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1998年(平成10年)

平成10年門審第17号
    件名
油送船喜代丸漁船第三大力丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

清水正男、伊藤實、吉川進
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:喜代丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第三大力丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
喜代丸…左舷中央部外板に凹損、ハンドレールに曲損
大力丸…船首に亀裂を伴う凹損

    原因
大力丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
喜代丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三大力丸が、船橋を無人の状態として見張りを十分に行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、喜代丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月8日20時40分
豊後水道
2 船舶の要目
船種船名 油送船喜代丸 漁船第三大力丸
総トン数 5,944トン 80トン
全長 123.00メートル 36.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,471キロワット 672キロワット
3 事実の経過
喜代丸は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型油タンカーで、A受審人ほか13人力乗り組み、ガソリン5,830キロリットル及び軽油3,600キロリットルを載せ、船首6.2メートル船尾7.7メートルの喫水をもって、平成9年4月8日15時25分山口県徳山下松港の出光興産株式会社徳山製油所を発し、鹿児島県鹿児島港に向かった。
A受審人は、19時20分佐田岬灯台から291度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点において、速吸瀬戸及び豊後水道における操船指揮を執るために昇橋し、法定灯火が掲げられていることを確かめ、当直の一等航海士と甲板手を見張りにつけ、同時38分同灯台から203度2.2海里の地点に達したとき、針路を163度に定め、機関を回転数毎分170にかけて推進器の翼角を16度とし、折からの潮流に抗して右方に2度圧流されながら9.7ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
20時00分A受審人は、高甲岩灯台から356度8.1海里の地点に至ったとき、20時からの船橋当直に就いた次席三等航海士と甲板手を見張りにつけ、引き続き操船指揮を執り、同時20分高甲岩灯台から003度5.1海里の地点に達したとき、左舷船首方の漁船群の中で、左舷船首5度4.0海里のところに第三大力丸(以下「大力丸」という。)の掲げる白色作業灯1個を初認したが、魚群探索を行っているものと思って続航した。
A受審人は、20時35分高甲岩灯台から015度3.1海里の地点に達したとき、左舷船首23度1.2海里のところに、大力丸の白、緑2灯、青色蛍光灯及び白色作業灯を認めたが、周囲の漁船の灯火に気を取られ、レーダーを使用するなどして大力丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船がゆっくりと左旋回を繰り返し、潮流に圧流されて北北西方向に移動しながら衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、大力丸に対して警告信号を行うことも、大きく転針して大力丸と十分に距離を離すなど同船との衝突を避けるための措置をとることもなく、大力丸が、白、緑2灯を見せていたことから、次席三等航海士を操舵につけて手動操舵に切り替え、左舵10度をとって針路を同船の船尾方に向く147度に転じ、潮流によって左方に3度圧流されて進行し、同時38分同灯台から023度2.8海里の地点に達したとき、大力丸の船尾を替わしたので元の針路に戻そうとしたところ、同船が白、紅2灯を見せて接近する状況となったので、大力丸の船尾を替わそうとして右舵20度をとって針路を158度に転じて進行した。
こうして、A受審人は、同じ針路、速力で続航し、20時39分少し過ぎ、更に接近する大力丸に対して汽笛を連続して吹鳴し、同時39分半同船の両舷灯を認めて衝突の危険を感じ、舵角70度の右舵一杯をとり、推進器の翼角を0度としたが効なく、20時40分高甲岩灯台から028度2.6海里の地点において、喜代丸は、船首が168度を向いたとき、原速力のまま、その左舷中央部に大力丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には2.6ノットの北北西流があった。
また、大力丸は、大中型旋(まき)網漁業船団に所属する網船の鋼製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか9人が乗り組み、操業の目的で、船首1.6メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同日17時30分僚船と共に大分県松浦漁港を発し、豊後水道の漁場に向かった。
ところで、大力丸が所属する船団は、網船1隻、灯船2隻及び運搬船1隻の合計4隻で構成され、会社の代表取締役であるC指定海難関係人が船団の漁労長として操業全般を指揮していた。
発航後、B受審人は、C指定海難関係人に船橋当直を行わせるに当たり、同指定海難関係人が漁労長として長年の経験があるので指示するまでもないものと思い、船橋において見張りを十分に行うように指示することなく、操業に備えて自室で休息した。
