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1998年(平成10年)

平成10年横審第35号
    件名
油送船第八山菱丸貨物船旭山衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、半間俊士、勝又三郎
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:第八山菱丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第八山菱丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:旭山船長 海技免状:四級海技士(航海)
D 職名:旭山一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
山菱丸…左舷側前部等に凹損
旭山…右舷船首部等に凹損

    原因
山菱丸、旭山…狭視界時の航法(速力、信号)不遵守

    主文
本件衝突は、第八山菱丸が、視界制限状態での運航が不適切であったことと、旭山が、視界制限状態での運航が不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月31日03時40分
房総半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 油送船第八山菱丸 貨物船旭山
総トン数 499.88トン 498トン
全長 62.90メートル 73.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 1,029キロワット
3 事実の経過
第八山菱丸(以下「山菱丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.30メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成8年5月30日10時00分宮城県石巻港を発し、千葉港に向かった。
A受審人は、23時30分ごろ自らの船橋当直を終え、次直の甲板長に同当直を引き継ぐ際、千葉県北部に濃霧注意報が発表されていることを知らなかったことから、霧模様であったものの、視程が1海里以上あるので大丈夫と思い、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に指示することなく、降橋した。
B受審人は、翌31日03時20分太東埼灯台から060度(真方位、以下同じ。)16.2海里の地点で、昇橋して単独の船橋当直を引き継ぎ、そのころから霧で視程が約100メートルに狭められたが、前直の甲板長から視界が悪化したときの報告の申し送りを何も受けなかったことから視界制限状態となったことを船長に報告せず、また、霧中信号を行うことも、安全な速力にすることもせず、針路を217度に定め、機関を全速力前進にかけ10.8ノットの対地速力のまま、左舷船首約2海里に同航の第三船のレーダー映像を認めながら、自動操舵で進行した。
B受審人は、03時23分少し前右舷船首5度6海里のところに旭山のレーダー映像を初めて認め、同時31分同映像を右舷船首9度3海里に見るようになり、旭山と著しく接近することとなる状況であることを知ったが、もう少し接近してから右転して同船と左舷を対して航過するつもりで、原針路、原速力のまま続航した。
B受審人は、03時34分半太東埼灯台から064度13.9海里の地点に達したとき、旭山の映像が右舷船首15度1.8海里に接近したのを認め、右転して針路を253度とし、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船が36度右転したので旭山と左舷を対して無難に航過できるものと思い、転針後レーダーによる動静監視を十分に行うことなく進行したので、このことに気付かず、針路を保つことができる最少限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航中、同時39分半同船のレーダー映像が中心輝点に異常に接近したのを見て驚き、右舵一杯としたが及ばず、03時40分太東埼灯台から063度12.8海里の地点において、310度に向首して原速力のままの山菱丸の左舷側前部に、旭山の右舷船首が、後方から30度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約100メートルであった。
A受審人は、衝撃で衝突に気付き、直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
また、旭山は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、C、D両受審人ほか3人が乗り組み、鉄屑(くず)1,513トンを載せ、船首3.63メートル船尾4.78メートルの喫水をもって、同月30日18時00分京浜港を発し、宮城県塩釜港に向かった。
C受審人は、23時ごろ自らの船橋当直を終え、次直の甲板長に同当直を引き継ぐ際、千葉県北部に濃霧注意報が発表されていることを知らなかったことから、霧もなかったので大丈夫と思い、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に指示することなく、降橋した。
D受審人は、翌31日02時50分太東埼灯台から112度6.3海里の地点で、昇橋して単独の船橋当直を引き継ぎ、そのころから霧で視程が約100メートルに狭められたが、前直の甲板長から視界が悪化したときの報告の申し送りを何も受けなかったことから視界制限状態となったことを船長に報告せず、また、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、針路を036度に定め、機関を全速力前進にかけ10.6ノットの対地速力のまま、自動操舵で進行した。
D受審人は、03時23分右舷船首5度5.8海里のところに山菱丸のレーダー映像を初めて認め、同時31分同映像を右舷船首10度3海里に見るようになり、同船と著しく接近することとなる状況であることを知ったが、同船に約2海里先航する反航の第三船のレーダー映橡を右舷前方に認めていたことから、原針路、原速力のまま続航した。
D受審人は、03時34分半太東埼灯台から066度12.1海里の地点に達したとき、第三船と右舷を対して無難に航過し終え、3海里レンジに切り替えたレーダーで山菱丸の映像が右舷船首161度1.8海里に接近したのを認め、同船との航過距離を更に離そうと左転して針路を031度とし、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、自船の左転により山菱丸との航過距離が広がり、右舷を対して無難にかわるものと思い、再びレーダーレンジを6海里に切り替え、転針後レーダーによる動静監視を十分に行うことなく進行したので、このことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航した。
D受審人は、03時39分山菱丸のレーダー映像が中心輝点に接近したのを見て驚き、C受審人に連絡し、左舵20度、続いて左舵一杯としたが及ばず、340度に向首して、前示のとおり衝突した。
C受審人は、山菱丸と異常接近している旨の報告をD受審人から船内電話で受け昇橋の途中、衝突の衝撃を感じ、直ちに事後の措置にあたった。
衝突の結果、山菱丸は、左舷側前部等に凹損を、旭山は、右舷船首部等に凹損をそれぞれ生じた。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が霧による視界制限状態の房総半島東方沖合を航行中、南下する山菱丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した旭山と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上する旭山が、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもせず、レーダーによる動静監視不十分で、前路に探知した山菱丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
山菱丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示不十分であったことと、船橋当直者の視界制限状態における報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。
旭山の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についの指示が不十分であったことと、船橋当直者の視界制限状態における報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、船橋当直を引き継ぎ降橋する場合、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に船橋当直者に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、濃霧注意報が発表されていること知らなかったことから、視程が1海里以上あるので大丈夫と思い、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に指示しなかった職務上の過失により、その後視界制限状態となったことが報告されず、船橋当直者の視界制限状態における措置が適切でなかったことに気付かないまま進行し、旭山との衝突を招き、山菱丸の左舷側前部に凹損を、旭山の右舷船首部等に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、霧で視界制限状態となった房総半島東方沖合を南下中、著しく接近することとなる態勢で反航する旭山のレーダー映像を右舷船首方に認め、左舷を対して航過しようと針路を右に転じた場合、同船と著しく接近することを避けることができるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右転したので左舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかうた職務上の過失により、その後著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、原速力のまま進行して旭山との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、船橋当直を引き継ぎ降橋する場合、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に船橋当直者に指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、千葉県北部に濃霧注意報が発表されていることを知らなかったことから、霧もなかったので大丈夫と思い、視界が悪化したときの報告の申し送りについて具体的に指示しなかった職務上の過失により、その後視界制限状態となったことが報告されず、船橋当直者の視界制限状態における措置が適切でなかったことに気付かないまま進行し、山菱丸との衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、夜間、視界制限状態となった房総半島東方沖合を北上中、著しく接近することとなる態勢で反航する山菱丸のレーダー映像を右舷船首方に認め、同船との航過距離を更に離そうと針路を左に転じた場合、同船と著しく接近することを避けることができるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、山菱丸に先航する第三船も右舷を対して航過したし、自船が左転したので右舷を対して無難に航過できるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後山菱丸と著しく接近することを避けることができない状況となっていることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、原速力のまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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