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1998年(平成10年)

平成10年広審第35号
    件名
作業船第八ふじ丸漁船岩崎丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、横須賀勇一
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:第八ふじ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:岩崎丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ふじ丸…左舷船首部に擦過傷
岩崎丸…船尾部を大破、のち廃船

    原因
ふじ丸…見張り不十分、船員の常務(漂泊船を避けず)不遵守

    主文
本仲衝突は、第八ふじ丸が、転針方向に対する見張り不十分で、ほとんど漂泊中の岩崎丸に向かって進行したことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月28日10時46分
境港
2 船舶の要目
船種船名 作業船第八ふじ丸 漁船岩崎丸
総トン数 0.48トン
全長 13.53メートル
登録長 5.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 242キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
第八ふじ丸(以下「ふじ」という。)は、土木工事に伴う潜水作業に従事し、船首からほぼ3分の2のところに操舵室を有するFRP製作業船で、A受審人が1人で乗り組み、休業中の長期係留をする目的で、船首0.6メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成9年10月28日09時20分島根県、島根町にある加賀港を発し、境港港奥の中海に接する同港第3区にある係留場所に向かった。
ところでふじ丸の船体は、ヤンマー造船株式会社が製造し、平成9年6月3日第1回定期検査を受検したもので、同船の操舵室内には船体中心線より右舷側に舵輪があり、操舵室正面の窓ガラスは2本の縦方向の窓枠により3区画に分けられて中央の窓ガラスには旋回窓が設備され、船首甲板上には高さ30センチメートル(以下「センチ」という。)、直径12センチの金属製パイプの「たつ」2本が設置してあるだけで、操舵室内からの見通しが特に悪い構造ではなく、また、航行の際にも船首浮上量は30ないし40センチであり、操船に支障のない前路の見通しを確保することが出来る状況にあった。
発航後A受審人は、機関を回転数毎分2,500(以下、回転数は毎分のものとする。)の全速力前進にかけて境港に向かい、境水道に入ってからは、回転数を2,000の半速力前進に減じ、18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で立って手動操舵に当たり同水道の右側に沿って進行していたところ、10時44分少し過ぎ境港去ルガ鼻灯台(以下「去ルガ鼻灯台」という。)から043度(真方位、以下同じ。)770メートルの地点で、船首より少し左方約320メートル及び約550メートルのところに、それぞれ2隻及び1隻の釣り船を視認したので、自船の起こす航走波がこれらの釣り船に与える影響を考慮して、回転数を1,500に減じ、13.5ノットの速力で針路を230度に定めて続航した。
10時45分A受審人は、去ルガ鼻灯台から039度450メートルの地点に達し、前示2隻の釣り船を航過するころ、更に回転数を1,200に減じて10.8ノットの速力に減速するとともに境水道に沿って針路を210度に転じたとき、右舷船首3度370メートルばかりのところにほとんど漂泊状態の岩崎丸を視認できる状況にあったが、左転により右舷船首方に替わった前示1隻の釣り船に気を奪われ、ほぼ正船首方の見張りを十分に行うことなく進行し、岩崎丸に気付かなかった。
A受審人は、10時46分少し前去ルカ鼻灯台から052度200メートルの地点で前示1隻の釣り船を航過し終わったので、去ルガ鼻南西方の防波堤先端付近に向けて転針することにしたが、このころ左舷船首45度270メートルに設置された境港外江灯浮標の周辺に点在している5隻ばかりの釣り船に気を取られ、依然前路の見張りを十分に行わなかったので、右舷船首9度130メートルのところに、岩崎丸が20メートルの船間間隔をもって無難に航過する態勢で存在していることに気付かないまま、針路を219度に転じるとともに回転数を2,000に増加したところ、ふじ丸は、岩崎丸に向首して衝突のおそれのある態勢となって続航中、10時46分去ルガ鼻灯台から073度75メートルの地点において、ふじ丸の左舷船首部が、岩崎丸の船尾部に原針路・原速力のまま、後方から5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近には微弱な南西流があった。
また、岩崎丸は、専ら境港内での一本つり漁業に従事し、船外機1基及び艪を備え、汽笛を装備せず、甲板を有しない木製和船型漁船で、B受審人が1人で乗り組み、「鱸(すずき)」採捕の目的で、船首0.1メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日09時10分去ルガ鼻灯台から076度740メートルの境港市外江町地先にある船溜りを発し、同港内の去ルガ鼻付近の釣り場に向かった。
ところで「鱸」の一本つりは、海面に対して釣り糸を直角に保持しなければ鱸が釣れないことから、B受審人は、釣り場に到着した後は船外機を停止して、艪を操作し、釣り糸の海面入水角度を調整しながら釣りを行うこととしていた。
こうしてB受審人は、09時20分ごろ去ルガ鼻灯台から044度250メートルの釣り場に着いて機関を停止し、船尾に腰を掛けて時折艪を使用して、前示のとおり釣り糸を調整しながら、ほとんど漂泊状態で、去ルガ鼻南西方まで到達したら潮昇りを繰り返すこととして、去ルガ鼻前面海域を境水道の北側に沿って、釣り竿2本を左舷方に突き出して釣りを開始した。
10時44分少し前B受審人は、前示衝突地点付近において船首を214度に向首して鱸釣りをしているとき、左舷後方約1,000メートルのところに西行するふじ丸を初認し、その後同時45分ほぼ船尾約370メートルに接近した同船を視認したが、ふじ丸が自船の船尾方を航過する態勢にあったから、船首方を向いて釣りを続行中、同時46分わずか前ふじ丸の機関音を聞いて、船尾方を振り返ったところ至近に迫った同船を視認したがどうすることもできず、岩崎丸は、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ふじ丸は左舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、岩崎丸は船尾部を大破し、のち修理の都合により廃船となった。

(原因)
本件衝突は、境港第1区の境水道において、ふじ丸が、同港第3区に向け航行中、転針方向に対する見張りが不十分で、前路でほとんど漂泊して魚釣り中の岩崎丸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、境港第3区に向け同第1区の境水道を航行中、去ルガ鼻沖に達して転針する場合、前路でほとんど漂泊して魚釣り中の岩崎丸を見落とすことのないよう、転針方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷45度方向に点在した5隻ばかりの釣り船に気を奪われ、転針方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により向首進行して衝突を招き、ふじ丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせるとともに岩崎丸の船尾部を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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