C指定海難関係人は、単独で船橋当直に当たり、津久見東方沖合の漁場に至って魚群の探索を行いながら1.9海里の地点に錨泊していた灯船の付近に達したところ、まだ十分に集魚がなされていなかったので、同灯台から090度1.8海里の地点で漂泊して待機し、同時50分折からの潮流によって北方に圧流されたことから再び灯船の近くに移勧することとし、同灯台から032度1.8海里の地点を発進し、針路を南東方にとり、機関を微速力前進にかけ、7.9ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
20時00分C指定海難関係人は、高甲岩灯台から078度2.1海里の地点に達したところで、左舵10度をとって左転し、船首を東方に向けて漂泊しようとして、機関のクラッチ操作ハンドルを中立の位置としたが、クラッチが前進側に入った状態で機関が微速力前進にかけられ、左舵がとられたまま左旋回をしていることに気付かず、法定灯火に加えで船橋上部のマストに紅灯2個を、同マストの頂部に船団の識別灯である3個の青色蛍光灯を、更に船尾のデリックの先端に白色作業灯1個をそれぞれ点灯したのち、船橋を離れて船橋を無人の状態とし、船橋楼後部に設けられた畳敷きの上に横になり、テレビでプロ野球の観戦を始め、その後も船橋において見張りを行わなかったので、機関が微速力前進にかけられて左舵10度がとられたまま、約370メートルの旋回径でゆっくりと左旋回を続け、折からの潮流に圧流されて北北西方向に移動していることに気付かなかった。
20時35分C指定海難関係人は、右舷前方1.2海里のところに豊後水道を南下する喜代丸の灯火を視認でき、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近することを認め得る状況にあったが、依然、船橋で見張りを行わなかったので、このことに気付かず、左旋回を止めることも、喜代丸との衝突を避けるための措置をとることもなく、テレビの観賞を続けた。
C指定海難関係人は、20時39分半喜代丸の吹鳴する汽笛に気付いて船橋に戻り、初めて接近する同船を認め、衝突の危険を感じて機関を後進にかけたが効なく、大力丸は、船首が258度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝撃で衝突したことを知り、昇橋して事後の措置に当たった。
衝突の結果、喜代丸は、左舷中央部外板に凹損、ハンドレールに曲損を生じ、大力丸は、船首に亀(き)裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、豊後水道において、大力丸が、船橋を無人の状態として見張りが不十分で、機関を前進にかけて左舵をとったまま左旋回を続けたばかりか、喜代丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、南下中の喜代丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
大力丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直を甲板員に行わせる際、船橋において見張りを十分に行うように指示しなかったことと、同甲板員が、当直中に船橋を離れて見張りを行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
B受審人は、夜間、豊後水道において、船橋当直を甲板員に行わせる場合、船橋において見張りを十分に行うように指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同甲板員が漁労長として長年の経験があるので指示するまでもないものと思い、船橋において見張りを十分に行うように指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が船橋を離れて船橋を無人の状態として見張りを行わず、喜代丸に気付かないで、機関が前進にかけられて左舵がとられたまま左旋回を続け、衝突を避けるための措置がとられることなく進行して同船との衝突を招き、喜代丸の左舷中央部外板に凹損、ハンドレールに曲損を、大力丸の船首に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、豊後水道を南下中、前路に大力丸の白、緑灯2灯、青色蛍光灯及び白色作業灯を視認した場合、同船が左旋回を続けながら衝突のおそれのある態勢で接近することを見落とすことのないよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲の漁船の灯火に気を取られ、レーダーを使用するなどして大力丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が左旋回をしながら接近していることに気付かないで、警告信号を行わず、大きく転針して大力丸と十分に距離を離すなど同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行し、大力丸と接近したところで転舵を繰り返して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、夜間、豊後水道において、単独で船橋当直中、漂泊しようとして機関のクラッチ操作ハンドルを中立の位置とした際、クラッチが前進側に入れられたまま左舵が取られ、左旋回を続けていたことに気付かず、船橋を離れて船橋を無人の状態として見張りを行わなかったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、同人が、船橋当直中に船橋を離れたことについて反省している点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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