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1998年(平成10年)

平成10年横審第38号
    件名
貨物船第十六住栄丸貨物船第壱宝来丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、勝又三郎、河本和夫
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:第十六住栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第壱宝来丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
住栄丸…左舷側前部外板に凹損及び亀裂を生じて浸水
宝来丸…球状船首部を圧壊

    原因
宝来丸…動静監視不十分、海交法の航法(避航動作)不遵守(主因)
住栄丸…海交法の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、航路を横断する第壱宝来丸が、動静監視不十分で、航路をこれに沿って航行する第十六住栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが第十六住栄丸が、衝突を避けるための協力動作をとる時機が遅きに失したことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年4月17日16時09分
浦賀水道航路
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十六住栄丸 貨物船第壱宝来丸
総トン数 479.24トン 385トン
全長 57.10メートル 52.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第十六住栄丸(以下「住栄丸」という。)は、船首部にジブクレーンを備えた砂利採取運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、建設残土1,100トンを載せ、船首3,3メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成7年4月17日14時42分京浜港横浜区第3区を発し、千葉県館山港に向かった。
A受審人は、出港操船を済ませた後、横浜ベイブリッジを航過したところで、一時、一等航海士に操船指揮を委ねたものの、浦賀水道航路北口手前で再び操船指揮に当たり、15時49分浦賀水道航路中央第6号灯浮標(以下、灯浮標については、「浦賀水道航路中央」を省略する。)の西方200メートルのところで同航路に入り、針路を145度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を航海全速力とし、折から北西流に抗し、9.0ノットの対地速力で、右舷側にある椅子に腰かけて遠隔操舵により進行した。
A受審人は、15時59分半第5号灯浮標を120メートル隔てて航過し、16時06分少し前自船の左舷側を巡視船が追い越していくのを見た後、椅子から離れ遠隔操舵の操作盤を持ち、船橋前面窓の近くに立って操船に当たっていたところ、同時06分第3海堡灯標から033度850メートルの地点に達したとき、左舷船首70度1,000メートルのところに第壱宝来丸(以下「宝来丸」という。)とその右方に同船の左舷側を並航する第三船を認め、いずれも航路を横断しようとしている態勢であるのを知ったが、そのまま続航した。
16時07分A受審人は、巡視船が自船を追い越した後、巡視船が吹鳴する短音5回の汽笛信号を聞き、同船の船尾方に宝来丸を認め、ほとんど方位が変わらないまま750メートルに接近し、第三船とは方位が、少しずつ替わっていたものの、両船とも航路に進入しており、宝来丸と衝突のおそれが生じていたが、汽笛を鳴らせば同船の方で避けるものと思い、警告信号を行い、その動静を監視していたところ、同時08分第4号灯浮標とほぼ一線上、左舷船首20度490メートルに第三船を見る状況で、宝来丸が同灯浮標の左方に依然方位が変らないまま400メートルになおも接近するので、ようやく衝突の危険を感じたものの、衝突を避けるための協力動作をとる時機を失しており、再度汽笛を吹鳴するとともに、遠隔操舵で右舵15度、次いで右舵一杯及び機関を全速力後進にかけたが及ばず、16時09分第3海堡灯標から083度940メートルの地点において、住栄丸は、船首が153度を向き、ほぼ原速力のままの左舷側前部に、宝来丸の船首がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期に当たり、付近には約1.4ノットの北西流があった。
また、宝来丸は、船首部にジブクレーンを備えた砂利採取運搬船で、B受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾30メートルの喫水をもって、同日14時30分京浜港東京区を発し、横須賀港浦賀に向かった。
B受審人は、発航操船に続き単独で操舵操船に当たり、東京東航路を経て、中ノ瀬航路の東外側をこれに沿って南下し、16時ごろ第2海堡灯台の東方400メートルばかりのところを航過したとき、浦賀水道航路外の東側をこれに沿う針路とし、機関を全速力前進にかけ、折からの北西流の影響を受け、10.7ノットの対地速力で進行した。
16時05分B受審人は、第3海堡灯標から045度1.0海里の地点に至り、船首が145度を向いていたとき、右舷正横少し後方に住栄丸ほか巡視船が南航していることに気付かないまま、北航船が見当たらなかったので、第4号灯浮標を右舷側に見ながら浦賀水道航路を横断することとし、少しずつ右転を始め、同時06分船首が195度を向いたとき、右舷船首60度1,000メートルのところに住栄丸を、その右方に同船を追い越す状況の巡視船を初めて認めたが、同船が住栄丸を追い越した後、巡視船の船尾に向けていけば住栄丸の前路を横断できるものと思い、その後、同船の動静監視を行わず、195度の針路のまま、同時06分半第3海堡灯標から058度1,600メートルの地点で同航路に進入し、同時に第三船が自船の左舷側にほぼ並んで入航したのを見た。
16時07分B受審人は、第3海堡灯標から064度1,500メートルの地点で第4号灯浮標を正船首少し右に見るよう、210度に針路を転じたとき、巡視船の吹鳴する汽笛音を聞き、同船は前路を無難に替わる態勢であったものの、住栄丸が右舷船首49度750メートルのところに接近し、衝突のおそれが生じていたが、依然このことに気付かず、浦賀水道航路をこれに沿って航行中の住栄丸の進路を避けることなく同航路を横断中、同時08分少し前自船の左舷側を同航していた第三船が右転して自船の前路に寄ってきたのを見て驚き、同時08分少し過ぎ右舵一杯とするとともに機関を急激に全速力後進に操作したが、機関が急停止したこともあって一時操縦不能となり、船首が243度を向いたとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住栄丸は、左舷側前部外板に凹損及び亀裂を生じて浸水し、左舷傾斜がひどくなったので、航路外に出て積荷を海中投棄するとともに、宝来丸の協力により瀬取りして沈没を免れ、宝来丸は、球状船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、浦賀水道航路において、第4号灯浮標付近で同航路を横断する宝来丸が、動静監視不十分で、同航路を航行中の住栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住栄丸が、自船の前路を横断する態勢で同航路に入ってきた宝来丸に対し、衝突を避けるための協力動作をとる時機を失したことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、浦賀水道航路を第4号灯浮標付近で横断しようとするに当たり、同航路内を南下する住栄丸は同船を追い越す状況の巡視船を認めた場合、安全に航路を横断できるかどうか、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、巡視船が住栄丸を追い越した後、巡視船の船尾に向けていけば、住栄丸の前路を横断できるものと思い、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれが生じていることに気付かず、同航路に進入して住栄丸との衝突を招き、住栄丸の左舷側前部外板に凹損及び亀裂を生じて浸水させ、宝来丸の球状船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、浦質水道航路を南下中、前路で同航路を横断する宝来丸を認め、衝突のおそれが生じたのを知った場合、速やかに衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、警告信号を行えば、同航路を航行中の自船を避けるものと思い、衝突を避けるための協力働作をとる時機が遅きに失した職務上の過失により、宝来丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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