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1998年(平成10年)

平成9年神審第57号
    件名
貨物船第一旭栄丸漁船金比羅丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、佐和 明、西林眞
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:第一旭栄丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
C 職名:金比羅丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
旭栄丸…右舷側後部外板に軽微な凹損
金比羅丸…船首が破損

    原因
金比羅丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険、衝突回避措置)不遵守(主因)
旭栄丸…見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、金比羅丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の第一旭栄丸の前路に停留して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第一旭栄丸が見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年8月2日06時25分
大阪湾
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一旭栄丸 漁船金比羅丸
総トン数 299トン 4.9トン
全長 50.80メートル 14.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
第一旭栄丸(以下「旭栄丸」という。)は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、塩酸460トンを積載し、船首2.75メートル船尾3.95メートルの喫水をもって、平成7年7月31日12時00分茨城県鹿島港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、発航後、2直6時間交替の船橋当直体制をとり、翌々8月2日05時07分一等航海士が友ケ島灯台から270度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で針路を042度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ8.3ノットの対地速力で自動操舵により進行中、同時40分昇橋して同航海士と交替して単独の当直に就き、同じ針路及び速力で大阪湾を北上した。
やがてA受審人は、腹痛を覚えたので便所に行くこととし、06時00分レーダーで前路5海里付近に漁船数隻の映像を認めていたが、かつてB指定海難関係人に広い海域で時々船橋当直を行わせたことがあったので、問題ないと思い、機関当直中の同人を船橋に呼び上げ、船首方向約5海里のところに漁船数隻の映像がレーダーに映っている旨を告げたものの、見張りを厳重に行うよう指示することなく、同時05分ごろすぐに戻るつもりで船橋を降りた。
在橋を命じられたB指定海難関係人は、引き継いだ針路及び速力のまま続航し、船橋中央部にある舵輪後方の位置でいすに腰掛けて見張りに当たり、06時18分大阪府泉州沖空港島A灯標(以下「空港島A灯標」という。)から256度4.9海里の地点に達したとき、右舷船首16度1.5海里のところに、西方に向けて動き始めた金比羅丸を視認し得る状況であったが、見張りを十分に行っていなかったので、同船を視認することができなかった。
そのため、便所にいたA受審人は、B指定海難関係人から右舷船首方に存在する金比羅丸についての報告が得られなかったこともあって、昇橋しなかった。
こうして、旭栄丸は、A受審人によって操船が行われず、金比羅丸の方位が左方に変わっていて、同船が前路を無難に航過する態勢であったところ、06時23分右舷船首5度570メートル付近で急に速力を落とし、263度に向首したまま前進行き脚をもって、船首方に寄ってくるようになり、新たな衝突のおそれが生じたが、直ちに警告信号を行わず、激右転するなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
B指定海難関係人は、06時25分少し前、船首右舷側至近に金比羅丸を初めて視認したが、どうすることもできず、原針路、原速力のまま続航中、06時25分空港島A灯標から263度41海里の地点において、わずかな前進行き脚のある金比羅丸の船首が、旭栄丸の右舷側後部に前方から41度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に属していた。
A受審人は、便所にいたとき衝突の衝撃を感じ、直ちに船橋に駆け上がり、事後の措置に当たった。
また、金比羅丸は、FRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、小型底びき網漁の目的で、船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同年8月2日04時00分兵庫県仮屋漁港を発し、関西国際空港西方沖合の漁場に向かった。
C受審人は、05時30分漁場に至って操業を開始し、06時15分揚網を終え、次に西方へ移動して操業を行うこととし、同時18分空港島A灯標から263度3.5海里の地点を発進し、針路を263度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
発進したときC受審人は、左舷船首25度1.5海里のところに、北上する旭栄丸を視認することができ、そのまま進行すれば同船の前方を400メートル隔てて無難に航過する態勢であっが、左方から接近する他船はいないと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、同船を視認することができなかった。
06時23分C受審人は、旭栄丸が左舷船首26度570メートル付近に存在していたが、予定の漁場に到着したので、停留して投網準備に取り掛かるため、舵中央のまま機関のクラッチを中立にしたことによって、徐々に減少する前進行き脚をもって旭栄丸の船首方に寄るようになり、新たな衝突のおそれを生じさせたことに気付かず、直ちに機関を全速力後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらなかった。
C受審人は、後部甲板上において投網の準備作業中、06時25分少し前ふと左方を見たとき、左舷側至近距離から迫ってくる旭栄丸を初めて視認し、機関を全速力後進にかけたが及ばず、金比羅丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、旭栄丸は右舷側後部外板に軽微な凹損を生じ、金比羅丸は、船首が破損し、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、大阪湾において、金比羅丸が、見張り不十分で、無難に航過する態勢の旭栄丸の前路で停留して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、機関を全速力後進にかけるなど衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、旭栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、激右転するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
旭栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋を離れる際、在橋を命じた機関長に対して厳重な見張りを行うよう指示しなかったことと、機関長が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
C受審人は、関西国際空港西方沖合の大阪湾において、西方へ向けで漁場を移動する場合、北上する旭栄丸を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左方から接近する他船はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、北上する旭栄丸に気付かず、その前路で停留して同船と新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとることなく、後部甲板上で投網準備作業を続けて同船との衝突を招き、金比羅丸の船首を破損させ、旭栄丸の右舷側後部外板に軽微な凹傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用て同人を戒告する。
A受審人は、大阪湾を北上中、腹痛で便所へ行くために機関長に在橋を命じて降橋する場合、見張りを厳重に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関長は船橋当直の経験があるから、問題ないと思い、見張りを厳重に行うよう指示しなかった職務上の過失により、用便中に機関長から右舷船首方に存在する金比羅丸についての報告が得られずに、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもしないで同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、大阪湾を北上中、用便のため降橋する船長から在橋を命じられた際、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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