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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年7月3日11時25分 沖縄県糸満漁港 2 船舶の要目 船種船名 漁船弥生丸
漁船幸丸 総トン数 4.6トン 0.64トン 全長 12.04メートル 8.20メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
235キロワット 漁船法馬力数 4 3 事実の経過 弥生丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船であり、A受審人が1人で乗り組み、機関修理後の試運転の目的で、船首0.0メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成9年7月3日11時15分沖縄県糸満漁港を発し、漁港外へ向かった。 ところで、弥生丸は、遠隔の操舵操縦装置が船首甲板と船尾甲板右舷側の2箇所に設置されており、船尾甲板右舷側で操船に当たるときには、船橋及びその左舷方の便所の囲壁により正船首から左舷70度ばかりにわたって死角となることから、ときどき船首を左右に振るなり、左舷側に移動して左舷前方を見る必要があった。 A受審人は、離岸後船首甲板で操船に当たり、11時22分工一ジナ島三角点(以下「三角点」という。)から005度(真方位、以下同じ。)2,380メートルの地点で、針路を201度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、そのころ前路の防波堤外に他船を見かけなかったことから、船尾甲板右舷側の操船位置に移動し、修理したばかりの機関の作動状況を点検しながら続航した。 11時23分少し過ぎA受審人は、三角点から002度1,990メートルの地点を通過したとき、左舷船首4度270メートルばかりのところに、第2防波堤から拡延するさんご礁の南縁とクラントガイと称する浅礁の北縁とにより形成された可航幅約160メートルの水路(以下「西水路」という。)を西行する幸丸が存在したけれども、これを視認しないまま進行し、やがて、同船を右舷船首に認め得るようになったが、機関の作動状況に気をとられて、見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かなかった。 11時24分わずか前A受審人は、三角点から000度1,810メートルの地点に達したとき、針路を西水路に沿う254度に転じ、そのころ幸丸を左舷船首18度150メートルのところ認められる状況で、その後先航する同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、転針前右舷前方となっていた幸丸に気付かなかったこともあって、依然前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどの左舷前方の死角を補う十分な見張りを行わなかったので、幸丸に気付かず、その進路を避けることなく続航中、11時25分三角点から349度1,760メートルの地点において、原針路、原速力のままの弥生丸の船首が、幸丸の右舷後部に後方から13度の角度で衝突し、乗り切った。 当時、天候は晴で風力4の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 A受審人は、衝撃によって衝突に気付き、直ちに機関を停止し、衝突現場に引き返して事後の措置に当たった。 また、幸丸は、定置網漁業に従事する木製漁船であり、B船長が1人乗り組み、操業の目的で、船首尾とも0.25メートルの喫水をもって、同日08時50分糸満漁港を発し、同漁港南方のシラマグチと称する浅礁寸近の漁場に至って建干網を設置したのち、11時20分同漁場を発進し、西水路を経由する北側の漁場への移動を開始し、クラントガイを左舷に見て北上した。 11時23分少し過ぎB船長は、船尾甲板で操船に当たり、三角点から000度1,740メートルの西水路東側の入口に達したとき、同水路の途中から北方へ枝分かれした水路に入ることから、西水路をわずかに斜航する267度の針路に定め、6.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 11時24分わずか前B船長は、三魚点から356度1,740メートルの地点に差し掛かったとき、西水路に沿う針路に転じた弥生丸を右舷正横後60度150メートルのところ認められる状況となり、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近し、同時24分半80メートルばかりとなったが、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、弥生丸は、船首から右舷側中央部に至る船底に凹損及び擦過傷を生じたのみであったが幸丸は、右舷後部外板に亀(き)裂を伴う損傷を、機関に圧壊及び濡れ損をそれぞ生じた。また、A受審人は救助中に飲んだ海水により肺炎敗血症及び急性呼吸不全を患い、3箇月の入院加療を要し、B船長(昭和12年3月15日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は弥生丸のプロペラにより右足を切断されて失血死した。
(原因) 本件衝突は、沖縄県糸満漁港において、出航中の弥生丸が、見張り不十分で、同船が追い越す態勢の幸丸の進路を避けなかったことによって発生したが、幸丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、船尾甲板右舷側で操船に当たって糸満漁港を出航する場合、左舷前方が大きな死角のため見通せない状況であったのであるから、幸丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどの死角を補う十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首甲板で操船していたとき防波堤外に他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、死角を補う十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、西水路を先航する幸丸に気付かず、同船と衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったとき、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行して衝突を招き、弥生丸の船底に凹損及び擦過傷を、幸丸の右舷後部外板に亀裂を伴う損傷と機関の圧壊及び濡れ損をそれぞれ生じさせ、自身が肺炎敗血症及び急性呼吸不全を患い、B船長を右足切断による失血死させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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