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1998年(平成10年)

平成9年神審第74号
    件名
貨物船第一ニッケル丸バージ(大)67衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、工藤民雄
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:第一ニッケル丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:松洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
ニッケル丸…船首船底部を圧壊、船長が頭部に軽度の外傷
(大)67…左舷前部外板に亀裂を伴う凹損を生じで浸水、松洋丸機関長が頭部に軽度の外傷

    原因
(大)67…灯火・形象物(錨泊灯)不表示(主因)
ニッケル丸…操船指揮不適切、見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、錨泊中の(大)67が、光力の弱い白色単閃光を発する小型標識灯を掲げたのみで、所定の錨泊灯を表示していなかったことによって発生したが、第一ニッケル丸が、操船指揮が適切でなかったばかりか、見張り不十分で、前路で白色単閃光の小型標識灯を掲げて錨泊中の(大)67を避けなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月10日21時20分
神戸港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一ニッケル丸
総トン数 198トン
全長 46.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
船種船名 押船松洋丸バージ(大)67
総トン数 86.51トン
登録長 22.89メートル
全長 45.00メートル
幅 13.00メートル
深さ 410メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 500キロワット
3 事実の経過
第一ニッケル丸(以下「ニッケル丸」という。)は、阪神地区から瀬戸内海各港に牛脂やパームオイルなどを輸送する船尾船橋型液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾3.00メートルの喫水をもって、平成7年9月10日21時00分神戸港第2区兵庫第1突堤を発し、香川県坂出港に向かった。
A受審人は、離岸時の操船を単独で行い、21時05分ごろ兵庫第1突堤東端に達したところで、船舶が輻輳(ふくそう)する神戸港内であったが、出港配置を終えて昇橋してきた無資格のB指定海難関係人が、長年単独の船橋当直に就いた経験があるということで、同人に船橋当直を任せても大丈夫と思い、自ら引き続き操船の指揮をとることなく、神戸港第1航路を経て目的地に向かうよう指示しただけで操船を任せて降橋し、自室に戻って自宅から持ち帰った手荷物等の整理を始めた。
B指定海難関係人は、第1航路を南下し、和田防波堤を通過したころ、3海里レンジに設定したレーダーで第1航路南方の航行船の状況を確認したものの、右舷前方1海里の神戸港検疫錨地内において錨泊中の(大)67の映像には気付かないまま、21時15分半神戸港和田防波堤灯台から178度(真方位、以下同じ。)360メートルの地点で、針路を明石海峡航路に向かう243度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力で進行した。
定針時、B指定海難関係人は、左舷前方に錨泊中の大型船2隻の甲板照明を認めていたが、船首方向1,500メートルばかりに存在する(大)67の光力の弱い白色単閃光(せんこう)の灯火を視認することができなかったので、前路に錨泊船等はいないものと思い込み、船橋前面に置かれたいすに腰掛け、主に左舷前方の錨泊船の方を気にしながら見張りに当たっていた。
21時17分少し過ぎB指定海難関係人は、正船首方向900メートルに接近した(大)67の灯火を視認できる状況となったものの、前路に船はいないものと思い込んでいたことから前方の見張りが不十分となり、これに気付かないまま続航中、同時20分少し前、正船首間近に(大)67の灯火及び船体を初めて認め、あわてて手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが効なく、21時20分神戸灯台から139度730メートルの地点において、錨泊中の(大)67の左舷前部外板に、ニッケル丸の船首が原針路、原速力のまま、直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、自室において衝撃を受けて衝突を知り、急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
また、(大)67は、無人の非自航型鋼製全開式石運船で、神戸灯台から310度200メートルばかりの、神戸港第3区苅藻島東岸水路において、阪神・淡路大震災で崩壊した岸壁の修復工事に従事している作業船が浚渫(しゅんせつ)した土砂500立方メートルを積載し、船首尾とも1.50メートルの喫水をもって、C受審人が乗り組む松洋丸に押航され、前日の9月9日17時45分作業船を発し、18時00分ごろ前示衝突地点付近で錨鎖5節を延出して錨泊した。
