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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年4月27日23時08分 熊本県四季咲岬北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第五十八三社丸 総トン数 306トン 全長 52.90メートル× 機関の種類
ディーゼル機関 出力 625キロワット 船種船名 漁船第二十八まるしょ丸 漁船第一まるしよ丸 総トン数 19.25トン 19トン 登録長
17.10メートル 17.49メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 漁船法馬力数 190 160 3 事実の経過 第五十八三社丸(以下「三社丸」という。)は、航行区域を近海区域とする鋼製廃棄物排出船A、B両受審人のほか3人が乗り組み、産業廃棄物580キロリットルを積載し、船首2.60メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成7年4月27日17時40分佐賀県諸富町にある味の素株式会社九州工場岸壁を発し、その後、法定灯火を点灯して長崎県男女群島女島南方沖合の廃棄物投棄場に向かった。 A受審人は、島原湾から早崎瀬戸を経て天草下島北方海域に至り、22時51分半五通礁灯標から292度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、針路を235度に定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、折からの順流に乗じて11.6ノットの対地速力で進行し、その後、右舷船首方約3海里に数隻の漁船の灯火を視認しながら続航した。 ところで、A受審人は、船橋当直を行うにあたり、他船が発する音響信号等を容易に聴取できるよう、操舵室の窓を一部開放するなどの指示をせず、自らもこれを実行していなかった。 22時57分半A受審人は、五通礁灯標から266度2.3海里の地点に達したとき、漁船群に2海里ばかりまで接近したので、B受審人を操舵にあたらせ、漁船群のうち第二十八まるしょ丸(以下「二十八号」という。)と第一まるしよ丸(以下「一号」という。)の両船をやや右舷側に見て手動操舵で進行した。 B受審人は、両船に1海里ばかりまで接近したとき、両船の操業状況がよく分からなかったが、二十八号のマストに点灯しだ紅灯を一瞥(べつ)しただけで、同灯火が同船の左舷灯と思い、同船と一号との間を無難に航過できるものと判断し、引き続き漁船群を監視して両船の操業状況を確認することなく、A受審人の許可を得ないで、針路を両船のほぼ中間に向く240度に転じて続航した。 A受審人は、B受審人が針路を右に5度転じたのを黙認し、23時03分少し前四季咲岬灯台から045度2.7海里の地点に達したとき、左舷船首方1海里に二十八号の紅、白、紅3灯と多数の作業灯を、右舷船首方1海里に一号の紅、白2灯と、紅色及び黄色点滅灯各2灯並びに多数の作業灯を視認する状況となったのを認め、240度に向首した一号の左舷側から同船の正横方向、150度に向首して裏こぎ中の二十八号とのほぼ中間に向く状況となっていたものの、両船の操業状況がよく分からないまま進行した。 A受審人は、自船が原針路のまま続航すれば、裏こぎロープに衝突するおそれがある態勢で接近していたが、両船とも作業灯の灯火で航海灯などが確認できなかったことから、停留して単独で操業中の漁船であり、両船の間を無難に航過できるものと思い、引き続き漁船群を監視して両船の操業状況を確認することなく、漁労中の二十八号と一号を避けないまま進行した。 23時07分半ごろA、B両受審人は、一号からサイレンで警告されたが、操舵室の窓を全て閉め切っていたこともあって、これに気付かず、その後、二十八号からもエアーホーンで警告されたが、これにも気付かず、依然として両船を避けないまま続航した。 三社丸は、原針路、原速力のまま進行中、23時08分四季咲岬灯台から035度1.75海里の地点において、その船首が二十八号と一号のほぼ中間において、裏こぎロープにほぼ直角に衝突した。 当時、天侯は晴で風力の南南西風が吹き、潮候は下げ潮のほぼ中央期で、視界は良好であった。 また、二十八号は、一号とともに中型まき網漁業に従事するFRP製漁獲物運搬船で、C受審人ほか2人が乗り組み、喫水不詳のまま、同日16時30分熊本県牛深巷を発し、同県四季咲岬北方沖合の漁場に向かった。 