら続航した。
17時28分半A受審人は、永漁がほぼ正船首420メートルのところに漂泊しているのを認め得る状況となったものの、依然、見張り不十分で、このことに気付かず、永漁を避けないで進行中、17時30分美保関灯台から313度700メートルの地点において、竜正丸は、原針路、原速力のまま、その船首が泳漁の右舷中央部付近に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、潮侯は上げ潮の末期であった。
また、永漁は、有効な音響発生装置を有しない、船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、釣りの目的で、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日15時45分島根県美保関町宇井を発し、地蔵埼北西方沖合の釣場に向かった。
B受審人は、美保関灯台から313度700メートルの地点に至り、水深約30メートルのところに投錨し、化繊製錨索を約70メートル延出し、045度に向首して釣りを始めた。
17時27分半B受審人は、右舷船首70度700メートルに、自船に向け来航する竜正丸を初めて視認し、その後、動静監視を行っていたところ、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたことから、同時28分半同船との距離が420メートルになったとき、立ち上がって手を振り合図したところ、たまたま、同船の船首振れにより船首が自船の船尾方に向いたので自船を避けたと思い、腰を下ろしていたところ、同時29分少し過ぎ、同船が200メートルに接近して再度、自船に向首する状況となったのを認めたので、立ち上がって手を振り、大声で叫べば相手船が自船に気付くものと思い、速やかに船外機をかけ移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けた。
17時30分少し前B受審人は、危険を感じて船外機をかけようとしたが、及ばず、難を逃れるため海中に飛び込んだとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、竜正丸は、船首船底部に擦過傷を生じ、永漁は右舷外板に亀裂及び転覆して船外機のぬれ損等を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、地蔵埼北西方沖合において、漁場に向けて航行中の竜正丸が、見張り不十分で、前路に錨泊している永漁を避けなかったことによって発生したが、永漁が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、地蔵埼北西方沖合を漁場に向けて航行する場合、前路に錨泊している永漁を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路をいちべつして他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、永漁に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、竜正丸の船首船底部に擦過傷を生じさせ、永漁の右舷外板に亀裂及び同船を転覆させ船外機のぬれ損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、地蔵埼北西方沖合において錨泊して釣りをする際、衝突するおそれがある態勢となって船首振れを伴いながら接近中の竜正丸を認めた場合、船外機をかけるなど衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、向首接近してくる同船に対して立ち上がって手を振り、大声で叫べば相手船が自船に気付くものと思い、船外機をかけるなどして衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、竜正丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION