|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月27日00時55分 小豆島地蔵埼沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船聖東丸
漁船栄漁丸 総トン数 300トン 4.88トン 全長 51.85メートル 登録長
9.95メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 聖東丸は、徳山下松港で積荷した液体化学薬品を大阪、四日市、京浜各港へ輸送するケミカルタンカーで、船長C、A受審人ほか3人が乗り組み、燐酸液320トンを積載し、船首2.2メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成8年8月26日12時30分徳山下松港を発し、日没後は法定灯火を表示して瀬戸内海経由で大阪港に向かった。 C船長は、船橋当直を、自らとA受審人及び甲板員の時間帯は単独で、機関長には見習いの甲板員を付けて4組による2時間輪番制とし、来島海峡通過は自らの当直となるよう時間帯を組み、平素から見張りを厳重に行うこと、立って当直に就くこと、眠気を感じたら船長に知らせることなどを指導していた。 23時50分ごろA受審人は、備讃瀬戸東航路(以下「東航路」という。)内の宇高西航路との交差部付近で当直に就き、操舵輪後方に置いたいすに腰を掛けた姿勢で同航路に沿って東行し、翌27日00時38分カナワ岩灯標から010度(真方位以下同じ。)1,200メートルの地点に達したとき、針路をほぼ東航路口に沿う112度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの東流に乗じ、11.5ノットの対地速力で進行した。 ところでA受審人は、平素から十分休養のとれる就労態勢であったうえ、出港後、16時から18時までの当直に入ったほかはテレビを見るなどして休息していたため、当直中特別疲労感は感じていなかったものの、定針後前路に他船が見当たらなかったことから気が緩み、いすに腰を掛けていたこともあって眠気を催したが、この程度の眠気であれば我慢できるものと思い、立ち上がって外気に当たり、手動操舵として眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、やがて居眠りに陥った。 00時45分半A受審人は、地蔵崎灯台から277度3.8海里の地点に達したとき、左舷船首11度1.4海里に、栄漁丸の表示する航行中の動力船の灯火のほか、トロールにより漁労に従事していることを示す緑、白全周灯を視認することができ、その後方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、居眠りをしていてこのことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行中、同時55分わずか前、ふと目を覚ましたとき、正船首至近に栄漁丸の白灯1個を認め、驚いて手動操舵に切り替えるとともに右舵一杯としたが及ばず、聖東丸は、00時55分地蔵崎灯台から263度2.1海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が栄漁丸の右舷中央部に、後方から33度の角度で衝突した。 A受審人は、軽い衝撃があったことから衝突したことに気付き、船橋の両舷から後方を確認したが、何の灯火も認めず、事故に対する恐怖感から海上保安部にも、船長にも報告せず人命救助に必要な手段を尽くすことなくそのまま航行を続け、大阪港で揚荷したのち徳山下松港航行中、海上保安部から連絡を受け、同部の調査を受けた。 当時、天候は雨で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には1.1ノットの東流があった。 また、栄漁丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首尾とも1.0メートルの等喫水をもって、同月26日15時00分香川県庵治漁港を発し、地蔵埼沖合の漁場に向かった。 16時30分B受審人は、地蔵埼灯台の南東方2海里の地点に至って操業を始め、日没後は航行中の動力船の灯火のほかトロールにより漁労に従事していることを示す緑白全周灯を表示し、東航路に沿って曳網、潮上りを繰り返し、翌27日00時17分カナワ岩灯標から067度1.6海里の地点に達したとき、当日最後の3回目の操業にかかり、同航路内の高瀬付近の浅所をかわしてから南寄りに曳網することとし、針路を備讃瀬戸東航路中央第7号浮標に向首する120度に定め、機関を半速力前進とし、折からの東流に乗じ、3.3ノットの対地速力で手動操舵として進行した。 定針後B受審人は、前部甲板で漁獲物の選別作業を行ったのち、00時30分ごろ作業を終えて操舵室に戻り、同時45分半地蔵埼灯台から274度2.4海里の地点に達したとき、針路を高瀬の北側を通過する145度に転じた。このころB受審人は、右舷船尾44度1.4海里に白、白、紅3灯を表示した聖東丸を視認することができ、その後方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、当時、航行船が少なかったことから、関係する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近して機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることもなく続航中、栄漁丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 B受審人は、衝撃で衝突に気付いたものの、その直後栄漁丸は転覆し、同人は操舵室に取り残されたが、自力脱出し、同船の船底にしがみついて2時間ばかり漂流したのち、僚船に救助された。 衝突の結果、聖東丸は、左舷船首部に擦過傷を生じ、栄漁丸は、右舷中央部外板が大破して、のち、廃船とされ、B受審人が、四肢腹部擦過傷等の、約1週間の安静加療を要する負傷をした。
(原因) 本件衝突は、夜間、小豆島地蔵埼沖合の東航路内において、聖東丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁労に従事する栄漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄漁丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、東航路を東行中、眠気を催した場合、いすから立ち上がり、外気に当たって眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の眠気であれば我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ってトロールにより漁労に従事する栄漁丸の接近に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を沼き、自船の船首部外板に擦過傷を生じさせ、栄漁丸の右舷中央部に破口を生じさせるとともに転覆させて廃船に至らしめ、B受審人に四肢腹部擦過傷等を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の1箇月15日停止する。 B受審人は、夜間、東航路内でトロールにより漁労に従事する場合、同航路に沿って後方から接近する聖東丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、当時、航行船が少なかったことから、関係する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、聖東丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置もとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も擦過傷を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|