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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月10日09時55分 瀬戸内海安芸灘 2 船舶の要目 船種船名 貨物沿ひのくに丸
漁船朝日丸 総トン数 199トン 4.95トン 全長 39.99メートル 登録長
10.59メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 441キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 ひのくに丸は、専ら瀬戸内海各諸港間の硫酸輸送に従事する鋼製の船尾船橋型危険物運搬船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成8年12月9日17時山口県宇部港を発し、広島県竹原港南方沖にある契島に向かった。 A受審人は、同船の荷役が、昼間に限られていたことから、狭い水道等の夜間航行は避けて適宜錨泊して時刻調整を行うよう運航計画をたて、船橋当直については、狭い水道、出入港時等で自らが操船を行うことのほかは、甲板長と単独の4時間輪番制で当たることにしていた。 こうして、A受審人は、周防灘を東行して22時ごろ山口県平生港の南方にある佐合島東方海域に寄せ、錨泊して時刻調整を行い、翌10日06時25分同錨泊地を抜錨してクダコ水道を経由し、安居島灯台の北側の海図記載の推薦航路に従って安芸灘を北東進した。 09時20分A受審人は、安居島灯台から238度(真方位、以下同じ。)6.3海里の地点に達したとき、針路を推薦航路に従って044度に定め、操舵を自動とし、機関を10.3ノットの全速力前進にかけて進行した。 09時45分A受審人は、安居島灯台から265度2.5海里の地点に達したとき、右舷船首2度2海里のところに低速力で南西進する模様の朝日丸を初めて視認したが、一瞥(いちべつ)しただけで自船の右舷方を替わるものと思い、その後、同船に対する動静監視を行うことなく続航し、朝日丸と衝突のおそれのある態勢となって接近していたが、船橋の後方に設置された机に船尾方を向いた姿勢となって、積荷書類の作成等の作業に従事した。 09時50分A受審人は、朝日丸が右舷船首2度1海里に接近したとき、同船のマストに黒色鼓形形象物が表示されており、朝日丸が漁労に従事している船舶であることを認め得る状況となったが、前示作業に専念してこのことに気付かなかった。 09時52分半A受審人は、安居島灯台から298度1.7海里の地点に達したき、ほぼ同一方位0.5海里のところに朝日丸が接近していたが、依然、同船に対す動静監視不十分で、この態勢に気付かず、漁労に従事している朝日丸の進路を避けることなく続航中、同時55分少し前、ふと船首方を振り向いたとき、前路至近に同船を視認し、左舵一杯としたが効なく、09時55分安居島灯台から312度1.6海里の地点で、原針路ほぼ原速力のままのひのくに丸の右舷船首部に朝日丸の右舷船首が、前方から11度の角度をもって衝突した。 当時、天侯は雨で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。 また、朝日丸は、小型底びき網漁に従事する船体のほぼ中央部に操舵室をもつ、モ一ターホーンを装備した、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かに、えび等を採捕する目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日07時30分広島県呉港を発し、安居島灯台東方の漁場に向かった。 ところで朝日丸の底びき網漁は、戦車こぎ網で、横幅約3メートル長さ約1メートルの鉄製のそりの後方に袋網2個を並列にとり付けて、その前方両端を長さ約4メートルのワイヤーロープで結び、その中央部に径8ミリメートル長さ約300メートルの曳網(えいもう)用ワイヤーロープを連結して同船の船尾にとり、約2.0ノットの曳網速力となって操業を行うものであった。 B受審人は、08時30分ごろ安居島灯台東方の漁場に着いて操業を開始し、その後適宜移動して曳網を行い、09時40分安居島灯台から327度1.6海里の地点で第3回目の曳網を開始することとし、マストに黒色鼓形形象物を掲げ、針路を235度に定めて操舵を手動とし、機関を全速力前進にかけて2.0ノットの曳網速力となって進行したが、同漁場は、東西方に往来する船舶の航路筋にあたり多数の船舶が航行するところであったから操業にあたり他船の存在に十分な配慮を要する海域であった。 09時45分B受審人は、安居島灯台から323度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首7度2海里のところに北東進中のひのくに丸を視認し得る状況となり、その後、方位の変化のないまま、衝突のおそれのある態勢となって接近したが、前路を一瞥して他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、舵を中央とし、操舵室後方の甲板上に座った姿勢となって、漁獲した魚の選別作業に専念し、時折船尾の航跡を見て自船が直進しているのを確かめながら続航して同船の存在に気付かなかった。 09時52分半B受審人は、安居島灯台から318度1.5海里の地点に達したとき、左舷船首7度0.5海里のところにひのくに丸が接近したが、依然、見張り不十分で、同船に気付かず、警告信号を行わず、なおも接近する同船に対し衝突を避けるための措置をとらないで進行し、同時55分少し前、休憩して喫煙中、ふと前方を見たとき至近に迫った同船を視認したもののどう対処することもできず、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、ひのくに丸は、船首部に擦過傷を生じ、朝日丸は、船首部、船尾部及び右舷側外板に亀裂(きれつ)を生じた。
(原因) 本件衝突は、安芸灘の安居島北方の海域において、推薦航路を北東進するひのくに丸が、動静監視不十分で、漁労に従事する朝日丸の進路を避けなかったことによって発生したが、朝日丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、安芸灘の安居島北方の海域において、推薦航路を北東進中、右舷船首方に低速力で、南西進する模様の朝日丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断することができるよう、その後、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、一瞥しただけで、自船の右舷方を替わるものと思い、朝日丸に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により、漁労に従事している同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、ひのくに丸の船首部に擦過傷を、朝日丸の船首部、船尾部及び右舷側外板に亀裂を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、安芸灘の安居島北方の海域において、南西に向け曳網して漁労に従事する場合、多数の船舶の航行する場所であったから、左舷船首方に北東進するひのくに丸を見落すことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、前路を一瞥して他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらないで進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判去第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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