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1998年(平成10年)

平成10年仙審第30号
    件名
漁船第二十八黄金丸漁船第三あづま丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

供田仁男、高橋昭雄、今泉豊光
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第二十八黄金丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第三あづま丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
あづま丸…船首部に凹損
黄金丸…船尾部を分断

    原因
原因あづま丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
黄金丸…見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三あづま丸が、見張り不十分で、漁労に従事している第二十八黄金丸を避けなかったことによって発生したが、第二十八黄金丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月13日09時20分
宮城県御崎岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八黄金丸 漁船第三あづま丸
総トン数 16.19トン 8.73トン
登録長 14.62メートル 11.81メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 110 90
3 事実の経過
第二十八黄金丸(以下「黄金丸」という。)は、船体後部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、かに籠(かご)漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成8年9月13日03時00分宮城県大谷漁港を発し、御崎岬東方沖合の漁場に向かった。
かに籠漁は、長さ1メートル、幅及び高さ各50センチメートルの折畳式の籠に長さ3メートルの枝縄を結び、これを長さ1海里の幹縄に15メートル間隔で取り付けた漁具を1組とし、広げた籠にえさを入れて海底に直線状に設置しておき、一定時間が経過したのち、幹縄を揚縄機で巻き上げて船上に取り込んだ籠からかにを取り出し、1組の揚籠を終えるたびに、これを再び投籠するものであった。そして、揚籠中は1分半ごとに1籠が揚がり、その間、機関を中立運転として停留し風潮流の影響で船首方向が振れたときなどには、機関と舵を使用して自ら移動することもあった。
A受審人は、4組の漁具を水深170メートルの等深線に沿って南北方向に設置しており、05時00分漁場に着き、操舵室からコードを伸ばして機関及び舵の遠隔操作装置を前部甲板上に備え、直ちに揚籠を開始し、船首端から3メートル後方の右舷側舷縁上に設けられたローラを介してその1メートル内方の甲板上に装備された揚縄機に幹縄を導き、乗組員と1籠ごとの交代で、籠を舷縁を替わして船上に取り込み、投籠に備えてえさを入れ、畳んで甲板上に順に並べてゆく手順で作業を行い、2組の揚籠及びこれに続く投籠を終え、08時55分3組目の揚寵にかかった。
09時18分半A受審人は、陸前御崎岬灯台から084度(真方位、以下同じ。)10.7海里の地点で、漁労に従事していることを示す形象物を掲げないまま、船首を340度に向け、停留して揚籠を行っていたとき、ほぼ右舷正横500メートルに自船に向けて来航する第三あづま丸(以下「あづま丸」という。)を視認することができ、その後衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となった。
しかし、A受審人は、近づく他船がいても漁労に従事している自船を避けてくれるものと思い、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、あづま丸に対して警告信号を行うことも、更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもしないで、乗組員と共に揚籠作業を続けた。
09時20分わずか前A受審人は、右舷正横至近に迫ったあづま丸を初めて認め、衝突の危険を感じて直ちに機関を前進にかけたが及ばす、09時20分前示停留地点において、黄金丸は、船首が340度を向いたまま、わずかに前方に動いたとき、その右舷後部にあづま丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、あづま丸は、船体後部に操舵室を有するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かに籠漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日04時00分宮城県日門(ひかど)漁港を発し、御崎岬東方沖合の漁場に向かった。
06時00分B受審人は、漁場に着いて直ちに操業を開始し、設置しておいた2組の漁具の揚籠及び投寵を行い、かに45キログラムを捕獲して操業を終え、操舵室で操船にあたり、09時10分陸前御崎岬灯台から082度12.5海里の地点を発進すると同時に、針路を250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で日門漁港に向け帰途に就いた。
針路を定めたとき、B受審人は、前方を短時間見ただけで他船を見かけなかったので、捕獲したかにの生きのよいうちに出荷に備えて箱詰めすることとし、操業中にかにを入れておいたプラスチック製箱を前部甲板から操舵室後方の船尾甲板に運び、同甲板上で氷の入った発泡スチロール製箱に詰め替える作業を始めた。
09時18分半B受審人は、陸前御崎岬灯台から084度11.0海里の地点に至ったとき、ほぼ正船首500メートルに右舷側を見せて停留している黄金丸を視認することができ、同船に何ら形象物が掲げられていなかったものの、舷側で巻き上げられる幹縄や前部甲板上の乗組員の動作によって漁労に従事していることが分かり、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況となった。
しかし、B受審人は、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、依然として船尾甲板上でかにの箱詰め作業を続け、黄金丸を避けずに進行中、あづま丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、あづま丸は船首部に凹損を生じ、黄金丸は船尾部を分断されたが自力で大谷漁港に帰港し、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、御崎岬東方沖合において、あづま丸が、見張り不十分で、停留して漁労に従事している黄金丸を避けなかったことによって発生したが、黄金丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、漁場から帰航する場合、前路で停留して漁労に従事している黄金丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、帰途に就いたとき周囲を短時間見ただけて前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、黄金丸に気付かず、これを避けないまま進行して衝突を招き、同船の船尾部を分断させ、あづま丸の船首部に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、停留してかに籠漁の揚龍を行う場合、右舷方から接近するあづま丸を見落とすことのないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、近づく他船がいて漁労に従事している自船を避けてくれるものと思い、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、あづま丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近しても衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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