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1998年(平成10年)

平成10年那審第22号
    件名
漁船弥生丸漁船徳丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

井上卓、東晴二、小金沢重充
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:弥生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
弥生丸…両舷中央部の外板及び左舷魚倉を破損
徳丸…船首外板及び船底外板を小損

    原因
徳丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
弥生丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、徳丸が、見張り不十分で、漂泊中の弥生丸を避けなかったことによって発生したが、弥生丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置を取らなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月4日12時00分
沖縄島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船弥生丸 漁船徳丸
総トン数 4.60トン 2.07トン
全長 11.30メートル 10.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 235キロワット 115キロワット
3 事実の経過
弥生丸は、まぐろ等の一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.30メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、平成8年3月3日02時00分沖縄県糸満漁港を出港し、04時30分沖縄島喜屋武埼南方20海里の浮魚礁周辺海域に至って操業を開始し、その後北上しながら操業を行った。
A受審人は、病後で体調がすぐれなかったことから早めに操業を切り上げることとし、まぐろ等約150キログラムを漁獲したのち、翌4日10時30分喜屋武埼灯台から183度(真方位、以下同じ。)14海里の地点を発し、糸満漁港向け帰途に就いた。
11時30分A受審人は、喜屋武埼灯台から203度5海里の地点に達したとき、糸満漁港まで約1時間の距離となり、急いで入港する必要もなかったことから、魚倉を洗うことを思い立ち、機関を停止回転とし、漂泊を開始した。
11時57分A受審人は、船首がほぼ西方に向いていたとき、左舷方1,500メートルのところに、自船に向かう態勢の徳丸を視認できる状況となった。しかし、同受審人は、魚倉の清掃に気を取られて周囲の見張りを行わなかったので、徳丸の存在にもその後自船に向首したまま接近することにも気付かず、漂泊を続けた。
A受審人は、その後徳丸が自船を避けないまま接近したが、依然として見張りを行わなかったので、このことに気付かず、11時59分少し過ぎ徳丸が300メートルばかりに接近したが、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらないでいるうち、12時00分喜屋武埼灯台から203度5海里の地点において、270度に向首した弥生丸の左舷側中央部に、徳丸の船首が後方から85度の角度で衝突した。
当時、天侯は晴で風力1の北風が吹き、視界は良好であった。
また、徳丸は、まぐろ等の一本釣り漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.20メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成8年3月4日02時30分糸満漁港を出港し、04時30分喜屋武埼南方20海里の浮魚礁周辺海域に至って操業を開始した。
B受審人は、病気療養中で体調が十分でなく、しいら、かつおなど約150キログラムを漁獲したところで疲れを感じたので操業を中止し、11時00分喜屋武埼灯台から182度20海里の地点を発し、針路を喜屋武埼付近さんご礁の西方に向首する355度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、徳丸は、操舵室右舷側の操舵装置の後方に当直用のいすを備えていたが、全速力前進に増速すると船首部が浮上し、いすに腰掛けて見張りを行うと、右舷船首約8度から左舷船首約12度にかけて死角が生じるので、時々立ち上がって前方を見るなどの死角を補う見張りを行う必要があった。
B受審人は、漁場を発して5分間ほど、操舵室で立って見張りを行っていたが、本船近くの海域を航行する船舶を認めなかったのでいすに腰掛け、船首部に死角が生じた状態で続航した。
11時57分、B受審人は、喜屋武埼灯台から188度9.5海里の地点に達したとき、正船首1,500メートルのところに、左舷側を見せる状態の弥生丸を視認できる状況となった。しかし、同受審人は、平素この時間帯に航行する漁船は少なかったことから前路に他船はいないものと思い、立ち上がって前方を見張るなどの死角を補う見張りを行わなかったので、弥生丸の存在にも同船が標泊していることにも気付かなかった。
B受審人は、その後弥生丸に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近したが、依然としていすに腰掛け、死角を補う見張りを行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないで進行中、12時00分わずか前、船首死角部の右舷方に弥生丸の船尾部を初めて認め、急ぎ機関を後進としたが及ばず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弥生丸は両舷中央部の外板及び左舷魚倉を破損し、徳丸は船首外板及び船底外板を小損し、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、沖縄島南方沖合において、漁場から沖縄県糸満漁港へ向けて航行中の徳丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の弥生丸を避けなかったことによって発生したが、弥生丸が、見張り不十分で、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、沖縄島南方沖合において、操業を早めに終えて沖縄県糸満漁港へ帰港中、操舵室右舷則に設けたいすに腰掛けて見張りを行う場合、船首の一部に列角が生じて船首方の見通しが妨げられた状態であったのだから、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、時々立ち上がって死角を補うなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素この時間帯に航行する漁船は少なかったことから、前路に他船はいないものと思い、時々いすから立ち上がって死角を補うなどの、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の弥生丸を避けることなく進行して衝突を招き、徳丸の船首外板及び船底外板に小損を、弥生丸の両舷中央部外板及び左舷魚倉に破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、沖縄島南方沖合において、機関を停止回転として漂泊し、魚倉の清掃を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚倉の清掃に気を取られて周囲に対する十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、機関を使用するなど衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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