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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月1日10時15分 函館港外 2 船舶の要目 船種船名
貨物船太成丸 総トン数 1,846トン 全長 87.52メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,618キロワット 3 事実の経過 太成丸は、回転方向が右の固定ピッチ推進器一軸を装備し、各舷に1節27.5メートルの錨鎖8節を設備した幅14.00メートル探さ6.85メートルのバウスラスタを装備しない船尾船橋型貨吻船であるが、スラグ積載の目的で、A、B両受審人ほか8人が乗り組み、空倉のまま海氷バラスト200トンを積載し、船首2.17メートル船尾4.18メートルの喫水をもって、平成9年2月26日17時05分小名浜港を発し、翌27日21時45分函館港外日本セメントシーバース灯(以下「シーバース灯」という。)から114度(真方位、以下同じ。)1.8海里の函館港内に仮泊の後、越えて同年3月1日09時45分船首1.00メートル船尾3.90メートルの喫水となって抜錨し、日本セメント株式会社上磯工場専用桟橋第2バースに向かった。 ところで、前示桟橋は、函館港外日本セメント株式会社上磯工場地先の海岸線から135度方向に長さ約2,050メートルに渡って函館湾のほぼ中央部に向かって突き出しており、先端にはシーバース灯が設置され、同灯火から233メートルないし633メートルの間の同桟橋上には第1ないし第4の各出荷バースが築造されており、同桟橋上に設置したベルトコンベアにより荷役を行う仕組みになっていた。 着桟に先立ちA受審人は、太成丸の一等航海士として過去数度同桟矯に着桟した経験があったものの、船長に昇格した後は初めての経験であり、当初は、前示第2バースの手前約100メートルのところに設置してあるビットと船首が並航したときに左舷錨を投下する予定で着桟計画を立てていた。 こうしてA受審人は、抜錨時から操船に当たり、船橋内には操舵に甲板手1名を、機関操縦盤に機関長を、また、船首にはB受審人、甲板長及び甲板手1名の計3名を、船尾には甲板手1名をそれぞれ配置して進行し、09時57分わずか前シーバース灯から245度310メートルの地点に達したとき、針路を第2バースに向首する344度に定め、以後、機関の停止と極微速力前進を繰り返し2ノットの対地速力で続航した。 ところで、やや荒天模様のもと前示桟橋に着桟するに際し、南西方からの風浪を左舷船尾方から受けて同桟橋に南方から接近して着桟するにあたっては、機関の操作と錨鎖を適宜操作し、併用して船体を桟橋と平行に位置させねばならず、投錨にあたっては、投錨地点を正確に把握することが要求される状況にあった。 10時03分半A受審人は、シーバース灯から303度480メートルの地点に至り、予定投錨地点の手前ではあったものの、やや荒天模様の海象状状況下、気持ちに焦りが出て、投錨・着桟両地点間の距離の把握を十分行わず、装備した錨鎖長の範囲内で着桟できるものと思い、左舷錨投下の号令を発した。 一方、B受審人は、大成丸一等航海士として乗り組んで同桟橋に着桟するのは初めての経験であり、船首配置に就き左舷錨をコックビルとして船橋からの投下指示を待っていたところ、錨投下の号令を受けたので、直ちに錨を投下し、以後錨鎖の張り具合を見ながら順次延出したが、太成丸は、10時10分ごろ船体が桟橋まで約15メートル離れたところで桟橋とほほ並行となり、船首が第2バース荷役ローダーに並んだとき、左舷錨鎖が全量繰り出され船体が停止した。 A受審人は、錨鎖が全量繰り出され、あと約40メートル前進しなければ荷役が出来ないことを知り、錨の打ち直しを余儀なくされたが、当時風浪の影響により圧流されて船尾が右舷側の桟橋に近接していたので、一旦、船尾を左舷側に振り出してのち縮錨を開姶するつもりで、右舵一杯、機関を極微速力前進から半速力前進にかけたところ船首が右転し、大成丸は、10時15分シーバース灯から315度633メートルの地点で、第2バースのコンクリート製支柱に設置してあるフェンダーに右舷船首部が衝突し、続いてその反作用と錨鎖の張力及び風浪による横圧力とが船体に加わり、前示衝突箇所を支点として船尾部が右舷方に振られた結果、右舷船尾部が残橋に沿って設置してある歩廊橋に衝突した。 当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 衝突の結果、太成丸は右舷船首部及び右舷船尾部に凹損を、日本セメント株式会社上磯工場専用桟橋第2バース付近の歩廊橋に曲損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件桟橋衝突は、機関・錨鎖を併用して、函館港外日本セメント株式会社上磯工場専用桟橋第2バースに着桟操船にあたろうとする際、投錨・着桟両地点間の距離の把握が不十分で、錨鎖不足となり、操船困難になったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、やや荒天模様の海象状況の下、機関・錨鎖を併用して日本セメント株式会社上磯工場専用桟橋第2バースに着桟する場合、投錨・着桟両地点間の距離の把握を十分行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、強風により受待ちに焦りが生じて、予定投錨地点の手前ではあったものの装備した錨鎖長の範囲内で着桟できるものと思い、投錨・着桟両地点間の距離の把握を十分行わなかった職務上の過失により、投錨後の錨鎖が不足して着桟地点に達することが出来ず、桟橋至近の地点で錨の打ち直し作業を余儀なくされ、同乍業中に桟橋との衝突を招き、太成丸の右舷船首部及び右舷船尾部に凹損を、また、日本セメント株式会社上磯工場専用桟橋第2バース付近の歩廊橋に曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |