日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年広審第37号
    件名
貨物船第七住力丸・漁船胡子丸漁船胡子丸漁具衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、釜谷奨一、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第七住力丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第七住力丸次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:胡子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
D 職名:胡子丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
住力丸…損傷なし
両胡子丸…漁具が損傷
第1胡子丸…大引網に引かれて左舷側に転覆

    原因
住力丸…動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)遵守(主因)
両胡子丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件漁具衝突は、第七住力丸が、動静監視不十分で、二そういわし船引き網の漁労に従事している両胡子丸の間に向首進行したことによって発生したが、両胡子丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Cを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月8日14時30分
広島県呉港沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七住力丸
総トン数 499トン
全長 67.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
船種船名 漁船胡子丸 漁船胡子丸
総トン数 4.90トン 4.90トン
登録長 12.40メートル 12.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50
3 事実の経過
第七住力丸(以下「住力丸」という。)は、専ら瀬戸内海の広島県海域内での海砂採取及び輸送に従事する船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A、B両受審人ほか4人乗り組み、海砂約850立方メートルを積載し、船首3.8メートル船尾5.4メートルの喫水をもって、平成8年7月8日12時30分同県高根島西方800メートルの砂採取海域を発し、広島港に向かった。
A受審人は、船橋当直体制を特に定めず、船橋当直を主に自らと一等航海士とで行ていたが、B受審人が、日本海、東シナ海ではえ縄漁船の船長の経験も長かったことから同人にも時々行わせており、船橋当直者に対しては平素から漁船などは早期大幅に避航するように指導していた。
A受審人は、発航時の操船に引き続き船橋当直に当たり、13時30分広島県横島に並航したとき、昇橋してきた一等航海士に船橋当直を引き継いで降橋した。
一等航海士は、船橋当直に就いて見張りに当たり、猫瀬戸を航過したのち、14時15分呉港阿賀沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から124度(真方位、以下同じ。)2.5海黒の地点で、針路を264度に定めて自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて進行した。
定針したころ一等航海士は、便意を催し、このとき食事の準備を終え、食事を済まして昇橋したB受審人に船橋当直を引き継いで降橋した。
B受審人は、船橋当直を引き継いだのち、14時27分少し過ぎ沖防波堤灯台から179度1.6海里の地点に達したころ、約1,000メートルのところにほぼ正船首方から右舷船首方にかけて南北方に並んだ多数の漁船を認め、そのとき左舷船首至近に漁船が接近し、甲板上で乗組員が雨合羽を振っているのを認めたが、その理由が分からないまま続航し、同時28分右舷船首方の漁船1隻が前路に接近するのを認めて手動操舵に切り換え、右転して避航したのち針路を戻したとき、左舷船首5度約550メートルに、二そういわし船引き網漁労に従事している動力漁船登録票の登録番号HS3-36785の胡子丸(以下「第1胡子丸」という。)と右舷船首5度約550メートルに動力漁船登録票の登録番号HS3-36786の胡子丸(以下「第2胡子丸」という。)を認めたが、両船とも漁労に従事している船舶が表示する形象物を掲げていなかったものの、小型の漁船で速力が遅く、両船間の距離が約80メートルであり、単独で漁労に従事する漁船に見えたことから、両船の間を航行しても大丈夫と思い、双眼鏡を使用して両船の操業模様を確認するなど、動静監視を十分に行うことなく、両船が二そういわし船引き網の漁労に従事し、両胡子丸の漁具と衝突のおそれのある態勢となって接近したが、このことに気付かず、その進路を避けないで両船の間に向首進行した。
14時29分B受審人は、両胡子丸間の正船首近距離に二そういわし船引き網の脇網の浮子鋼に取り付けた黄色浮標を海面に視認でき得る状況であったが、依然それに気付かず続航し、再び左舷船首至近に漁船1隻が接近したが、何のために接近してきたか理解できず、両胡子丸の間に向首進行し、同時29分半両船の間を航過し、同時30分少し前正船首少し右に黒い浮標を認め、左舵一杯とし、続いて機関を後進にかけたが及ばず、14時30分沖防波堤灯台から195度1.7海里の地点において、住力丸は、原針路、原速力のままのその船首が、第1胡子丸の船尾端から約182メートルのところの脇網にほぼ前方から2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、衝突の少し前音戸瀬戸の航過のため昇橋したが、どうすることもできず、衝突したのち、事後の措置に当たった。
