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1998年(平成10年)

平成10年長審第42号
    件名
漁船朝汐プレジャーボート福丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

坂爪靖、原清澄、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:朝汐船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
朝汐…船首部に擦過傷
福丸…船首部を大破、甲板員1人が頭部外傷、甲板員1人が肋骨骨折

    原因
朝汐、福丸…法定灯火不表示

    主文
本件衝突は、朝汐が、法定灯火を表示しないで航行したことと、福丸が、法定灯火を表示しないで航行したこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月25日18時50分
長崎県松島水道
2 船舶の要目
船種船名 漁船朝汐 プレジャーボート福丸
総トン数 0.4トン
登録長 4.60メートル 4.31メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 14キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
朝汐は、最大速力が7ノットを超える船外機付きの和船型FRP製漁船で、A受審人と息子の甲板員Cの2人が乗り組み、あわび漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、平成9年12月25日18時15分長崎県瀬戸港向島船だまりを発し、同時30分ごろ同港内で、福島沖合の漁場に至って操業を始めたものの、10分間ばかりで水中照明灯のバッテリーが切れたので操業を打ち切り、同時44分同漁場を発進して帰途に就いた。
ところで、A受審人は、朝汐に法定灯火の設備がなかったが、それまでの夜間航行に際しては、懐中電灯だけを点灯していて支障がなかったので、従来どおりで特に差し支えないものと思い、全長12メートル未満の航行中の動力船が表示しなければならない、白色全周灯1個及び舷灯1対の法定灯火を表示することなく、懐中電灯を携帯したのみで前示のとおり出航していた。
漁場発進後、A受審人は、C甲板員を左舷中央部に船首方を向いて腰掛けさせ、自らは右舷船尾部に腰掛けて左手で船外機のスロットルレバーを握って操船に当たり、右手で単一乾電池4個入りの白色懐中電灯を持ち、前方や沖合などを照らしながら福島東岸沿いを南下し、同島南端と頭島との間の水路を経て18時48分半頭島南灯台から338度(真方位、以下同じ。)660メートルの地点に達したとき、針路を松島北東岸の防波堤に設置された水銀灯の明かりにほぼ向首する328度に定め、機関の回転数を全速力前進より少し下げた8.0ノットの速力として進行した。
定針したとき、A受審人は、ほぼ正船首720メートルのところに、福丸が存在し、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近したが同船が法定灯火を表示しておらず、光力が弱くて遠くを照射することができない白色懐中電灯を点灯していただけであったので、これを視認することができず、同船の存在に気付かないまま、原針路、原速力で続航中、18時50分頭島南灯台から334度1,040メートルの地点において、突然船体に衝撃を感じ、朝汐の船首が福丸の船首にほぼ真正面から衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、福丸は、最大速力が7ノットを超える船外機付きの和船型FRP製プレジャーボートで、B受審人と甲板員Dの2人が乗り組み、あわび漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、同日18時35分瀬戸港向島船だまりを発し、頭島周辺の水域に向かった。
ところで、B受審人は、一本釣り漁やはえ縄魚のときには同人所有の漁船を使用していたが、あわび漁のときには同人の弟が所有する福丸を使用していた。また、同人は、福丸に法定灯火の設備がなく、船舶検査証書にも夜間の航行を禁止する旨の記載があることを知っていたが、懐中電灯だけを点灯して航行しても、自船の方で注意を払ってさえいれば航行に差し支えないものと思い、全長12メートル未満の航行中の動力船が表示しなければならない、白色全周灯1個及び舷灯1対の法定灯火を表示することなく、懐中電灯を携帯したのみで前示のとおり出航した。
発航後、B受審人は、D甲板員を船体中央部に船尾方を向いて腰掛けさせ、自らは右舷船尾部に腰掛けて左手で船外機のスロットルレバーを握って操船に当たり、右手で単一乾電池4個入りの白色懐中電灯を持って周囲を照らしたり、時々手元に置いたりしながら松島水道を南下し、18時48分半頭島南灯台から332度1,370メートルの地点に達したとき、針路を同灯台の灯火を正船首少し右方に見る145度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの速力で進行した。
定針したとき、B受審人は、ほぼ正船首720メートルのところに、朝汐が存在し、その後ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船が法定灯火を表示しておらず、光力が弱くて遠くを照射することができない白色壊中電灯を点灯していただけであったので、これを視認することができず、同船の存在に気付かないまま、原針路、原速力で続航中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、朝汐は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、福丸は、船首部を大破し、のち修理された。また、衝突の衝撃で朝汐のC甲板員が頭部外傷を、福丸のD甲板員が肋骨骨折をそれぞれ負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、長崎県松島水道南口において、北上中の朝汐が、法定灯火を表示しないで航行したことと、南下中の福丸が、法定灯火を衷示しないで航行したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、あわび漁のため長崎県瀬戸港を出航する場合、法定灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで懐中電灯だけを点灯して航行していて支障がなかったので、従来どおりで特に差し支えないものと思い、法定灯火を表示しなかった職務上の過失により、自船の存在を福丸に知らせることができないまま進行して衝突を招き、朝汐の船首部に擦過傷を、福丸の船首部に破口などを生じさせ、朝汐の甲板員に頭部外傷を、福丸の甲板員に肋骨骨折をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、あわび漁のため長崎県瀬戸港を出航する場合、法定灯火を表示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、懐中電灯だけを点灯して航行しても、自船の方で注意を払ってさえいれば航行に差し支えないものと思い、法定灯火を表示しなかった職務上の過失により、自船の存在を朝汐に知らせることができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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