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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月13日20時07分 来島海峡中水道 2 船舶の要目 船種船名 貨物船第二十一住吉丸
漁船蛭子丸 総トン数 198トン 4.8トン 全長 57.6メートル 16.86メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 出力
625キロワット 漁船法馬力数 15 3 事実の経過 第二十一住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材690トンを積載し、船首2.50メートル船尾3.75メートルの喫水をもって、平成9年1月13日09時40分東播磨港を発し、日没後は航行中の動力船の灯火を表示して来島海峡経由で徳山下松港に向かった。 A受審人は、船橋当直を甲板長との単独6時間交代制として瀬戸内海を西行し、17時45分ごろ高井神島灯台の北東方2.5海里ばかりの地点で甲板長と交代して当直に就き、来島海峡中水道を通過する予定で推薦航路線の右側をこれに沿って航行した。 19時52分ごろA受審人は、来島海峡航路第7号灯浮標を右舷側500メートルに見て来島海峡航路に入り、中水道に向け徐々に右転しながら航行を続け、20時03分半ナガセ鼻灯台から156度(真方位、以下同じ。)860メートルの地点に達したとき、針路をほぼ中水道中央に向く356度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じ、12.4ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 20時05分半A受審人は、ナガセ鼻灯台から096度300メートルの地点に至り、中渡島潮流信号所を右舷側200メートルに並航したとき、ほぼ正船首500メートルに右舷灯を見せた蛭子丸を初めて認め、同船の監視を続ければ、その接近模様から通常の航行船ではなく漂流中の船舶であり、同船に向け衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かる状況であったが、運転不自由船の灯火を掲げていなかったこともあって、いちべつしただけで同船が南下中の漁船で右舷側を対してかわるものと思い、動静監視を十分に行っていなかったので、同船が漂流中であることに気付かず、同船から十分に離す進路とするなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。 20時06分半A受審人は、蛭子丸に方位変化がなく、依然右舷灯を見せているのを認め、右舷対右舷で航過しようと左舵を取ったところ、その直後、蛭子丸の舷灯が紅に変わったことから機関停止、更に全速力後進としたが及ばず、20時07分住吉丸は、ナガセ鼻灯台から025度630メートルの地点において、ほぼ原針路、原速力のまま、その船首が、蛭子丸の左舷中央部に、前方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は低潮時で、衝突地点付近には2.4ノットの北流があった。 また、蛭子丸は、小型底引き網漁業に従事する、汽笛不装備のFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日19時30分今治港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して愛媛県津島北方沖合の漁場に向かった。 19時51分半B受審人は、ナガセ鼻灯台から152度660メートルの地点に達し、馬島南東端に並航したとき、浮遊していた径50ミリメートルの化繊ロープを推進器翼に巻き込んで機関が停止したため、船尾甲板の検査口から柄の長いカマを使ってこれを切り離すこととし、甲板員に同作業を行わせ、自らは照明灯で検査ロを照らし、運転不自由船の灯火を掲げないまま作業に取りかかったところ、蛭子丸は、折からの潮流により、船首を今治方向に向け、ときおり左右に振りながら358度の方向に2.4ノットの対地速力で圧流され始めた。 20時02分B受審人は、ナガセ鼻灯台から054度340メートルの地点に達したとき、中渡島南方に来島海峡航路を北止する住吉丸の白、白、緑3灯を認め、まもなく同船が徐々に右転し、中水道に向首する態勢となったが同船が漂流中の自船を避航してくれるものと思い、その後動静監視を十分に行わないまま作業を続けた。 20時05分半B受審人は、住吉丸が中渡島潮流信号所の西方200メートルの地点に達して自船に500メートルまで近づいたのを認めることができ、その後同船が自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、作業に気を取られ、依然、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、照明灯を住吉丸に向け照射するなどの注意喚起信号を行わず、蛭子丸は、216度を向き、2.4ノットの対地速力で漂流中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、住吉丸は、左舷船首に擦過傷を生じ、蛭子丸は、左舷中央部外板に破口を生じるとともに、船橋上部のマストが損傷し、B受審人及び甲板員が約1箇月の入院加療を要する頚部、腰部捻挫等をそれぞれ負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、来島海峡中水道において、漂流中の蛭子丸が、運転不自由船の灯火を掲げなかったばかりか、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことによって発生したが、北上中の住吉丸が、動静監視不十分で、漂流中の蛭子丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、北流の来島海峡中水道において、浮遊ロープを推進器翼に巻き込んで機関が停止し、運転不自由船の灯火を掲げないまま、同ロープの取り外し作業をして漂流中、同水道を北上する住吉丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断し、接近したら照明灯などによる注意喚起信号を行うことができるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、相手船が漂流中の自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、住吉丸の接近に気付かず、注意喚起信号を行うことなく作業を続けて衝突を招き、自船の左舷側外板に破口及びレーダースキャナー等に損傷を、住吉丸の左舷船首に擦過傷をそれぞれ生じさせ、自身及び甲板員も頚部、腰部捻挫等をそれぞれ負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、夜間、北流の来島海峡中水道を北上中、正船首に蛭子丸の右舷灯を認めた場合、同船との衝突の有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船と右舷側を対してかわるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が漂流中であることに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、蛭子丸乗組員を負傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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