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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月1日11時12分 石川県金沢港 2 艦白の要目 船種船名 漁船旭丸
プレジャーボートサンセット 総トン数 4.38トン 登録長 8.90メートル 5.37メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
180キロワット 36キロワット 3 事実の経過 旭丸は、移動式の刺網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成8年9月1日03時00分石川県金沢港旧大野川河口にある定係地を発し、同港西方沖合の漁場に至って操業を開始した。 A受審人は、10時30分ごろ天候が悪化するとの情報を得てあまだい約40キログラムを獲ったところで操業を打ち切り帰途に就き、やがて金沢港の西防波堤北端を航過し、同防波堤沿いを港奥に向けて航路筋を南下した。 ところで、A受審人は、旭丸の操舵室内の舵輪後方に立って手動繰舵に当たると、右舷船首甲板上に設置された揚網機及び操舵室前方中央部に設置された直径21センチメートル(以下「センチ」という。)の煙突により、船首から右舷側15度及び左舷側10度の各範囲に死角を生じて前方の見通しが悪い状態となっていたので、時折体を移動したり船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行いながら航行していた。 11時09分少し過ぎA受審人は、大野灯台から352.5度(真方位、以下同じ。)1,480メートルの地点に達したとき、前方に視認した出航中の貨物船と左舷を対して航過するよう針路を189度に定め、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で操舵室内の舵輪後方に立って手動操舵により進行した。 定針したころA受審人は、左舷船首2度660メートルのところに停留しているサンセットを視認でき、その後同船が西寄りの風によってゆっくり東方に圧流され、その方位が左方に変わっていたが、出航中の貨物船に気をとられ、体を移動するなどして死角を補う見張りを行わず、サンセットの存在に気付かないまま南下を続けた。 11時11分半A受審人は、大野灯台から342.5度950メートルの地点に達したとき、同貨物船を左舷側40メートルばかり隔てて航過し、針路を旧大野川河口の波除堤間に向く150度に転じたところ、サンセットに向首する態勢となった。 旭丸は、同じ針路及び速力で続航中、11時12分大野灯台から344度840メートルの地点において、その船首が163度に向首したサンセットの船尾に後方から13度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 また、サンセットは、船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人1人が乗り組み、同乗者Cほか2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.35メートルの喫水をもって、同日06時05分金沢港大野川河岸の係留地を発し、同港の西防波堤北端付近に至って釣りを始めた。 B受審人は、あまり魚が釣れなかったので場所を何度か変え、10時57分大野灯台から333度930メートルの西防波堤屈曲部東側至近に移動し、船首を西に向けたまま機関のクラッチを中立として釣りを再開した。 ところで、この釣場は、金沢港旧大野川河口に出入りする漁船等が頻繁に航行する航路筋屈曲部付近の西方であった。 B受審人は、折からの西寄りの風に圧流された船体が、船首を徐々に南方に向けながら前示航路筋に侵入する状況で、自らは釣りをやめて操縦席に腰をかけ前方の見張りに当たっていたところ、11時07分大野灯台から340度870メートルの地点で、岡乗者の釣糸がプロペラに絡まったことを認めた。 B受審人は、操縦席にある船外機の仰角変更用ボタンを押し、船外機を水中から揚げて釣糸を取り外すこととしたが、航路筋に沿って接近する他船を認めたときには、速やかに釣糸を切り、船外機を水中に降ろして航路筋から出ることができるよう、自ら周囲の見張りを十分に行わず、また同乗者に対し、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば速やかに報告するよう指示せず、後部プラットフォームに立って前示作業を始めた。 11時09分少し過ぎB受審人は、大野灯台から342度860メートルの地点まで圧流され、船首が163度に向いていたとき、左舷船尾23度660メートルのところに、航路筋を南下中の旭丸を視認することができる状況であったが、釣糸を取り外す作業に気をとられ、同船の接近に気付かず、衝突を避けるための措置として、速やかに航路筋から出ないまま同作業を続けた。 11時11分半B受審人は、旭丸が右舷船尾13度100メートルに近づいたとき、同船が左転して自船に向かって接近する状況となったことにも気付かず、同時12分少し前釣糸を外し終えて船内に戻ったとき、同乗者の叫び声で船尾至近に迫っている同船を認めたものの、何をする間もなく、サンセットは、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、旭丸は船首部に擦過傷を生じ、サンセットは船外機と船尾プラットフォームを破損し、のち修理された。また、C同乗者(昭和11年7月10日生)は、衝突の直前海中に飛び込み救助されたが、溺水のため翌10月20日入院先の病院で死亡した。
(原因) 本件衝突は、金沢港において、旭丸が、旧大野川河口に向かう航路筋を南下する際、見張り不十分で、停留中のサンセットに向け転針し進行したことによって発生したが、サンセットが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置として、速やかに航路筋から出なかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、金沢港において、旧大野川河口に向かう航路筋を南下する場合、舵輪の後方に立って見張りに当たると船首方の見通しが大幅に妨げられるから、前路で停留しているサンセットを見落とすことのないよう、体を移動するなどして死角を補う十分な見張りを行う注意義務があった。ところが、同人は、左舷船首方から出航する貨物船に気をとられ、死角を補う十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、サンセットの存在に気付かないまま波除堤間に向け転針して進行し、停留中の同船との衝突を招き、旭丸の船首部に擦過傷を生じさせ、サンセットの船外機と船尾プラットフォームを破損させるに至り、また、衝突の直前海中に飛び込んだサンセットの同乗者のうち1名を溺水により死亡させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 B受審人は、金沢港旧大野川河口に出入りする漁船が頻繁に航行する航路筋屈曲部付近において、プロペラに釣糸が絡まり、船外機を水中から揚げて釣糸を取り外す作業に当たる場合、西寄りの風により、同航路筋に圧流されていたことを認識していたのであるから、航路筋に沿って接近する他船を認めたときには、衝突を避けるための措置として、速やかに船外機を水中に降ろして航路筋から出ることができるよう、適切な見張りを行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自ら周囲の見張りを十分に行わず、また同乗者に対し、周囲の見張りを十分に行い接近する他船があれば速やかに報告するよう指示せず、釣糸を取り外す作業に気をとられ、適切な見張りを行わなかった職務上の過失により、航路筋に沿って接近する旭丸に気付かず衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、また、衝突直前海中に飛び込んだ自船の同乗者のうち1名を死亡させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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