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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月10日09時20分 鹿児島県串木野港西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第六十八福栄丸
漁船明丸 総トン数 192トン 0.8トン 全長 42.40メートル 登録長
5.98メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット 漁船法馬力数 25 3 事実の経過 第六十八福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、漁獲物運搬に従事する鋼製漁船で、有資格の船長が乗りり組まず、A指定海難関係人が船長として乗船し、ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、活魚積みの目的で、平成9年1月9日12時00分大分県保戸島漁港を発し、熊本県宮野河内湾に向かった。 ところで、A指定海難関係人は、福栄丸の船舶所有者として、同船に有資格の船長を乗り組ませる必要があったが、当時同人が運航する船舶が1隻増加したこと、退職者があったこと及び乗組員の正月休暇の付与等により、一時的に船長の配乗1に支障をきたし、同人の一級小型船舶操縦士免状では資格不足であることを承知していたものの、19トンの漁船の船長として長年の経験があり、また、活魚の管理方法を乗組員に指導教育するために時々運航船舶に乗船していたこともあって、自ら船長職をとることとし、出港する際に有資格の船長を乗り組ませなかった。 こうして、A指定海難関係人は、翌10日06時10分ごろ坊ノ岬南東5海里沖合で船橋当直に就き、1人で操舵と見張りに当たり、07時45分薩摩野間岬灯台から270度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、強い北西風の影響を避けるため、針路を少し陸岸寄りに向く013度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で、舵輪右後方のいすに腰を掛けて自動操舵により進行した。 09時03分半A指定海難関係人は、薩摩沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から197度7.5海里の地点で、風浪が収まってきたので、針路を天狗鼻の陸岸を1.5海里右舷方に離す001度に転じて続航した。 ところで、福栄丸は、空倉で船尾トリムが大きい状態では船首方に死角が生じ、いすに腰掛け姿勢で前方を見たとき、正船首から左右約6度の範囲の水平線を見通すことができない状況であった。 09時14分少し前A指定海難関係人は、正船首1.0海里のところに漂泊中の明丸を視認することができる状況で、その後同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、いすに腰を掛けたままで当直に当たり、立ち上がるなどして船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、明丸に気付かず、同船を避けないまま進行中、09時20分沖ノ島灯台から206度5海里の地点において、福栄丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が明丸の左舷中央部に後方から12度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時であった。 また、明丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同月10日05時00分鹿児島県串木野港西浜町の係留地を発し、同港西方7海里沖合の漁場に向かった。 B受審人は、06時30分漁場に着き、機関を中立回転として漂泊し、船尾にある高さ3メートルのマストにスパンカーを掲げ、船尾右舷側で船首方を向いて座り、時折潮上りを行いながらいとよりの一本釣りを始めた。 09時14分少し前B受審人は、前示衝突地点において船首が349度に向いていたとき、左舷船尾12度1.0海里のところに福栄丸を視認できる状況で、その後同船が自船に向かって衝突のおそれのある態勢で接近してきたが、スパンカーを掲げているから接近する他船が避けてくれるものと思い、釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま操業を続けているうち、09時20分わずか前波切り音を聴いた直後福栄丸を認めたものの、どうすることもできず、明丸は、船首を349度に向けて前示のとおり衝突した。 衝突の結果、福栄丸は損傷がなく、明丸は、衝突と同時に右舷側に転覆し、福栄丸に引き揚げられる途中に船首船部が崩壊して沈没した。また、B受審人は、海中に投げ出されたあと福栄丸に救助されたが、全身に打撲傷を負った。
(原因) 本件衝突は、鹿児島県串木野港西方沖合において、北上中の福栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の明丸を避けなかったことによって発生したが、明丸が、周囲の見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 福栄丸の船舶所有者が有資格者を乗り組ませなかったことは本件発生の原因となる。
(受審人等の所為) B受審人は、鹿児島県串木野港西方沖合において、漂泊して一本釣りを行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。 しかるに、同人は、スパンカーを掲げているから接近する他船が避けてくれるものと思い、釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、後方から接近する福栄丸に気付かず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとらないまま操業を続けて同船との衝突を招き、明丸に転覆を生じさせ、自らも全身に打撲傷を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A指定海難関係人が、大分県保戸島漁港を出港する際、船舶所有者として、有資格者を乗り組ませず、無資格の同人が船長として乗船し、鹿児島県串木野港西方沖合を単独で当直にあたって北上中、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 A指定海難関係人に対しては、同人がその後有資格者を乗船させていること及び有資格者を配乗できない場合には係船させている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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