一方、一号は、鋼製網船で、D受審人が漁労長のE指定海難関係人ほか13人と乗り組み、操業の目的で、船首1.20メ1一トル船尾3.00メートルの喫水をもって、同日17時30分灯船2隻及び運搬船2隻を伴って牛深港を発し、19時40分四季咲岬北方沖合の漁場に至り、先着していた二十八号も加えて操業を開始した。 ところで、操業を開始するにあたり、二十八号は、航海灯と前部マストの頂部に紅色全周灯を点灯したほか多数の作業灯を,点灯し、一号は、法定の航海灯のほか船橋上部のマストに頂部から順に紅色点滅灯と黄色点滅灯を点灯し、船橋の周囲に1キロワットの照明灯を7個、船尾部に多数の作業灯を点灯していた。また、D受審人は、操業の指揮をE指定海難関係人に委ねることにし、操業時のまき網漁業船団の慣習にしたがって甲板上で甲板作業に従事することとした。 E指定海難関係人は、操舵室内で操業の指庫を執り、22時40分ごろ衝突地点付近に至っで漂泊し、船首を240度に向け、二十八号に自船の左舷側を正横方向に裏こぎするよう指示し、揚網作業に取りかかった。 C受審人は、E指定海難関係人から裏こぎを指示され、船尾から直径36ミリメートル、長さ180メートルの化学繊維製の裏こぎ用ロープを繰り出して一号の左舷中央部に取り、船首を150度に向け、機関を極微速力前進にかけて裏こぎを始めた。 23時03分少し前E指定海灘関係人は、左舷船尾方1海里のところに、自船と第二十八号のほぼ中間に向けて接近する三社丸の白、白2灯と右舷灯を視認できる状況となったものの、揚網中で多数の作業灯を点灯していたこともあって、周囲の状況把握が妨げられて接近する同船に気付かなかった。また、裏こぎを始めたC受審人も同時03分少し前左舷方1海里ばかりに、裏こぎロープに向けて接近する三社丸の白、白2灯と左舷灯を視認できる状況となったものの、自船も多数の作業灯を点灯していたところから、一号と同様に周囲の状況把握が妨げられて接近する同船に気付かないまま、裏こぎを続けた。 23時07分半E指定海難関係人は、灯船の船長から裏こぎロープに向けて接近する他船がいる旨の報告を受け、三社丸の白、緑2灯を左舷船尾25度200メートルばかりに初めて視認し、直ちにサイレンを吹鳴して警告し、また、23時08分少し前C受審人も同船の白、紅2灯のほか船内の明かりを左舷船尾45度100メートルばかりに初めて視認し、直ちにエアーホーンを吹鳴し、接近する三社丸に対して衝突の危険を知らせたが、及ばず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、三社丸と一号は、ともに損傷がなかったが二十八号は、右舷側に転覆するとともに裏こぎロープが切断し、僚船によって牛深港に引き付けられ、のち修理された。また、二十八号の乗組員全員は海中に投げ出されたが、僚船によって救助された。
(原因) 本件漁具衝突は、夜間、三社丸が、熊本県四季咲岬北方沖合において、前路でまき網漁業に従事する二十八号と一号の、操業状況に対する確認が不十分で、漁労中の両船を避けず、両船の間に展張された裏こぎロープに向首進行したことによって発生したものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、熊本県四季咲岬沖合において、前路で多数の灯火を、点灯した漁船群を認めだ場合、漁船の操業内容がよく分からなかったのであるから、引き続き漁船群を監視してその操業状況況を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、二十八号と一号の間を無難に航過できるものと思い、操業状況を確認しなかった職務土の過失により、漁労中の両船を避けないまま進行して裏こぎロープとの衝突を招き、二十八号を転覆させ、同ロープを切断するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、熊本県四季咲岬沖合において、前路で多数の灯火を点灯した漁船群を認めた場合、漁船の操業内容がよく分からなかったのであるから、引き続き漁船群を監視してその操業状況を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、二十八号がマストに点灯しだ紅灯を一瞥しただけで同船の左舷灯と思い、操業状況を確認しなかった職務上の過失により、漁労中の両船を避けないまま進行して裏こぎロープとの衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第順第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 D受審人の所為は、本件発生の原因とならない。 E指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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