日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年長審第33号
    件名
漁船第二十八千早丸漁船和栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、原清澄、坂爪靖
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:第二十八千早丸船長 海技免状:一級小型船船舶操縦士
B 職名:和栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
千早丸…船首ハンドレール及びバルバスバウに圧損
和栄丸…左舷外板に2箇所の破口及び操舵室を圧壊、のち廃船

    原因
千早丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
和栄丸…動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二十八千早丸が、見張り不十分で、漂泊中の和栄丸を避けなかったことによって発生したが、和栄丸が動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月13日17時30分
長崎県野母埼西北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八千早丸 漁船和栄丸
総トン数 19トン 13.61トン
登録長 19.83メートル 14.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 130
3 事実の経過
第二十八千早丸(以下「千早丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、平成8年9月9日16時00分長崎県三重式見港を発し、男女群島南西方65海里ばかりの漁場に至り、やりいか約1.5トンを獲て、船首1.20メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、同月13日05時00分同漁場を発進して帰途についた。
A受審人は、発進後間もなく航海当直を乗組員に委ねて休息をとったのち、11時04分女島灯台から141度(真方位、以下同じ。)5.0海里の地点で航海当直に就き、針路を051度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、船首が浮上して船首死角を生じた状態で、操舵室内後部に設けた板張り台に腰掛け、1人で見張りに当たって自動操舵により進行し、17時00分伊王島灯台から249度21.3海里の地点に達し、その後も同一の針路、速力で、同じ姿勢のまま続航した。
17時24分A受審人は、伊王島灯台から252度17.6海里の地点に達したとき、野母埼沖から来航する貨物船を右舷船首前方に視認したので、板張り台から操舵室右舷側の窓際に赴き、立って同船の監視を続けていたところ、同時27分正船首1,000メートルのところに、漂泊中の和栄丸を視認することができ、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近する状況となったが、貨物船のほか前路に他船はいないものと思い、左右両舷側から前方を確認したり、レーダーを活用したりするなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま、貨物船の動静監視に専念し、和栄丸を避けることができずに進行した。
17時30分わずか前A受審人は、貨物船が十分な距離を隔てて無難に替わることを確かめたのち、ふと前方に視線を移したところ、船首部の陰から現れた和栄丸の船尾部を至近に認め、驚いて機関を中立としたが、及ばず、17時30分伊王島灯台から254度16.6海里の地点において、千早丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、和栄丸の左舷側中央部に、後方から51度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
また、和栄丸は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.55メートルの喫水をもって、同月13日15時00分三重式見港を発し、僚船と2隻で漁場に向かった。
B受審人は、前日操業して釣果のあった野母埼西北西方13海里ばかりの地点を僚船に譲り、同船と互いに距離を隔てるため更に3海里ばかり北西方に進行し、17時10分前示衝突地点に至り、船首からパラシュート型シーアンカーを投じて漂泊を始め、日没まで待機することとした。
漂泊開始後B受審人は、船首がほぼ000度に向いて安走したのを認め、機関室に赴いて機関を停止し、静かな状態となった操舵室に戻り、舵輪後方の板張り台に上がり、右舷側壁に背をもたれて足を投げ出した姿勢で、同室内左舷側後部に設置されたテレビジョンで大相撲の実況放送を見ていたところ、17時27分左舷船尾51度1,000メートルのところに、自船に向首する千早丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となり、やがて接近する千早丸の機関音を聞くようになったが、接近する他船が漂泊中の自船を避けるものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、千早丸に対する動静監視を十分に行うことなく、千早丸力が自船に向首したまま接近していることに気付かないまま、注意喚起信号を行うことも衝突を避けるための措置もとることができず、大相撲の観戦に熱中していた。
17時30分少し前B受審人は、機関音がひときわ大きくなったので、ようやく立ち上がって左舷側出入り口の窓越しに千早丸を認めたが、何らの措置をとる暇もなく、船首を000度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、千早丸は、船首ハンドレール及びバルバスバウに圧損を生じたが、のち修理され、和栄丸は、左舷外板に2箇所の破口及び操舵室を圧壊し、のち廃船された。

(原因)
本件衝突は、長崎県野母埼西北西方の広い海域において、漁場から帰航中の千早丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の和栄丸を避けなかったことによって発生したが、和栄丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県野母埼西北西方の広い海域を、船首が浮上して前方に死角を生じた状態で航行する場合、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、左右両舷側から前方を確認したり、レーダーを十分に活用したりするなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷船首前方に視認した貨物船のほかに前路に他船はいないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷謄船首前方の動静監視に専念して進行し、和栄丸に気付かないまま、同船を避けることができずに衝突を招き、自船が船首部を圧損し、和栄丸が廃船となる結果を生じるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県野母埼西北西方の一般船舶などが通航する広い海域において、操業待機のためにシーアンカーを投入して漂泊中、接近する他船の機関音を聞くようになった場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を扮に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、接近する他船が漂泊中の自船を避けるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、操舵室内に設置したテレビジョンの大相撲観戦に熱中したまま、注意喚起信号を行うことも、千早丸との衝突を避けるための措置をとることもできずに衝突を招き、前示結果を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION