日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10長審第46号
    件名
漁船第五十二吉栄丸漁船勝丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:名第五十ニ吉栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:勝丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
吉栄丸…損傷なし
勝丸…右舷船尾部を大破、のち廃船、船長が、1箇月の入院加療を要する全身打撲傷

    原因
吉栄丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
勝丸…動静監視不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五十ニ吉栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の勝丸を避けなかったことによって発生したが、勝丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月29日10時50分
長崎県五島列島中通島大浦内
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十二吉栄丸 漁船勝丸
総トン数 4.00トン 0.49トン
登録長 9.82メートル 3.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70  30
3 事実の経過
第五十二吉栄丸(以下「吉栄丸」という。)は、五島列島周辺においていか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成10年4月29日長崎県南松浦郡上五島町飯ノ瀬戸漁港において漁獲物を水揚げしたのち、同日夕刻出漁まで待機する目的で、船首0.52メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日07時30分同漁港を発し、同漁港近くの仮泊地に向かった。
07時40分A受審人は、同漁港から1,500メートルばかり南方の焼崎浦に投錨し、その後仮泊待機していたものの、前日の漁が思わしくなかったうえ、五島列島周辺では波高2メートルばかりとなることをラジオの天気予報で知っで帰航することとし、10時15分仮泊地を発し、長崎県五島列島中通島大浦内最奥部に向けて帰途に就き、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、前方の見通しが妨げられることがない操舵室で手動操舵に当たり、若松瀬戸から大浦内に入り、水路に沿って進行した。
ところで、A受審人は、五島列島中通島の雌岳403メートル頂(以下「雌岳頂」という。)から191度(真方位、以下同じ。)2,600メートルの大浦内最奥部に係留ブイを設けて吉栄丸を係留し、出漁中は同プイに自らが所有して交通の用とするプレジャーボートを係留していた。
10時47分A受審人は、雌岳頂から205度1,620メートルの呼埼付近に達したとき、機関を半速力前進に減じて6.0ノットの対地速力とし、右舷側に見る呼埼から小作鼻にかけての陸岸を50メートルばかり隔てるように針路を徐々に右に転じながら続航した。
こうして、10時48分少し過ぎA受審人は、雌岳頂から196度1,750メートルの地点に達したとき、右舷船首前方320メートルのところに、漂泊中の勝丸を視認することができ、その後係留ブイに向けて進行すると同船に著しく接近する状況となったが、大浦内最奥部では埋立工事が行われていたため、海水が濁って魚があまり釣れないことから、前路に漂泊して釣りをしている他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、右舷側を見て陸岸との距離を保つことのみに専心し、勝丸にも同船の南方約200メートルに停留して釣りをしているプレジャーボートにも気付かないまま進行した。
吉栄丸は、漂泊中の勝丸を避けずに原速力のまま続航中、A受審人が、小作鼻の付け回しを終え、右側の陸岸との相対位置を確かめながら左転し、針路を同人所有のプレジャーボートにほぼ向首する182度に定めた直後、10時50分雌岳頂から193度2,030メートルの地点において、その船首が、勝丸の右舷船尾部に、前方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風がなく、視界良好であった。
また、勝丸は、一本釣り漁業に従事する船外機を装備した和船型FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、きす釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.21メートルの喫水をもって、岡日06時57分雌岳頂から188度2,630メートルの係留桟橋を発し、小作鼻の沖合付近に向かった。
ところで、B受審人は、漁獲量が近年著しく減少して漁獲物を市場に出せず、最近では自らの家族等が食す程度を獲る目的で、昼間のみ同桟橋から最寄りの海域で、音響を発するなどの信号設備を備えずに釣りを行っていた。
07時ごろB受審人は、小作鼻沖合付近に達し、船外機を停止して漂泊を始め、船体中央部限生け簀(す)のさぶた上に左舷側を向いて腰掛け、左手で艪(ろ)を漕(こ)ぎ、右手に釣り糸を持ち、堀所を少しずつ変えながら釣りを行い、10時40分前示衝突地点に至り、その後135度に向首して停留し、艪を使用して態勢を保持しながらきす釣り中、同時48分少し過ぎ左舷船尾方320メートルのところに、小作鼻付近の陸岸の陰から吉栄丸が現れ、同船が同陸岸を付け回しながら接近するのを認めたが、一瞥(いちべつ)して同船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行うことなく、その後同船が自船を避けずに衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置もとらないまま、釣り糸を垂らした海面を見つめていた。
10時50分わずか前B受審人は、ふと左舷船尾方を見て吉栄丸が至近距離に迫っていることを認め、必死に艪を漕いだものの、ほぼその場で右回頭し、船首が317度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、吉栄丸は、ほとんど損傷がなかったが、勝丸は、右舷船尾部を大破し、係留桟僑まで曳航されたのち廃船とされた。また、B受審人が、1箇月の入院加療を要する全身打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県五島列島中通島の大浦内最奥部の海域において、吉栄丸が、見張り不十分で、漂泊中の勝丸を避けなかったことによって発生したが、勝丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県五島列島中通島の大浦内小作鼻辺りの海域を右転しながら航行する場合、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漂泊して釣りをしている他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、陸岸との距離を保つことのみに専心して右舷側を見たまま、勝丸を避けることができずに衝突を招き、勝丸が廃船となり、B受審人が全身打撲を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県五島列島中通島の大浦内小作鼻辺りの海域で漂泊してきす釣り中、付近の陸岸を付け回しながら自船に接近する態勢の吉栄丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、航行中の他船が漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、吉栄丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、釣りに専心したまま同船との衝突を避けるための措置をとらずに衝突を招き、前示結果を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION