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1998年(平成10年)

平成10年門審第10号
    件名
瀬渡船長福丸岩場衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

細中美秀、吉川進、西山烝一
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:長福丸船長 海技免状:一級小型船舶繰縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を圧壊、釣客2人が頭骨骨折、頚椎捻挫及び頚髄損傷などの重傷、船長及び釣客5人が顔面切創、頭部打撲などの負傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件岩場衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月4日05時00分
山口県青海島帆止ノ瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船長福丸
総トン数 9.7トン
全長 16.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 360キロワット
3 事実の経過
長福丸は、船首部に瀬渡し台、中央部に操縦室、その後方に船室を有し、専ら瀬渡しに従事する旅客定員12人の2基2軸及び1枚舵を備えたFRP製遊漁兼交通船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客7人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成9年10月4日04時50分山口県青海島の通港田ノ浦防波堤灯台(以下「田ノ浦灯台」という。)から266度(真方位、以下同じ。)1,120メートルにある係留地を発し、帆止ノ瀬戸経由同島北岸の釣り場に向かった。
ところで、帆止ノ瀬戸は、青海島と大島との間にあり、可航幅が約420メートルの狭い水道で、同瀬戸北口付近の、大島北岸にある穴ノ口灯台の北西方400メートルのところには、女瀬と称する高さ6.3メートルの水上岩があり、同瀬と青海島陸岸との間の最狭部は可航幅が約約250メートルで、仙崎湾から青海島北岸への瀬渡船の通航路としてよく利用されていた。また、女瀬の北方約800メートル付近には、青海島陸岸の約100メートル沖合から東北東方向に約1,000メートルにわたって鰤(ぶり)の定置網が設置されていた。
A受審人は、平成8年7月から長福丸の整備と運航に従事し、1箇月に20日間ばかり青海島北岸及び同島周辺に瀬渡し客を運び、その際帆止ノ瀬戸を頻繁通航していたので、この辺りの水路事情についてよく知っており、また、日出2時間前から日没後2時間までの運航も行っていたことから、夜間での航行の経験も十分にあった。そして、青海島北岸への往復には、鰤定置網の東端からの大回りを避け、女瀬の西側を通過して同網の西端と同島との間を航行していた。
A受審人は、発航して間もなく機関を微速力前進にかけて8.0ノットの対地速力とし、操縦室左舷側のいすに腰を掛けて操船に当たり、レーダーを0.5海里レンジに作動させて南下して、田ノ浦灯台から238度1,280メートルの地点に至ったころ、沖ノ礁南方に向け東行し、04時56分半田ノ浦灯台から191度1,100メートルの地点に達したとき、針路を帆止ノ瀬戸南口に向く088度に定め、機関を回転数毎分2,600にかけ、18.0ノットの対地速力に増速して手動操舵により進行した。
04時59分わずか前A受審人は、穴ノ口灯台から237度600メートルの帆止ノ瀬戸南口に至り、針路を019度に転じたとき、同航する小型漁船の灯火を正船首やや左前方に認め、同船に徐々に追いつく状況となったことから、同船の右舷側を追い越してから女瀬の西側に向けることにしたが、日出前で女瀬を視認できなかったのであるから、女瀬までの方位及び距離をレーダーで監視して、同船を追い越しても女瀬と安全な距離を保って航過できるか判断し、同瀬に著しく接近するようであれば、追い越しを取り止めることや女瀬の東側を迂(う)回することなども考慮して航行する必要があった。
ところがA受審人は、女瀬まではまだ距離があるから、小型漁船を追い越したあと女瀬の西側に向けても大丈夫と思い、追い越すことに気をとられ、レーダーを活用して船位を十分に確認することなく、同船の右舷側を追い越す態勢となって続航した。
05時00分少し前A受審人は、小型漁船を左舷正横約20メートルに見て追い越したとき、女瀬まで正船首140メートルに接近していたが、このことに気付かず進行中、05時00分わずか前同船を十分に離したので、女瀬の西側に向けようとして左舵をとったところ、05時00分穴ノ口灯台から304度400メートルの女瀬の南東側の岩場に、ほぼ原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期にあたり、日出は06時11分であった。
衝突の結果、船首部を圧壊したが、のち修理され、釣客2人が頭骨骨折、頚椎捻挫及び頚髄損傷などの重傷を、A受審人及び釣客5人が顔面切創、頭部打撲などの負傷をそれぞれ負った。

(原因)
本件岩場衝突は、夜間、山口県青海島北岸の釣り場に向け帆止ノ瀬戸を北上中、前路の小型漁船を追い越す際、船位の確認が不十分で、女瀬に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、山口県青海島北岸の釣り場に向け帆止ノ瀬戸を北上中、前路の小型漁船を追い越す場合、日出前で女瀬を視認できなかったのであるから、同船を追い越しても女瀬と安全な距離を保って航過できるかどうか判断できるよう、レーダーを活用して船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、女瀬まではまだ距離があるから、同船の右舷側を追い越したあと女瀬の西側に向けても大丈夫と思い、追い越すことに気をとられ、レーダーを活用して船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、小型漁船を追い越したのち、女瀬に著しく接近して同瀬の岩場との衝突を招き、船首部を圧壊し、釣客7人に頭骨骨折、頚椎捻挫、顔面切創、打僕傷などの負傷を生じさせ、自らも打撲傷などを負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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