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1998年(平成10年)

平成10年横審第21号
    件名
油送船第二十八英和丸油送船鴎進丸自動車運搬船シェラネバダハイウェイ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、川原田豊
    理事官
西田克史

    受審人
    指定海難関係人

    損害
英和丸…船橋左舷ウイング舷灯部に凹損
鴎進丸…ファッションプレートに凹損、船首から左舷後部にかけてブルワーク及びハンドレールに凹損及び曲損、左舷ビルジキールに曲損、船首マストに曲損及びフェァリーダーに亀裂、錨鎖5節半とともに左舷錨を喪失
シ号…船首から船尾にかけての右舷外板に凹損及び擦過傷

    原因
シ号…走錨防止の措置不十分

    主文
本件衝突は、シェラネバダハイウェイが、走錨防止の措置が不十分で、増勢した強風を受けて走錨し、風下側に錨泊していた第二十八英和丸と鴎進丸に向かって圧流されたことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月24日01時36分及び01時50分
名古屋港
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二十八英和丸 油送船鴎進丸
総トン数 1,592トン 749トン
全長 87.02メートル 74.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 1,471キロワット
船種船名 自動車運搬船シェラネバダハイウェイ
総トン数 47,367トン
全長 179.99メートル
幅 32.20メートル
深さ 22.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 10,223キロワット
3 事実の経過
第二十八英和丸(以下「英和丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油送船で、船長Bほか10人が乗り組み、軽油3,000キロリットルを積載し、船首4.75メートル船尾5.45メートルの喫水をもって、平成9年3月22日17時25分千葉港を発し、名古屋港に向かった。
翌23日12時00分B船長は、名古屋港の錨地に至って多数の錨泊船を認め、それらの船舶から0.35海里離れたところに錨泊して翌日丸中興産BWバース名古屋油槽所にシフトを開始するまで待機することとし、伊勢湾灯標から951度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点において、錨泊中のシェラネバダハイウェイ(以下「シ号」という。)から南東側0.7海里離れたところに左舷錨を投下し、錨鎖の長さを4節半水面まで伸出して単錨泊とし、その後天気図を検討したところ、今後更に風が強くなることが予想されたので16時から守錨当直体制をとった。
翌24日00時30分B船長は、風勢が増していることに気付いて昇橋し、機関の準備を命じたのち、当直航海士、同甲板手及び機関長の4人で見張りに当たるとともに、VHFの聴取を続けた。
01時25分ごろB船長は、VHFにより名古屋港海上交通センターからの走錨船に対する呼び出しを傍受したので、注意して該当船を探していたところ、多数の錨泊船のなかで風に圧流されて蛇行しながら、北西方を向首した自船のほぼ船首方0.3海里まで接近したシ号を視認し、同船に対して汽笛を吹鳴し信号灯を照射して注意喚起信号を行うとともにVHFにより呼び出しを行った。
B船長は、VHFによる応答を得られなかったので、当直者に揚錨を指示したものの、蛇行して圧流されているシ号を避けられないものと考え、揚錨を取り止めて船首要員を退避させたところ、英和丸は、01時36分前示錨泊地点において、315度を向首していたとき、その船橋左舷ウインク舷灯部に、シ号の右舷船首部が後方から45度の角度で衝突し、これを擦過した。
当時、天候は晴で風力8の北西風が吹き、強風波浪注意報が発表され、潮候は上げ潮の初期で、海上には波高1.5メートルの波浪があった。
また、鴎進丸は、船尾船橋型の鋼製油送船で、船長Cほか7人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト150トンを載せ、船首1.20メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、同月22日15時50分宮城県塩釜港を発し、名古屋港に向かった。
翌々24日00時40分C船長は、名古屋港の錨地に多数の錨泊船を認めたので、比較的空いているところを探し、出光興産K-18バースにシフトを開姶するまで待機することとし、伊勢湾灯標から001度1.7海里の地点において、錨泊中の英和丸から東側0.3海里離れたところに左舷錨を投下し、強風波浪注意報が発表されていたので錨鎖を5節まで伸出したのち、機関を停止して錨泊を開始し、降橋して自室で休息した。
