日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年広審第114号
    件名
貨物船第七旭丸漁船幸長丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、釜谷奨一、上野延之
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第七旭丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:幸長丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
旭丸…左舷中央部に擦過傷
幸長丸…船首部が圧壊

    原因
旭丸…動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
幸長丸…動静監視不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第七旭丸が、動静監視不十分で、漁労に従事している幸長丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸長丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月18日13時25分
瀬戸内海小豆島南方
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七旭丸 漁船幸長丸
総トン数 199.13トン 4.9トン
全長 55.10メートル
登録長 10.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第七旭丸(以下「旭丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、A受審人、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.7メートル船尾2.2メートルの喫水をもって、平成8年8月17日18時35分福岡県苅田港を発し、瀬戸内海経由で兵庫県東播磨港に向かった。
A受審人は、航海当直をB指定海難関係人との単独6時間交代制として瀬戸内海を東行し、翌18日11時30分ごろ大槌島付近の備讃瀬戸東航路内で昇橋してきたB指定海難関係人と当直を交代したが、その際、平素から何かあれば報告するよう言っているので特に注意することもあるまいと思い、見張りを厳重に行って接近する他船があれば報告するよう指示することなく、そのまま自室に戻り休息した。
B指定海難関係人は、航路に沿って東行し、12時49分地蔵埼灯台から212度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に達し、備讃瀬戸東航路中央第7号灯浮標を左舷側に並航したとき、針路を088度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で、海図記載の推薦航路線の左側をこれに沿って進行した。
13時12分B指定海難関係人は、大角鼻灯台から222度2.6海里の地点に至り、左舷船首9度2.9海里に幸長丸を初めて認め、その船型及び速力から自船の前路に向け操業中の底引き網漁船と分かったが、まだ遠かったことからそのまま続航し、同時22分同灯台から176度1.9海里の地点に達し、幸長丸を左舷船首6.5度1,200メートルに認めるようになったとき、同船の前方を通過しようと5度右転して093度の針路としたが、これで十分にかわるものと思い、船尾方を向いて海図に当たり、方位変化を確認するなど幸長丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、その後方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったことに気付かず、A受審人に報告しなかったことから、旭丸は、漁労に従事する幸長丸の進路を避けないまま進行中、同時25分少し前、自室で他船の接近を認めた機関長が急ぎ昇橋して右舵一杯としたが及ばず、13時25分大角鼻灯台から161度2.0海里の地点で、原速力のまま131度を向いたその左舷中央部に、幸長丸の船首がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、衝突地点付近には微弱な東流があった。
A受審人は、機関音の変化で急ぎ昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、幸長丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日05時30分香川県津田漁港を発し、小豆島大亀鼻南方の漁場に向かった。
C受審人は、06時過ぎ漁場に到着し、漁労に従事していることを示す形象物を掲げ、船尾両舷から延出した長さ約300メートルのワイヤの先に漁網を取り付けて直ちに操業にかかり、推薦航路付近で曳網を繰り返し、13時10分大角鼻灯台から140度1.7海里の地点に達したとき、当日7回目の操業のため投網し、針路を221度に定め、3.0ノットの引き網速力で手動操舵として進行した。
定針したころC受審人は、右舷船首方の推薦航路付近を相前後し東行する3隻のフェリー及びその後方に旭丸を認めたが、フェリーは船首方をかわる態勢であり、旭丸は大分離れて見えたことから、船尾甲板の右舷側に腰を下ろし、左舷側を向いた姿勢で漁獲物の選別作業を始めた。
13時22分C受審人は、旭丸を右舷船首41度1,200メートルに見ることができ、その後方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然近づくまではまだ距離があるものと思い、作業を続け、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく続航中、同時25分少し前、ふと船首方を見たところ、旭丸の黒い船体を認め、機関停止としたが及ばず、幸長丸は、原針路のままほぼ停止した状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、旭丸は、左舷中央部に擦過傷を生じ、幸長丸は、船首部が圧壊したが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、播磨灘西部において、旭丸が、動静監視不十分で、底引き網により漁労に従事中の幸長丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸長丸が動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
旭丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の当直者に対し、見張りを厳重に行って接近する他船がいたら報告することについての指示が十分でなかったことと、当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、播磨灘西部において、無資格の甲板長に当直を行わせる場合、見張りを厳重に行って接近する他船があれば報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から何かあれば報告するように言っているから大丈夫と思い、見張りを厳重に行って接近する他船があれば報告するよう指示しなかった職務上の過失により、甲板長が幸長丸の接近に気付かず、報告がなかったことから自ら操船の指揮を執ることができず、幸長丸との衝突を招き、旭丸の左舷中央部に擦過傷及び幸長丸の船首部を圧壊するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号が適用して同人を戒告する。
C受審人は、播磨灘西部において漁労に従事中、来航する旭丸を認めた場合、同船との衝突の有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、近づくまでにはまだ距離があるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、旭丸の接近に気付かず、同船との衝突を沼き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が播磨灘西部を航行中、前方に底引き網漁船を認めた際、その動静を十分に監視しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION