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1998年(平成10年)

平成9年門審第60号
    件名
貨物船豊栄丸貨物船キムヤン トレーダー衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、清水正男、岩渕三穂
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:豊栄丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:豊栄丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
豊栄丸…左舷中央部の外板に破口を伴う凹損、同中央部の甲板及び左舷後部の外板にそれぞれ凹損、船橋楼左舷通路のブルワークが圧壊
キムヤン号…船首部が圧壊して外板に大破口

    原因
豊栄丸、キムヤン号…狭視界時の航法(速力、信号)不履行

    主文
本件衝突は、豊栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、キムヤン トレーダーが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月14日02時03分
瀬戸内海周防灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船豊栄丸 貨物船キムヤン トレーダー
総トン数 694トン 879トン
全長 70.50メートル 72.69メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 956キロワット
3 事実の経過
豊栄丸は、専ら関門方面から姫路港に海砂の運送に従事していた船尾船橋型砂利採取運搬船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、船首1.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、空倉のまま平成8年7月13日09時25分姫路港を発し、関門港に向かった。
A受審人は、約1箇月前に乗船してきたB受審人と自分の2人をクレーン操作などの荷役作業から外し、航海当直要員としてこれに専任し、2人だけの航海当直時間割を決め、まず、来島海峡通航を自分の当直中に組み込んでこれを済ませ、21時ごろ昇橋してきたB受審人と次の下関南東水道第2号灯浮標(以下、下関南東水道各号灯浮標については、「下関南東」を省略する。)までの航海当直を委(ゆだ)ねることとしたが、たまたま天候が良好であったので、視界制限状態時の注意事項まで引き継ぐこともあるまいと思い、視界制限伏態になった際は船長に報告するようB受審人に指示せず、当直交代を済ませて降橋した。
B受審人は、翌14日01時12分本山灯標から134度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点に達し、周防灘航路第1号灯浮標を左舷側に見て並航したとき、針路を推薦航路線から0.2海里離してこれに沿う284度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で自動操舵として進行しているうち、同時30分ごろ急に霧がかかって視程が100メートルばかりに狭められ、機関を半速力前進に落として8.0ノットの対地速力としたものの、上空は雲が切れて星を見ることのできる状況であったので、しばらくすれば海面上の視界も回復するものと思い、霧中信号を吹鳴せず、船長に報告しないまま航行した。
01時46分B受審人は、水道第4号灯浮標に並航したことをレーダーで認めたが、折から右舷船尾20度0.5海里に速力の速い同航船をレーダー画面で認め、下関南東水道に向かう転針地点に達していたものの、同航船の前路に向けることになる右転を躊躇(ちゅうちょ)し、284度の針路のまま航行しているうち、同時48分右舷船首16度4海里に下関南東水道を南東進しているキムヤン トレーダー(以下「キムヤン号」という。)の映像をレーダー画面上に捉(とら)えたが、同航船の動静と転針の頃合いを計ることとに気をとられ、安全な速力としないまま進行した。
01時55分半B受審人は、本山灯標から258度3.9海里の地点に至り、下関南東水道推薦航路線の左側に進出していたものの、同航船と十分に離れたので、同推薦航路線に沿う305度に転針したところ、キムヤン号を正船首に見て2海里までに接近し、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、針路を保つ最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止せずに続航し、02時02分船首方に迫ったキムヤン号にやっと衝突の危険を感じ、右舵10度引き続き右舵を一杯にとり、機関を停止したものの効なく、02時03分本山灯標から268度4.6海里の地点において、豊栄丸は、原速力のまま335度に向いたとき、その左舷中央部にキムヤン号の船首が、豊栄丸の前方から30度の角度で衝突した。
当時、天侯は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、視程は約100メートルであった。
また、キムヤン号は、可変ピッチプロペラ装置を装備し、韓国諸港と千葉港、大阪港及び名古屋港などの太平洋側諸港間の鋼材輸送に従事していた船尾船橋型貨物船で、船長C及び甲板長Dほか8人の韓国人船員が乗り組み、鋼製コイル1,668トンを積載し、船首3.7メートル船尾5.3メートルの喫水をもって同月8日12時00分光陽港を発し、途中、荒天避難のため2箇所でそれぞれ錨泊侍機したのち、越えて13日06時10分最後の欲知島の錨地を出発し、関門海峡経由で千葉港に向かった。
C船長は、23時ごろ関門港西口に至り、通航部署を令してこれを指揮し、無難に同港の通航を終えて東口の部埼沖合に達し、水道第1号灯浮標の手前で視程が3海里ほどあったのを確認したのち、翌14日01時10分D甲板長に航海当直を委ね、部署を開いて降橋した。
D甲板長は、見習中の実航士Eとともに航海当直に入り、01時12分部埼灯台から130度1.2海里の地点において、水道第1号灯浮標を左舷正横に見て並航したとき、2台のレーダーに電源を入れ、針路を推薦航路線に沿う125度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて8.4ノットの対地速力で進行した。
01時46分D甲板長は、水道第3号灯浮標に並航したころ、前方に急に霧か立ち込んで視程が100メートルまで狭められ、次の水道第4号灯浮標を視認できない状況となったが、船長に報告せず、速やかに霧中信号を吹鳴しなかったうえ、安全な速力に減じずに航行した。
01時48分D甲板長は、左舷船首5度4海里から次第に接近している豊栄丸の映像をレーダーで認められる状況になったが、GPS受信機と海図を照らし合わせながら船位確認作業に熱中し、同船に気づかずに進行しているうち、同時55分半左舷船首方から船首尾線に向かって徐々に移動していた豊栄丸の映像が、正船首方で相対方位の変化が止まって2海里にまで接近し、同船と著しく接近することが避けられない状況となったが、船位確認の作業を済ませてレーダー画面を覗(のぞ)いたばかりで、船舶と灯浮標などの映像の区別がつかないままこれに気づかず、針路を保つ最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止せずに続航していたところ、02時03分少し前豊栄丸の紅灯を認め、慌ててプロペラの翼角を0にして、右舵一杯をとったが効なく、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、豊栄丸は、左舷中央部の外板に破口を伴う凹損、同中央部の甲板及び左舷後部の外板にそれぞれ凹損を生じたほか、船橋桜左舷通路のブルワークが圧壊し、キムヤン号は船首部が圧壊して外板に大破口を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、視界制限状態の下関南東水道において、豊栄丸が、安全な速力としなかったうえ、霧中信号を行わず、キムヤン号と著しく接近することが避けられない状況となった際、針路を保つ最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止しなかったことと、キムヤン号が、安全な速力としなかったうえ、霧中信号を行わず、豊栄丸と著しく接近することが避けられない状況となった際、レーダー監視が不十分で、針路を保つ最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止しなかったこととによって発生したものである。
豊栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が視界制限状態になったとき船長に知らせるよう航海当直者に指示しなかったことと、航海当直者が視界制限状態になったことを船長に知らせなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、視界制限状態時の下関南東水道において、反航するキムヤン号と著しく接近することが避けられない状況となった場合、針路を保つ最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて停止する注意義務があった。しかしながら、同受審人は、針路を保つ最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて停止しなかった職務上の過失により、過大な速力のままキムヤン号に接近し続けて衝突を招き、豊栄丸の左舷中央部及び船尾部外板に凹損を生じさせたほか、キムヤン号の船首部を圧壊させたうえ、大破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、下関南東水道に至る周防灘西部の海域で、B受審人に単独の航海当直を委ねる場合、視界制限状態になったときは必ず船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、引き継ぎ交代時には視界の状態が良好であったので、注意することもあるまいと思い、視界制限状態時の船長への報告を指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態を航海当直者が報告をしないまま航行を続け、キムヤン号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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