また、第1胡子丸は、二そういわし船引き網漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、空倉のまま、船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同型船の第2胡子丸、探索兼指令船及び運搬船の4隻で胡子丸船団を組み、同月8日04時00分広島県安芸郡倉橋町室尾を発し、同県情島南方沖合の漁場に向かった。
一方、第2胡子丸は、D受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、前示のとおり第1胡子丸ほか2隻とともに発航した。
04時30分ごろC、D両受審人は、情島南方沖合の漁場に至り、探索兼指令船のもと第1回目の操業を行い、12時00分情島127メートル頂から南西800メートルの地点で、第2回目の操業を開姶することとし、網を投入し、両船とも漁労に従事している船舶が表示する形象物を揚げず、第1胡子丸の左舷側正横約80メートルのところに第2胡子丸が位置し、いずれも長さ約165メートル径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の化繊の浮子綱及び径45ミリの化繊の沈子綱を取り付けた大引網を延出し、同大引網を長さ30メートルのいわし用袋網の両端から延出した長さ約35メートルの袖網にそれぞれ連結し、浮子綱の中央部及び同綱と袖網の取付け部に径40センチメートル(以下「センチ」という。)の球型発泡スチロール製白色浮標、袖網に1.5メートル間隔で長さ20センチ径15センチの発泡スチロール製黄色浮標及び袋網の前後に長さ1.5メートル径80センチの発泡スチロール製黒色浮標をそれぞれ取り付けた全長が230メートルとなっだ網を延出し、情島西方海域を北北東方に向けて操業のため引き網を開始した。
14時00分C、D両受審人は、沖防波堤灯台から215度2.2海里の地点で、二そう引きの間隔を80メートルに保ったまま針路を077度に定め、2.0ノットの引き網速力で進行した。
14時20分C、D両受審人は、沖防波堤灯台から204度1.9海里の地点に達したとき、右舷船首7度2.0海里ばかりのところに住力丸を初めて認め、同時27分少し過ぎ住力丸が右舷船首12度1,000メートルに接近し、第1胡子丸の右舷側を離れて航過する方向に向首しているのを認めた。
14時28分C、D両受審人は、住力丸が接近した漁船を右転して避航し、その後両胡子丸の漁具と衝突のおそれのある態勢となって避航の気配のないまま両船の間に向首進行しているのを認めたが、航行船は漁労中の漁船を避航すると思い、両船とも警告信号を行わず、C受審人は、第1胡子丸を左転させ両胡子丸の間を狭めたが依然、住力丸が両胡子丸の間に向首進行しているのを認め、右転して両船の間を元に戻し、同時29分半C、D両受審人は、住力丸が両胡子丸の間を航過したので両船の乗組員に雨合羽を振らさせたが効なく、両胡子丸は、原針路、原速力で引き網のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、住力丸は損傷がなかったが、両胡子丸の漁具が損傷し、第1胡子丸は大引網に引かれて左舷側に転覆し、第2胡子丸により広島県倉橋島に引きつけられ、のち修理され、第1胡子丸の乗組員は海中に投げ出されたが、第2胡子丸に救助された。

(原因)
本件漁具衝突は、呉港沖合において、西行中の住力丸が、動静監視不十分で、二そういわし船引き網の漁労に従事している両胡子丸の間に向首進行したことによって発生したが、両胡子丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、呉港沖合を広島港に向け西行中、二そういわし船引き網の漁労に従事している両胡子丸を認めた場合、両船の漁具と衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、双眼鏡を使用して両船の操業模様を確認するなど、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、漁労に従事する単独の漁船に見えたことから、両船の間を航行しても大丈夫と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、両船の間に向首進行して両船の漁具との衝突を招き、両船の漁具に損傷を生じさせ、第1胡子丸を転覆させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、呉港沖合において、両胡子丸ほか2隻と船団を組み、二そういわし船引き網の漁労に従事中、住力丸が両胡子丸の漁具と衝突のおそれのある態勢で避航の気配のないまま両船の間に向首進行しているのを認めた場合、住力丸に対して避航を促すよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、航行船は漁労中の漁船を避航すると思い、乗組員に雨合羽を振って合図させただけで警告信号を行わなかった職務上の過失により、両船の漁具と住力丸との衝突を招き、前示の損傷及び転覆を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、呉港沖合において、両胡子丸ほか2隻と船団を組み、二そういわし船引き網の漁労に従事中、住力丸が両胡子丸の漁具と衝突のおそれのある態勢で避航の気配のないまま両船の間に向首進行しているのを認めた場合、住力丸に対して避航を促すよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、航行船は漁労中の漁船を避航すると思い、乗組員に雨合羽を振って合図させただけで警告信号を行わなかった職務上の過失により、両船の漁具と住力丸との衝突を招き、前示の損傷及び転覆を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION