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1998年(平成10年)

平成10年長審第20号
    件名
漁船第六十三源福丸漁船無弥丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第六十三源福丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:無弥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
源福丸…左舷船尾部外板に凹損
無弥丸…船首部を大破

    原因
無弥丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
源福丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、無弥丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第六十三源福丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月8日02時10分
長崎県五島列島白瀬北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十三源福丸 漁船無弥丸
総トン数 270トン 4.9トン
全長 55.75メートル
登録長 12.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 860キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第六十三源福丸(以下「源福丸」という。)は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船2隻で構成される大中型まき網漁業船団の鋼製運搬船で、A受審人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首2.55メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成9年3月27日05時45分長崎県館浦漁港を僚船4隻とともに発し、同県五島列島西南西方沖合の漁場に至って操業を開始した。
同年4月7日23時00分ごろA受審人は、五島列島白瀬北西方41海里ばかりの地点で、二等航海士と船橋当直を交代して甲板員と2人で4時間の同当直に就き、翌8日01時00分五島白瀬灯台(以下「白瀬灯台」という。)から321度(真方位、以下同じ。)28.6海里の地点で、針路を166度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの速力とし、魚群探素を行いながら手動操舵で進行した。
01時40分ごろA受審人は、左方から接近する小型漁船群を認めたので、7.9ノットの微速力前進として同漁船群を替わして続航したところ、同時50分白瀬灯台から307度19.5海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首39度6海里ばかりに左方から接近する無弥丸を含む5、6隻の小型漁船群の映像を認めた。
02時00分A受審人は、白瀬灯台から305度18.5海里の地点において、網船からの指示により、針路を180度に転じ、接近する小型漁船群の動静を見守りながら同一速力で進行するうち、同時06分半左舷船首51度1海里に無弥丸の白、緑2灯を含む同漁船群の灯火を視認するようになり、その後動静を監視していたところ、同漁船群の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、小型漁船は至近に迫ってから急に避けたりすることがあるので、そのうち自船の進路を避けるものと思い、接近する同漁船群に対して速やかに警告信号を行うことなく、そのまま続航した。
02時09分少し前A受審人は、無弥丸と同船の南側を航行する1隻及び北側を航行する数隻の小型漁船が互いに接近してほぼ1列となった状態で、自船を避航する気配を見せないまま左舷前方約650メートルに接近したので避航は困難と思い、機関を停止し、依然警告信号を行わないで、同漁船群の様子を見守っているうち、無弥丸のみが自船を避航する気配を見せないまま左舷船尾至近に迫ったのを認めたものの、前後至近を他の小型漁船が航行していてどうすることもできず、02時10分白瀬灯台から302度17.9海里の地点において、残速力が約3ノットとなり、180度に向首したままの源福丸の左舷船尾部に、無弥丸の船首が前方から74度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、視界は良好であった。
また、無弥丸は、一本釣り漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あかむつはえ縄漁の目的で、船首0.45メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、同月8日00時00分長崎県小値賀町斑漁港を発し、僚船十数隻とともに白瀬西北西方34海里ばかりの漁場に向かった。
00時15分B受審人は、斑島灯台から010度800メートルの地点で、針路を286度に定め、機関を全速力前進にかけて14.0ノットの速力とし、手動操舵で進行した。
00時37分ごろB受審人は、付近には僚船以外に他船が見当たらなかったところから、前回の操業に切れたはえ縄の一端と標識用の旗竿とを連結するロープを補修することとし、操舵を手動から自動に切換え、操舵室を無人として船尾甲板でロープの補修作業に取りかかった。
02時06分半B受審人は、白瀬灯台から303度17.1海里の地点に達したとき、右舷船首23度1海里に、源福丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、ロープの補修作業に気をとられ、前路の見張りを十分に行うことなく、同船の存在に気付かないまま続航した。
02時09分少し前B受審人は、源福丸の方位が変わらず約650メートルに接近したものの、依然同船の存在に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることができないまま進行中、原針路、原速力で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、源福丸は、左舷船尾部外板に凹損を生じ、無弥丸は、船首部を大破したが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
本件は、長崎県五島列島白瀬北西方沖合において、魚群探素を行いながら南下中の源福丸と、漁場へ向けて西行する小型漁船群うちの1隻である無弥丸とが互いに進路を横切る態勢で航行中に衝突したものであり、適用される航法について検討する。
源福丸は、衝突の3分半前無弥丸が所属する小型漁船群の各船と1海里に接近し、その後同漁船群の各船を左舷側に見てその方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったもので、単に無弥丸との間にのみ見合い関係が生じていたのではなく、同漁船群の各船との間にも見合い関係が生じていたのであり、針路、速力を保持すれば、同漁船群の各船と間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとることができない状況であったと認められる。
また、無弥丸は、同船の南側を航行する1隻及び北側を航行する数隻の僚船と互いに接近してほぼ1列となった状態で西行中であり、右舷側から衝突のおそれがある態勢で接近する源福丸を避航するにあたっては、僚船の存在によって自船の行動が著しく制限される状況であったと認められる。
従って、本件に海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのは妥当でなく、船員の常務によって律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県五島列島白瀬北西方沖合において、魚群探索を行いながら漁場へ向けて南下中の源福丸と、僚船と集団で漁場へ向けて西行中の無弥丸とが衝突のおそれがある態勢で接近した際、無弥丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが源福丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、僚船と集団で長崎県五島列島白瀬北西方沖合を漁場へ向けて1人で操船に当たって西行する場合、前路の他船を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾甲板での漁具の補修作業に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれがある態勢で接近する源福丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して同船との衝突を招き、源福丸の左舷船尾部外板に凹損を生じさせ、無弥丸の船首部を大破させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、長崎県五島列島白瀬北西方沖合を魚群探索を行いながら南下中、左方から接近する無弥丸が所属する小型漁船群を認め、その後同漁船群が衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、小型漁船は至近に迫ってから急に避けたりすることがあるので、そのうち無弥丸が自船を避けるものと思い、速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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