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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月29日15時02分 鹿児島県川内港沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船潮栄丸
プレジャーボート誠丸 総トン数 3.9トン 登録長 10.18メートル 6.27メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
66キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 潮栄丸は、専ら鯛(たい)の延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、レーダー装置を備えず、A受審人が1人で乗り組み、鹿児島県串木野漁港で水揚げを済ませたのち、船首0.6メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成9年12月29日14時00分同漁港を発し、長崎県茂木港への帰港の途についた。 A受審人は、折からの雨のなか、鹿児島県西岸を北上し、14時4分少し過ぎ九州電力川内原子力発電所専用港北防波堤灯台から219度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達し、鴨瀬を左舷側に見て航過したところで、針路を358度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。 針路を定めたときA受審人は、1.5海里前方に誠丸が錨泊し、同船を認めることができる状況にあったが、前方を一瞥(べつ)はしたものの、前から打ちつける雨のため、これを見落とし、その後も前方に他船はいないものと思い、操舵室から離れて前部甲板に移り、船首マストに設けられたテントの中に入って弁当を開いて遅い食事を始めたところ、雨が激しくなってきたので腰を屈(かが)めてこれを避けながら食事をし、旋回窓を活用するなど、前方の十分な見張りを行わないまま続航した。 15時01分半少し過ぎA受審人は、1隻のプレジャーボートと右舷至近距離で航過し、同ボートの乗組員が潮栄丸の船首方向を指して叫んでいるのを認め、前方を見たところ、至近に迫っていた誠丸に初めて気づいたが何の措置もとれず、15時02分川内港南防波堤灯台から226度1.9海里の地点で、潮栄丸は、原針路・原速力のまま、誠丸の右舷船尾に後方から57度の角度で衝突した。 当時、天候は雨で風力1の東北東風が吹き、潮侯は上げ潮の中央期で、視程は4海里であった。 また、誠丸は、船外機を備え付けたFRP製プレジャーボートで、遊漁船としての登録を受けていたが、休日における余暇の利用のみに使用され、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、船首0.2メートノル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日09時30分川内河口大橋の船溜(だま)りを発し、鯵の一本釣りを楽しむため、釣場に向かった。 B受審人は、09時50分前示衝究地点の水深約30メートルの釣場に至到着したので、球形形象物を表示しないまま重さ10キログラムの四爪型錨を投入し、化繊ロープの錨索を55メートルほど延ばして先端をロープウインチにとり、自身は後部甲板の生簀(いけす)の蓋の右舷側端に腰掛け、船首右舷側及び船尾左舷側の友人とともにそれぞれ釣り竿を舷外に出して一本釣りを始めた。 14時59分B受審人は、折からの風と潮で船首が川内火力電力発電所を正面に見て055度に向いたとき、右舷船尾57度1,000メートルから自船に向首して来航する潮栄丸を認めたが、相手船は近づいてから避けるものと思い、そのまま釣りを続けているうち、15時01分潮栄丸は避航の気配を示さないまま340メートルまで接近したが、船外機を始動させて移動するなど、同船と衝突を避けるための措置をとらないまま釣りに熱中していたところ、潮栄丸が100メートルに近づいたとき、やっと衝突の危険を感じ、船外機のスイッチをかけて始動させようとしたが、うまく始動できず、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、潮栄丸は、船首端に擦過傷を生じただけであったが、誠丸は、右舷後部外板に亀(き)裂を生じて船尾部のバッテリー室に浸水したうえ、操舵室周囲のオーニングの柱が曲損したが、自力航行で帰港したのち修理され、衝突の寸前にB受審人と同乗者2人は海中に飛び込み、難を逃れた。
(原因) 本件衝突は、鹿児島県川内港の沖合において、帰港のため北上中の潮栄丸が、見張り不十分で、球形形象物を表示しないまま錨泊していた誠丸を避けなかったことによって発生したが、誠丸が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、1人で川内港の沖合を見張りに従事して北上中、降雨に出会った場合、錨泊中のプレジャーボートなどを見落とすことのないよう、旋回窓を使用するなどして、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、前方を一瞥したとき前方に障害物を見かけなかったことに気を許し、錨泊中のプレジャーボートなどはいないものと思い、旋回窓を使用するなどして、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊していた誠丸に気づかず、これに向首したまま進行して衝突を招き、同船の右舷後部外板に亀裂と操舵室周囲のオーニングの柱に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。 B受審人は、川内港の沖合に鎖泊して一本釣り中、右舷後方から自船に向首して接近する潮栄丸を認め、更に接近するも同船に避航の気配が認められない場合、速やかに衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、そのうち潮栄丸から避航してくれるものと思い、船外機を始動して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
参考図
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