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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月17日11時50分 紀伊水道 2 船舶の要目 船種船名 油送船第一豊栄丸
漁船金比羅丸 総トン数 199.99トン 11トン 全長 47.25メートル 19.10メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
441キロワット 漁船法馬力数 30 3 事実の経過 第一豊栄丸(以下「豊栄丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.40メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、平成9年6月17日09時30分徳島県徳島小松島港を発し、和歌山県和歌山下津港下津区に向かった。 A受審人は、出港操船に引き続いて単独の船橋当直に当たり、09時45分於亀瀬灯標から349度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で、針路を079度に定め、機関を全速力前進にかけ、10,0ノットの対地速力で自動操舵によって進行し、11時40分下津沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から267.5度3.6海里の地点に達したとき、右舷船首11度1.6海里のところに、漁労に従事している金比羅丸を初めて視認した。 11時44分A受審人は、舵輪後ろに立って見張りを行っていたところ、黒色鼓型形象物を掲げた金比羅丸を同方位1海里に見るようになり、衝突のおそれがあったが、同船が自船の前路を無難に航過するものと思い込み、その方位の変化をコンパスで確かめるなど、動静監視を十分に行わなかったことから、このことに気付かずに紀伊水道を東行した。 A受審人は、11時46分金比羅丸が右舷船首11度1,200メートルに接近したとき、目的地の代理店から電話が掛かってきたので、操舵室後部左舷側に移動して受話器を取り、同船の左舷後方を北方に向けて曳網(えいもう)中の第三船に注目しながら右舷正を向いた姿勢で入港予定時刻を告げ、次いで荷役などの打合せをしているうち、通話に気を取られ、依然金比羅丸の動静監視を行わず、その進路を避けることなく続航した。 そして、A受審人は、11時49分半電話を終えて前方を見たとき、右舷船首100メートルのところに、船体が船首死角に入った金比羅丸のマスト上部を認め、驚いてサイレンを鳴らすとともに、機関を半速力に減じ、次いで操舵を手動に切り換えて右舵一杯、機関停止としたが及ばす、11時50分沖ノ島灯台から275度2海里の地点において、豊栄丸は、084度に向いた船首が、8ノットの速力で、金比羅丸の左舷船尾に後方から84度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力3の西南西風が吹き、潮侯は上げ潮の初期であった。 また、金比羅丸は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及び同人の息子の甲板員が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同日03時00分和歌山県箕島漁港を発し、同時20分ごろ同漁港沖合の漁場に至り、曳網を開始した。 B受審人は、繰り返し操業を行い、操舵室において見張りと操船に当たり、11時00分沖ノ島灯台から233度2.4海里の地点で、船体中央部両舷の舷外へ1.8メートル突き出した各横棒先端から、長さ27メートルの底引き網の付いた直径15ミリメートルのワイヤロープをそれぞれ250メートル延出し、トロールにより漁労こ従事していることを示す形象物を掲げて第4回目の曳網を始め、針路を360度に定め、2.0ノットの対地速方で手動操舵によって進行した。 11時35分B受審人は、左舷正横2.5海里のところに、自船の方に向けて接近してくる豊栄丸を初めて視認し、注意を喚起するつもりで、船橋前部両舷に各1キロワットの作業灯2個を、マスト後部に1キロワットの作業灯1個及びマスト頂部に黄色回転灯1個をそれぞれ点灯し、同船の動静監視を続けた。そして、同時44分沖ノ島灯台から268.5度2海里弱の地点に達したとき、豊栄丸を同方位1海里に見るようになり、衝突のおそれがあったが、同船がそのうちに自船の進路を避けるものと思い、警告信号を行わず、更に接近するに及んで機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらなかった。 こうして、B受審人は、同じ針路及び速力で続航し、甲板員に後部甲板上で漁獲物の選別作業を行わせていたところ、11時49分半豊栄丸の船首が100メートルに迫ったとき、危険を感じてサイレンを鳴らし、同時50分わずか前右舵一杯をとったが効なく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、豊栄丸は、左舷船首部に擦過傷及び左舷中央部に軽微な凹損を生じ、金比羅丸は、左舷船尾部に損傷を生じたほか、マストが折損し、B受審人が頚部に捻挫を、甲板員Cが頚部及び腰部に挫傷をそれぞれ負った。
(原因) 本件衝突は、紀伊水道において、東行中の豊栄丸が、動静監視不十分で、漁労に従事している金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独で船橋当直に当たり、紀伊水道を和歌山下津港に向けて東行中、右舷船首方に漁労に従事している金比羅丸を視認した場合、衝突のおそれの有無について判断できるよう、コンパスで方位の変化を確かめるなど、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、金比羅支が前路を無難に航過するものと思い、目的地の代理店との電話連絡に気を取られ、コンパスで方位の変化を確かめるなど、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのあることに気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、豊栄丸の左舷船首部に擦過傷及び左舷中央部に軽微な凹損を、金比羅丸の左舷船尾部に損傷及びマストに折損を生じさせ、B受審人の頚部に捻挫を、甲板員の頚部及び腰部に挫傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、和歌山県沖ノ島西方において、底引き網を低速力で曳網中、豊栄丸が自船の進路を避けず間近に接近した場合、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、豊栄丸がそのうちに自船の進路を避けるものと思い、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、そのまま進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身及び甲板員が負傷するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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