|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月22日17時10分 北海道苫小牧港港外 2 船舶の要目 船種船名
油送船栄和丸 総トン数 699トン 全長 76.648メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,323キロワット 3 事実の経過 栄和丸は、船尾船橋型の油送船で、A受審人ほか7人が乗り組み、A重油1.000キロリットルを積み、船首2.75メートル船尾4.35メートルの喫水をもって、平成9年8月22日12時40分室蘭港を発し、苫小牧港に向かった。 ところで、苫小牧港港外の苫小牧港東外防波堤灯台(以下「東外防波堤灯台」という。)から217度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点には沈船が存在し、同地点に沈船位置を示すため点滅式黄色灯付浮標1個を海上保安部が設置していたほか、沈船の引揚を請け負った深田サルベージ建設株式会社が航行安全確保のため作業区域を設定し、イ地点として東外防波堤灯台から224度4.627メートル、ロ地点としてイ地点から090度300メートル、ハ地点としてロ地点から180度30メートル、ニ地点としてハ地点から180度150メートル、ホ地点として二地点から270度300メートル、ヘ地点としてホ地点から000度150メートルの各地点に私設のゼニライトブイと称する点滅式黄色灯付浮標を設置し、それらに囲まれた内側が作業区域となっていた。 A受審人は、前回の苫小牧港入航の際、代理店から航行水域にある沈船の位置情報を入手して使用海図の第1034号(室蘭港至苫小牧港)に沈船位置を記入し、また、その付近を航行したとき沈船引揚の作業区域を示す私設灯浮標が設置されているのを認め、同海図に危険水域として沈船位置を囲む半径約500メートルの円を記入していた。 A受審人は、室蘭港発航時から操船の指揮に当たり、16時07分アヨロ鼻灯台から089度8.5海里の地点に達したとき針路をほぼ苫小牧港に向首する050度に定め、機関を全速力にかけ11.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。 17時04分半A受審人は、東外防波堤灯台から223度3.5海里ばかりの地点を一等航海士を操舵、機関長と一等機関を見張りにそれぞれ当たらせて続航していたとき、前示の作業区域が正船首方約1海里となっていたが、海上は強風で一面に白波が立って波も高く、海面付近は見えにくい状況であったものの、同区域は、ゼニライトブイを目視してから替わせばよいものと思い、船位の確認をしなかったので、同区域に向首していることに気付かなかった。 A受審人は、その後、なおも船位を確認することなく作業区域を替わす措置をとらないまま進行し、17時09分同水域に進入したのち左舷船首方至近に海上保安部設置の灯浮標を視認し、これを替わそうとして右舵一杯を取らせて右転中、17時10分東外防波堤灯台から219度2.5海里の地点において、栄和丸は、船首が120度を向いたとき、同水域東側の前示ハ地点に設置されていた私設灯浮標の係止索に衝突した。 当時、天候は雨で風力5の南東風が吹き、日没時刻は18時25分で、潮候は高潮時であった。 衝突の結果、栄和丸はプロペラ翼を曲損し、私設灯浮標の係止索が切断して同浮標1個が流失した。
(原因) 本件私設灯浮標衝突は、北海道苫小牧港港外において、船位不確認で、沈船の引揚作業区域を示す浮標に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、苫小牧港に入航する場合、同港の港外には沈船が存在し、その位置とともに沈船の引揚作業区域を私設灯浮標の設置状況を知っており、海上は一面に白波が立って波も高く、海面は見えにくい状況にあったのであるから、同区域に進入することのないよう、船位の確認を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同区域は同浮標を目視してから替わせばよいものと思い、船位の確認を行わなかった職務上の過失により、同区域に進入して同浮標と衝突を招き、自船のプロペラ翼を曲損し、同浮標1個を流失させるに至った。 |