|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月25日13時40分 熊本県牛深市下須島砂月浦 2 船舶の要目 船種船名 瀬渡船石鯛丸
漁船ちどり丸 総トン数 0.72トン 全長 15.40メートル 登録長
5.30メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 316キロワット 漁船法馬力数 9 3 事実の経過 石鯛丸は、最大搭載人員を14人とするFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.30メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成9年1月25日04時熊本県牛深市須ロ浦の牛深港黒島防波堤灯台から013度(真方位、以下同じ。)820メートルばかりの係留地を発し、同市砂月浦南方のガン瀬に2人、同浦東方の法ケ島に1人の釣り客を瀬渡しし、同時30分ごろ係留地に戻った。 A受審人は、自宅で休息をとったのち、法ケ島の瀬渡客を収容する目的で、13時20分係留地から同島に向かう航行の途、ガン瀬に近寄って瀬渡客の安全を確認したのち、13時35分法ケ島49メートル頂(以下「49メートル頂」という。)から232度1.9海里の地点で、築島と下須島間の狭い水路を航行して法ケ島に向かうこととし、針路を045度に定め、機関を全速力前進にかけて15ノットの対地速力とし、手動操舵で進行した。 ところで、A受審人は、ガン瀬の釣り客の安全を確認するときは、操舵室の椅子の上に立ち、操舵室の天窓から上半身を出して行い、針路を定めるにあたっても天窓から前方の状況確認を行い、その際、自船の左舷船首方に潮帆を張って一本釣りを行っている漁船を一隻認めたが、右舷前方で漂泊中のちどり丸を見落としたまま、北西風が強くて飛沫(ひまつ)が顔にかかるので、同窓を閉め、椅子に腰を掛けて操船にあたった。しかし、同人は、椅子に座って操船すると正船首から左右10度ばかりが死角となり、前路の見通しが妨げられることから、平素は船首を左右に振って死角を補うように操船していた。 13時39分A受審人は、49メートル頂から239度1.0海里の地点に達したとき、右舷船首10度500メートルのところに、船首を南西方に向けて漂泊中のちどり丸を視認できる状況にあったが、定針時に左舷船首方に認めた漁船が自船の前路に風で圧流されてくるように見えたので、同船との船間距離を保つことに気をとられ、船首を左右に振るなど死角を補う見張りを行うことなく、ちどり丸に気付かないまま、同時39分半針路をちどり丸に向首することとなる065度に転じて進行した。 石鯛丸は、A受審人が見張り不十分でちどり丸に気付かず、同船を避けることができないまま続航中、13時40分49メートル頂から240度1,360メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首がちどり丸の右舷中央部に前方から65度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。 また、ちどり丸は、木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いかを釣る目的で、船首0.35メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日13時15分熊本県砂月漁港を発し、同時28分ごろ衝突地点付近に至り、機関を中立運転とし、船首を南西方に向けて右舷船尾に座り、漁ろう中であることを示す形象物を掲げないまま、いか釣りを始めた。 13時38分少し前B受審人は、右舷船首約5度1,000メートルばかりのところに北上する石鯛丸を初認したが、いちべつして同船が自船の北側に向いていたので、自船の右舷側を無難に航過して行くものと思い、その後、同船に対する動静監視を行うことなく、同時39分半石鯛丸が右転して自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かないまま、早期に中立運転とした機関のクラッチを入れて前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらないで釣りを続けた。 ちどり丸は、船首を南西方に向けて漂泊中、13時40分わずか前B受審人が右舷船首至近に迫った石鯛丸に気付き、急いで機関のクラッチを入れて前進とし、舵柄を左舵一杯としたが、及ばず、船首が180度に向いたとき前示のとおり衝突した。 衝突の結果、石鯛丸は、船首部に擦過傷を生じ、ちどり丸は、右舷中央部を大破して沈没し、のち引き揚げられたものの、廃船とされた。また、B受審人は、肋骨を骨折するなどの重傷を負った。
(原因) 本件衝突は、熊本県牛深市下須島砂月浦において、石鯛丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のちどり丸を避けなかったことによって発生したが、ちどり丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、熊本県牛深市下須島砂月浦において、瀬渡しした釣り客を収容するため、下須島と築島の間の狭い水道に向けて航行する場合、船首部に死角を生じていたのであったから、前路の状況を早期に把握できるよう、船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方で潮帆を張って漁労中の漁船に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のちどり丸に気付かないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を、ちどり丸の右舷中央部に破口を生じて同船を沈没させ、B受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、熊本県牛深市の下須島と築島間の水路出入口付近でいかを釣るため漂泊中、右舷前方に同水路に向けて接近する他船を視認した場合、その後の同船の動向が把握できるよう、引き続き同船に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いちべつしただけで自船の右舷側を無難に替わって行くものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、早期に中立運転とした機関のクラッチを入れて前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとらないまま、漂泊していて衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|