|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年9月11日06時10分 山口県祝島南方沖合 2 船舶の要目 船種船名 油送船第八栄信丸
漁船大宝丸 総トン数 264トン 4.98トン 全長 48.01メートル 登録長
9.94メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 625キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 第八栄信丸(以下「栄信丸」という。)は、船尾船橋型油送船で、A受審人、B指定海難関係人ほか1人が乗り組み、コールタール300トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成9年9月10日12時30分大阪港を発し、関門港に向かった。 A受審人は、船橋当直を一等航海士及びB指定海難関係人による単独4時間交代の輪番制とし、自らが当直以外にも狭い水道、船舶がふくそうする海域での操舵操船に当たることとし、同指定海難関係人に対しては、幾度も瀬戸内海を航行した経験があったので平素、不安を感じたら適宜報告するように伝えていた。 A受審人は、出港後船橋当直を、一等航海士、B指定海難関係人の順に決め、自らは21時から当直に入り、翌11日01時安芸灘東部において次直の一等航海士に当直を引き継ぐ際、B指定海難関係人には平素から伝えているので改めて指示するまでもないと思い、同人に対し、他船を認めたとき動静監視に行い衝突のおそれのある態勢となって接近するようであれば報告する旨を一等航海士に申し送るよう指示することなく、一等航海士と当直を交代した。 こうして、04時45分B指定海難関係人は、平郡島北方沖合で一等航海士から船橋当直を引き継いだが、この際申し送りを受けないまま法定灯火を表示して平郡水道の海図記載の推薦航路を西行し、05時43分ホウジロ灯台から052度(真方位、以下同じ。)4,900メートルの地点で、針路を同推薦航路に沿う267度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。 06時07分B指定海難関係人は、ホウジロ灯台から327度3,400メートルの地点に達したとき、左舷船首30度1,300メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の大宝丸を初めて視認したものの、接近すれば同船が避けると思い、大宝丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、A受審人に報告することなく続航した。 こうして、栄信丸は、A受審人自ら操船の指揮が執られず、警告信号を行うことも、間近に接近しても、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、同時10分少し前左舷側至近に迫った同船を認めて驚き、汽笛を吹鳴し、機関停止としたが及ばず、栄信丸は、06時10分ホウジロ灯台から313度3,780メールの地点において、原針路、原速力のまま、同船の左舷船首部に、大宝丸の船首部が前方から70度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、潮侯は下げ潮の末期で、日出は05時52分であった。 A受審人は、自室で休息中、汽笛音及び機関停止を知り、昇橋して事後の措置に当たった。 また、大宝丸は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人及び同人の妻が乗り組み、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月10日17時00分山口県平生町を発し、祝島南が沖合で操業後、翌11日05時50分ホウジロ灯台から248度4,370メートルの漁場を発進し、針路を017度に定め、機関を全速力前進にかけ7.3ノットの速力で自動操舵により帰途についた。 C受審人は、発進したとき、南北にある伊予灘航路及び平郡水道の海図記載の両推薦航路をそれぞれ横切ることとなったが周辺に航行の妨げとなる船舶は見当たらなかったことから網の整備作業をしてもよいと思い、前路の見張を十分に行うことなく、妻を船橋前面の甲板上で魚の選別作業に当たらせ、自らは船橋後面の甲板上に座って、帰港後の網洗いが楽になるよう網の目に入った小魚を外す作業にとりかかった。 06時07分C受審人は、ホウジロ灯台から306度3,600メートルの地点に違したとき、右舷船首40度1,300メートルのところに、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する栄信丸を視認し得る状況となったが、作業に気を取られ、依然、見張りを十分に行っていなかったので栄信丸に気付かず、同船の進路を避けることなく続航中、突然船体に衝撃を感じ、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄信丸は左舷中央部に擦過傷を、大宝丸は船首部に破口などを生じ、のち修理され、C受審人が左鎖骨骨折・右膝打撲傷及び同人の妻が頸部捻挫・大腿部打撲傷等をそれぞれ負った。
(原因) 本件衝突は、祝島南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、大宝丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る栄信丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄信丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。 栄信丸の運航が適切でなかったのは、船長の無資格当直者に対する動静監視を十分に行う旨の及び他船が接近したときは報告する旨の指示が徹底していなかったことと、無資格当直者が動静監視を十分に行わず、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) C受審人は、祝島南方沖合を帰航中、南北にある両推薦航路を横切る場合、接近する栄信丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、発進時、付近に航行船の妨げとなる船舶が見当たらなかったことから、当分の間網の整備作業に従事してもよいと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切る栄信丸と衝突のおそれのある態勢で接近する状況であることに気付かず、同船の進路を避けないで進行して衝突を招き、栄信丸の左舷中央部に擦過傷を、旭丸の船首部に破口を伴う損傷それぞれ生じさせ、同人の妻に頸部捻挫・大腿部打撲傷等を負わせ、自身も左鎖骨骨折・右膝打撲傷を負うに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人が、祝島南方沖合を舶沖、無資格者に当直を行わせる場合、他船が接近したとき報告の申し送りについて指示をするべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から注意しているので改めて指示するまでもないと思い、他船が接近したときの報告の申し送りについて指示をしなかった職務上の過失により、大宝丸の接近についての報告が受けられず自ら操船の指揮を執ることができずに同船との衝突を招き、両船に前示の損傷及び大宝丸乗組員に負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に当たり、祝島南方沖合を西沖、左舷船首方に大宝丸を認めた際、動静監視を行わなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|