C受審人は、当時、土砂を積載した(大)67を松洋丸で押航し、苅藻島東岸の作業船から神戸港新港第6突堤付近の埋立地に運ぶ作業に従事しており、夜間は松洋丸及び(大)67を同作業船に横付けして係留していたが、同9日17時ごろ土砂の積込みを終えたところで作業船の責任者から、もう1隻のバージを同船に横付けしなければならず、2隻横付けにすると水路の中央部から対岸側にはみ出し、水路を航行する他船の通航の邪魔になるので、(大)67を翌々11日月曜日の朝まで沖で錨泊させるよう依頼された。
C受審人は、平素このような場合、尼崎西宮芦屋港の西宮防波堤北側にあるバージ錨泊海域での錨泊許可を受け、(大)67を同海域まで押航して錨泊させていたが、すでに17時を過ぎていたので、同許可を得る手続ができなかったことから、前示のとおり検疫錨地内に同船を錨泊させたものであった、同錨泊地点は、神戸港第3区の陸岸に接近した検疫錨地のほぼ中心部にあたり、大型の外航船が錨泊するほか、第1航路南口と明石海峡航路とを結ぶ小型船舶の通航路になっており、東行船及び西行船が頻繁に行き交い、さらに近くの陸岸の灯火が明るく、弱い光力の灯火を掲げただけでは、航行船舶から見落とされやすい海域であった。
ところで、(大)67には、船尾部マスト上部の、海面からの高さ約7.3メートルのところに24ボルトの蓄電池を電源とする光達距離2海里の白色全周灯が設けられていた。しかし、C受審人は、同灯火を錨泊灯として点灯すると、翌々11日の朝まで同船が無人となり、同灯火を昼間に消灯することができないまま蓄電池が消耗し、その後土砂排出用ポンプの機関を始動できなくなることを懸念し、同灯火の代わりに1.5ボルトの単1型乾電池4本を電源とする、光源が6ボルト1.5ワットの白熱電球で、光達距離2キロメートル、4秒に1回0.4秒間の白色閃光を発する日光弁付き小型標識灯を船首構造物の上で、海面からの高さ4.5メートルのところに取り付けることとした。
こうしてC受審人は、(大)67を2日間放置しておくつもりで、同船から松洋丸を離し、苅藻島東岸水路に戻って作業船に係留して休息した。
翌10日、(大)67は153度に向首した状態で錨泊中、前示のとおり衝突した。同日22時ごろC受審人は、A株式会社からの電話で、ニッケル丸と(大)67との衝突を知らされ、直ちに松洋丸で現場に赴き事後の措置に当たった。
衝突の結果、ニッケル丸は船首船底部を圧壊して破口を生じ、(大)67は左舷前部外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水したが、のちいずれも修理された。また、A受審人及びニッケル丸機関長が衝突時の衝撃でそれぞれ頭部に軽度の外傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、船舶交通の輻輳する神戸港検疫錨地内に錨泊中の(大)67が光力の弱い白色単閃光を発する小型標識灯を掲げたのみで、所定の錨泊灯を表示していなかったことによって発生したが、出航中のニッケル丸が、操船の指揮が適切でなかったばかりか、見張り不十分で、前路で白色単閃光の小型標識灯を掲げて錨泊中の(大)67を避けなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
C受審人は、夜間、船舶交通の輻輳する神戸港検疫錨地内で無人の(大)67を錨泊させる場合、(大)67の存在とその状況を他の船舶に明確に知らせ得るよう、錨泊中の船舶が表示する所定の灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、(大)67を錨泊させるに当たり、光力の弱い白色単閃光の小型標識灯を掲げたのみで、所定の錨泊灯を表示しなかった職務上の過失により、同船とニッケル丸との衝突を招き、ニッケル丸の船首船底部に圧壊及び破口を、(大)67の左舷前部外板に亀裂を伴う凹損をそれぞれ生じさせ、また、A受審人及びニッケル丸機関長の頭部にそれぞれ軽度の外傷を負わせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判去第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、神戸港を出航する場合、港内においては、見張りを厳重に行い、適切な操船ができるよう、離岸後引き続き在橋して操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲板手が、単独で船橋当直に就いた経験が長いから大丈夫と思い、離岸後間もなく、同甲板手に操船を任せて自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、同港検疫錨地内で錨泊中の(大)67の表示する白色単閃光の灯火を見落とし、同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、また、自ら及び機関長が負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が夜間、神戸港検疫錨地内を航行するに当たり前路の見張りを厳重に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同人が見張りの重要性について十分反省している点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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