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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月14日13時50分 佐世保港 2 船舶の要目 船種船名 漁船住吉丸
プレジャーボートヒカリ3号 総トン数 4.9トン 全長 13.60メートル 6.58メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 漁船法馬力数 90 出力
44キロワット 3 事実の経過 住吉丸は、いか一本釣り漁業などに従事し、ほぼ船体中央部に操舵室を設けたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、いか一本釣り漁の目的で、船首0.40メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成10年6月14日13時30分休養のため寄港した佐世保港第1区佐世保川沿いの係留地を発し、同港西方15海里ばかり沖合の漁場に向かった。 ところで、住吉丸は、高速力で航行すると、船首が浮上して操舵室中央から船首左右各舷に10度ばかり死角を生じることから、A受審人は、平素、立ち上がって操舵室の天窓から顔を出して見張りをしたり、レーダーを利用したりして死角を補う見張りを行っていた。 A受審人は、発航したのち機関を徐々に増速し、やがて機関を半速力前進にかけて19.0ノットの対地速力とし、天窓から顔を出して手動操舵で進行し、13時42分少し過ぎ高後埼灯台から073度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点で、針路を高後埼と寄船埼の間に向かう250度に定めたとき、小雨模様のうえ風が強かったので顔を引っ込め、その後レーダーを監視しながら見張りに当ったものの、0.5海里としたレンジを変えることも、海面反射を調整することもせず、いすに腰掛けた姿勢で同速力のまま続航した。 13時47分半A受審人は、高後埼灯台から075度2,200メートルの地点に達したとき、高後埼手前のほぼ正船首1,500メートルのところに、停留して魚釣りを行っているヒカリ3号(以下「ヒカリ」という。)を認めることができ、その後衝突のおそれがある態勢で同船に向首接近する状況となったが、天候が悪いことから高後埼付近の航路で停留して魚釣りをしている他船はいないものと思い、天窓から顔を出して前方を見たり、レーダーのレンジを変えたり海面反射を調整したりするなど、船首の死角を補う見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま同じ姿勢で進行した。 こうして住吉丸は、衝突を避けるための措置がとられずに続航中、13時50分高後埼灯台から085度750メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が、停留中のヒカリの右舷船尾部に左舷後方から30度の角度で衝突した。 当時、天候は小雨が降ったり止んだりして風力4の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視程は2海里ばかりであった。 また、ヒカリは、船体ほぼ中央部の右舷側に操縦席を設け、専ら佐世保港内及びその付近を航行する港則法上の雑種船と解されるFRP製プレジャーボートで、船外機1基を備え、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、たい釣りを行う目的で、船首0.20メートル船尾0.57メートルの喫水をもって、同日06時00分係留していた長崎県針尾漁港を発し、針尾瀬戸水ノ浦にて釣餌を仕込んだのち、高後埼と寄船埼間の東方付近に向かった。 ところで、高後埼と寄船埼を結ぶ線の東方の水域は、佐世保港内で、かつ、航路が設定され、航路の北側境界は高後埼に接し、南側境界は寄船埼に接するため、同港に出入航する全ての船舶が航路を通航することとなり、船舶の通航か輻輳(ふくそう)するところであった。 07時00分B受審人は、高後埼灯台から078度580メートルの地点に至ったとき、同地点が、港内で、かつ、船舶の通航が輻輳することを承知していたものの、船首からパラシュート型シーアンカーを投じ、同アンカーに合成繊維製ロープを取り付けて8メートルばかり延出した状態で漂泊し、風潮流に圧流されては潮上りをして釣りを続けた。 13時00分B受審人は、3回目の潮上りを行って最初にシーアンカーを投入した地点に戻ったのち、13時47分半前示衝突地点付近の航路まで圧流され、ほぼ停留して船首を220度に向けた態勢で、操縦席に腰掛けて船尾方を向いて釣りをしていたとき、左舷船尾30度1,500メートルのところに、自船に向首接近する態勢の住吉丸を初めて認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で衝突を避けるための措置をとらないまま接近したが、いつも航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれていたことから、住吉丸もそのうち避けてくれるものと思い、同船との衝突を避けるための措置を速やかにとることなく、釣り糸を手繰りながら同船を見ていたところ、同時50分少し前同船が至近に接近したとき、初めて異常に気付いたものの、もはや衝突を避けるための措置をとる暇もなく、友人2人とともに海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、住吉丸は、左舷船首船底外板に亀裂を生じ、のち修理されたが、ヒカリは、船尾部などを圧壊し、針尾漁港に曳(えい)航されたものの、のち廃船となった。また、B受審人ほか同人の友人1人がともに全治1週間の頚部捻挫(けいぶねんざ)などを負った。
(原因) 本件衝突は、佐世保港高後埼東方の水域において、漂泊するヒカリに住吉丸が衝突のおそれがある態勢で接近中、ヒカリが、航路でみだりに停留していたばかりか、住吉丸との衝突を避けるための措置を速やかにとらなかったことによって発生したが、住吉丸が、見張り不十分で、ヒカリとの衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、佐世保港高後埼東方の航路で漂泊してたい釣り中、自船に向首接近する住吉丸を認めた場合、みだりに停留してはならない水域であったから、同船との衝突を避けるための措置を速やかにとるべき注意義務があった。しかし、同人は、いつも航行中の他船が避けてくれていたので、住吉丸もそのうち自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置を速やかにとらなかった職務上の過失により、停留したままで住吉丸との衝突を招き、住吉丸が、左舷船首船底外板に亀裂を生じ、ヒカリが船尾部などを圧壊して廃船となり、同人ほか同人の友人がともに全治1週間の頸部捻挫などを負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、佐世保港西方沖合の漁場に向けて同港内の高後埼東方水域を、船首死角のある操舵室で見張りに当って西行する場合、前路の見通しが十分でなかったから、他船を見落とさないよう、天窓から顔を出して見張りをしたり、レーダーを調整したりするなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、天候が悪かったことから小型の釣り船などは前路で停留して魚釣りをしている ことがないものと思い、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ヒカリとの衝突を招き、前示損傷等を生じるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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