自室で休息中のC船長は、錨泊を続けていたところ、01時36分自船の西方550メートルの地点で英和丸に衝突したシ号が、更に南東方に圧流され、その後機関の使用によって圧流方向を東南東方に変え、自船に向かって接近する態勢になっていたが、このことに気付かずに休息中、鴎進丸は、01時50分前示錨泊地点において、315度を向首していたとき、その船首部に、シ号の右舷船首部が後方から70度の角度で衝突した。
C船長は、数回の衝撃を受けたためポールドのカーテンをあけて船首方向を見たところ、シ号が衝突していることを知り、直ちに昇橋して機関を準備させたが、シ号の錨鎖が自船の錨鎖に絡み、シ号の右舷側に自船の左舷側を接触させたまま両船とも更に東方に圧流され、03時10分伊勢湾灯標から030度1.8海里の地点に達したとき、陸岸に著しく接近したので自船の錨鎖を切断してシ号から離れて移動し、同時30分ごろ右舷錨を投下して再び検疫錨地付近に錨泊した。
また、シ号は、1994年に建造され、船舶所有者であるA社からB株式会社が定期用船して本邦と南米西岸諸港間に就航し、11層の自動車甲板を有する、船首船橋型の自動車運搬船で、A指定海難関係人ほか日本人1人とフィリピン人19人が乗り組み、自動車1,545台及び同部品29個約1,966トンを積載し、船首7.55メートル船尾7.99メートルの喫水をもって、同月22日19時55分京浜港横浜区を発し、名古屋港に向かった。
翌23日10時10分A指定海難関係人は、名古屋港の錨地に至り、翌朝トヨタ名港ふ頭にシフトするまで待機することとし、伊勢湾灯標から338度2.3海里の水深15メートルで底質泥の地点において、左舷錨を投下して錨鎖を7節水面まで伸出し、機関を停止して単錨泊を開始した。
ところで、シ号の錨泊設備は、AC14型錨(約7.6トン)を船首部両舷に各1個および予備錨1個の計3個を備え、電気溶接スタッド付で径78ミリメートルの錨鎖を1節の長さ27.5メートルとして各舷12節を装備していた。
A指定海難関係人は、同日06時FAXで受信した天気図を見て、風が強くなる様子でなかったことから、その後の気象情報の収集を行わず、11時00分名古屋地方気象台から強風波浪注意報が発表されていたこと、また財団法人日本気象協会発行の速報天気図によれば15時には日本海と本邦南岸に低気圧か発生して風力が増勢することが予想されたが、これらのことに気付かないまま、航海士と甲板手を4時間交替の守錨当直に付けていたところ、翌24日00時40分ごろ当直中の二等航海士から風勢が強まってきた旨の報告を受けて直ちに昇橋し、北西ないし西北西から風速毎秒15ないし18メートルの風が吹き、シ号が約60度振れ回っているのを認めたが、錨鎖の伸出や機関を準備するなど走錨防止の措置をとらないまま錨泊を続けた。
A指定海難関係人は、しばらく様子を見ていたが、この程度の風だったら持ちこたえると思い、01時15分海図室に入ってプロッターでGPS船位を見ていたところ、いつしか走錨を始め、同時25分名古屋港海上交通センターからVHFにより走錨している旨の連絡を受け、操舵室に移って風速計を見たところ、風速毎秒20メートルを超える風が吹き、南東方に圧流されているのを知って機関の準備を命じたが、間にあわず、機関の準備ができる前に、シ号は、000度を向いたとき、風下で錨泊中の英和丸に前示のとおり衝突した。
A指定海難関係人は、自船が英和丸から離れたのを認め、その後更に走錨を続け、01時43分半機関の準備ができたので同時44分から機関を極微速力、微速力、引き続き半速力前進にかけて走錨を止めようとしたものの、走錨方向を変えて東南東方に圧流され、シ号は、025度を向いたとき、錨泊中の鴎進丸に前示のとおり衝突した。
A指定海難関係人は、自船の錨鎖か鴎進丸の錨鎖に絡んでいるのを知ったが、何らとるすべがなく、前示のとおり両船が接触したまま東方に圧流され、その後鴎進丸が錨鎖を切断して自船から離れ、自船も鴎進丸の錨鎖を絡ませたまま揚錨できたので検疫錨付近に戻って再び錨泊し、鴎進丸の錨鎖にブイを取り付けて海中に投下した。
衝突の結果、英和丸は、船橋左舷ウイング舷灯部に凹損を生じ、鴎進丸は、ファッションプレートに凹損、船首から左舷後部にかけてブルワーク及びハンドレールに凹損及び曲損、左舷ビルジキールに曲損、船首マストに曲損及びフェァリーダーに亀裂をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、更に鴎進丸は錨鎖5節半とともに左舷錨を失い、シ号は、船首から船尾にかけての右舷外板に凹損及び擦過傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、シ号が、名古屋港において錨泊中、強風波浪注意報発表後、走錨防止の措置が不十分で、増勢した強風を受けて定錨し、風下側に錨泊していた英和丸と鴎進丸に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が、夜間、名古屋港において、風圧面横の大きい自動車運搬船で単錨泊中、風勢が増勢してきたのを認めた際、錨鎖を十分に伸出し、機関を早めに準備するなど走錨防止の措置を取らなかったことは、本件発生の原因となる。同人に対しては勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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