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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月26日18時50分 福岡県唐泊漁港 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三小呂丸 総トン数 19トン 全長 22.7メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 190 3 事実の経過 第三小呂丸(以下「小呂丸」という。)は、福岡県福岡市西区小呂島漁港から同市博多港に専ら鮮魚などを運ぶ、FRP製漁獲物運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、鮮魚約2トンを載せ、平成9年12月26日16時55分小呂島漁港を出港して博多港に向かう途中、同市西区唐泊漁港に寄港して同漁港の第1号岸壁で積荷の一部を揚荷したのち、船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、18時47分同岸壁を離れ、目的港に向かった。 ところで、唐泊漁港は、福岡湾の西方に位置する港で、その防波堤入口が、南側の第1号防波堤(以下「防波提」という。)の先端と、その北西側の第4号防砂堤(以下「防砂堤」という。)の先端に挟まれた幅100メートルの南西方に開いた水域で、同防波堤の先端部には赤色光の唐泊港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が、防砂堤の先端部には緑色光の仮設灯柱(以下「防砂提灯柱」という。)が設置されていた。 発航後、A受審人は、操舵室の右側に腰掛けて単独で操舵と見張りに当たり、防波堤灯台から022度(真方位、以下同じ。)350メートルの地点で、針路を防波堤入口の中央に向く211度に定め、機関を微速力前進にかけ、3.4ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、夜間に唐泊漁港から出航することは初めてであったものの、昼間に頻繁に出入航していてその水路事情に精通しており、防波堤入口の状況も良く知っていたので、右舷船首方の防砂堤灯柱の灯光を目測して、船位を確認しながら続航した。 18時49分半少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から355度85メートルの地点に達したとき、左転して防波堤入口を出ようとしたが、転舵方向の見張りを十分に行うことなく、右舷船首方の防砂提灯柱の灯光だけを見て目見当し、左舷方の防波堤を確かめないまま、大角度で左転しても防波堤の先端を無難に替わすことができると思い、左舵一杯をとって機関の回転数を上げ、8.0ノットの対地速力に増速し、防波堤先端部に向かう状況となって進行した。 A受審人は、18時50分わずか前、防波堤に向かっていることに気付かないまま、舵を中央に戻したところ、18時50分防波堤灯台から013度10メートルの防波堤先端部に、船首が127度を向いてほぼ直角に衝突した。 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候はほぼ上げ潮の末期であった。 A受審人は、船首に衝撃を受けたので機関を後進にかけて後退したとき、初めて防波堤灯台の灯光を認め、防波堤に衝突したことを知り、第4号岸壁に戻って航行が可能であることを確かめて目的港に向かい、荷揚げを終了したのち、翌日、造船所に回航して修理された。 衝突の結果、船首部の球状船首を破損し、乗組員1人が顔面に裂傷を負った。
(原因) 本件防波堤衝突は、夜間、福岡県唐泊漁港の防波堤入口を出航中、転舵方向の見張りが不十分で、大角度で左転し、防波堤の先端部に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で操船と見張りに当たり、福岡県唐泊漁港の防波堤入口を出航する場合、防波堤に衝突することのないよう、防波堤灯台の灯火を目視したり、作動中のレーダーで防波堤を確かめるなど、転舵方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、右舷船首方の防砂提灯柱の灯火を見て目見当し、大角度で左転しても防波堤の先端を無難に替わすことができると思い、転舵方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、防波堤を確かめないまま左舵一杯をとり、その先端部に向かって進行し、防波堤との衝突を招き、小呂丸の船首部に破損を生じさせるとともに、乗組員1人の顔面に裂傷を負わせるに至った。 |