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1998年(平成10年)

平成10年横審第20号
    件名
貨物船第三十七幸栄丸漁船大成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年10月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、勝又三郎、長浜義昭
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:第三十七幸栄丸次席一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:大成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
幸栄丸…右舷船首部外板に擦過傷
大成丸…船首張出し部を折損

    原因
幸栄丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大成丸…見張り不十分、警告信号不履行、灯火・形象物不表示、船員の常務(避航動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十七幸栄丸が、動静監視不十分で、法定の灯火を表示せずに停留している大成丸を避けなかったことによって発生したが大成丸が、見張り不十分で警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月16日02時50分
千葉県九十九里浜沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三十七幸栄丸 漁船大成丸
総トン数 499トン 7.3トン
全長 76.14メートル
登録長 11.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 367キロワット
3 事実の経過
第三十七幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)は、主に鋼材の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、船長C、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト約570トンを積み、船首1.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成9年10月15日17時40分千葉港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して茨城県鹿島港に向かった。
翌16日00時00分A受審人は、勝浦灯台から218度(真方位、以下同じ。)13.6海里の地点で、船長と交代して単独の船橋当直に就き、引き継いだ059度の針路と全速力前進とした11.4ノットの対地速力のまま自動操舵で進行し、01時08分同灯台から146度4.8海里の地点で左転し、針路を037度に定めて北上した。
A受審人は、02時20分太東埼灯台から118度7.2海里の地点に達したとき、正船首方やや右側5.7海里のところに大成丸の明るい作業灯を視認し、同時26分同灯台から110度7.5海里の地点で、6海里レンジとしたレーダーにより、同船の映像をほぼ同方位4.6海里に認め、同船までの距離がまだ遠いことから、操舵室左舷後方の海図台のところで船尾方を向き、鹿島港入港予定時刻を求めるなど航海記録の整理作業を始めた。
02時39分A受審人は、太東埼灯台から094度8.5海里の地点に達したとき、ほぼ正船首方2.1海里のところに大成丸の作業灯を認め得る状況であったが、航海記録の整理作業に熱中し、同船に対する動静監視を行うことなく進行し、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、このことに気付かず続航した。
A受審人は、02時48分半大成丸と正船首方500メートルに接近したとき、同船が漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げていないことから、漁ろうに従事している船舶であることは分からないものの、ほぼ停留状態であることを知り得る状況にあったが、依然、大成丸に対する動静監視を十分に行わなかったことから、このことに気付かず、右転するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
こうしてA受審人は、航海記録の整理を終え、操舵室右舷後部に移ってコーヒーの準備を行っていたとき、02時50分太東埼灯台から083度9.8海里の地点において、幸栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が大成丸の左舷船首に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
衝突直後A受審人は、右舷中央部至近に明るい灯火が見えたので、右舷ウイングに出て大成丸を認め、衝突に気付いた。C船長は、自室で休んでいたところ、衝突した旨の報告を受け、昇橋して事後の措置にあたった。
また、大成丸は、全長14メートルのエアホーンを装備した刺網漁業等に従事FRP製漁船で、固式刺網漁の目的で、B受審人ほか2人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同月16日01時00分千葉県大原漁港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して同県太東漁港東方沖合の漁場に向かった。
ところで大成丸の固定式刺網漁は、長さ約150メートル高さ約4メートルで上部に浮きを、下部に鉛を編み込んだ綱を付けた網を1張りとし、1張り目を水深20メートルから30メートルの海底にほぼ東西方向に、その南側に約50メートルの間隔で平行に次の網を、順次全部で5張りの網を前日の13時ごろ設置して翌日の02時ごろ揚網をしていた。揚網にかかる時間は、1張りに25分から30分で、西方に向首して網の東端から揚げ始め、網が垂直に揚がるよう機関と舵を適宜使用して西方に移動しながら行っていた。
B受審人は、01時40分ごろ漁場に着き、漁ろうに従事している船舶が表示する灯火を掲げず、船首尾のマスト間に張ったロープに吊るした200ワットの作業灯3個と操舵室前面右舷側の500ワットの作業灯1個を点灯し、自身は操舵室で操船にあたり、甲板員の1人を右舷中央部の揚網機に就け、他の甲板員は甲板上で漁獲物の整理にあたらせて揚網にかかった。
02時39分B受審人は、前示衝突地点付近で3張り目の揚網にかかり、機関と舵を適宜使用して約0.2ノットの対地速力で西に移動しながら西北西に向首したとき、4個の明るい作業灯がやや周囲の見張りの妨げとなっていたものの、左舷正横前1点2.1海里のところに幸栄丸の白、白、緑3灯を視認することができる状況であったが、明るい作業灯を点灯してほぼ停留している状態であることから、接近する他船が自船の存在を認めて避航してくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、右舷中央部の揚網機付近の海面を見ながら揚網のための操船を続け、その後幸栄丸の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近してきたが、このことに気付かず、同時48分半同船と500メートルに接近したが、依然このことに気付かないまま、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらずに揚網作業を続けた。
02時50分少し前、大成丸が297度に向首しているとき、B受審人は、漁獲物の整理にあたっていた甲板員の叫び声で、左舷至近に幸栄丸の船体を視認し、機関を全速力後進にかけたが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸栄丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、大成丸は船首張出し部に折損を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、千葉県九十九里浜沖において、北上中の幸栄丸が、動静監視不十分で、法定の灯火を表示せずにほぼ停留して操業中の大成丸を避けなかったことによって発生したが、大成丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり九十九里浜沖を北上中、前路に明るい作業灯を点灯した大成丸を認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航海記録の整理作業に熱中し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を避けるため措置をとることなく進行して衝突を招き、幸栄丸の右舷船首外板に擦過傷及び大成丸の船首張出し部に折損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、九十九里浜沖において、明るい作業灯を点灯し、ごく低速で移動しながら揚網のための操船を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意があった。しかるに、同人は、明るい作業灯を点灯してほぼ停留状態の自船を、接近する他船が認めて避航してくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらずに揚網のための操船を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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