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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月8日22時50分 岡山県水島港沖合 2 船舶の要目 船種船名 貨物船鶴栄丸
貨物船第三十八住吉丸 総トン数 499トン
497トン 全長 64.93メートル
66.43メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 735キロワット
735キロワット 3 事実の経過 鶴栄丸は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A受審人ほか4人が乗り組み、キシレン約1,000トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成9年5月8日13時15分山口県岩国港を発し、同日21時30分水島港に至り、日出を待って入港するため、平素錨地として利用している六口島灯標から260度(真方位、以下同じ。)2.9海里の水深約15メートルの航行船舶の少ない港外に、左舷錨を投じ、錨鎖4節を延出して錨泊した。 A受審人は、投錨時に錨泊中の船舶が表示する白色全周灯2個及び危険物積載中の船舶が表示するする灯火を掲げ、甲板上及び構造物を照明する作業灯及び外灯を点灯し、翌朝の入港作業に備え乗組員を休養させ、自らも休憩していたところ、22時50分前示錨泊地点において、鶴栄丸が、296度に向首していたとき、同船の左舷後部に、第三十八住吉丸(以下「住吉丸」という。)の左舷船首部が、前方から40度の角度で衝突した。 当時、天侯は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、衝突地点付近には微弱な東流があった。 サロンで休憩していたA受審人は、衝突の衝撃で気付き直ちに昇橋し、事後の措置に当たった。 また、住吉丸は、専ら広島県と阪神間の砂利採取運搬に従事する船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、海砂約1,550トンを載せ、船首3.6メートル船尾55メートルの喫水をもって、同日21時30分広島県福山港を発し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に向かった。 ところで、B受審人は、当時、ほぼ連日の出入港で忙しかったものの、船橋当直は、他の3人の乗組員を含め4人による約2時間交代制で行い、停泊中の荷役当直は、乗組員が適宜交替しながら行っていたことから、特に疲労が蓄積する状態ではなかった。 B受審人は、出港操船に引き続いて単独の船橋当直に当たり、黒土瀬戸を通過して東行し、22時02分神島外港西防波堤灯台から130度1,800メートルの地点において、針路を099度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 22時44分B受審人は、手島の甚平鼻北方約0.6海里の地点に至り、操舵輪後部にある背もたれ付きのいすに腰掛けたままの姿勢で当直に当たっていたところ、慣れた航路で、視界も良く、気象海象も平穏であったことから気が緩み、甚平鼻北方0.7海里付近に錨泊する大型船を左舷至近に航過したころから、急に眠気を感じたが、居眠りすることはないと思い、いすから立ち上がって外気に当たり、手動で操舵するなど居眠り運航の防止措置をとることなく、同時44分半六口島灯標から259度3.8海里の地点において076度に転針したころ、居眠りに陥り、そのころ正船首1.0海里に錨泊していた鶴栄丸に気付かず、同船を避けないまま続航し、住吉丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、鶴栄丸は、左舷後部居住区付近の外板及び居住区外壁等に、また、住吉丸は、左舷船首部外板等に、それぞれ凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因〉 本件衝突は、夜間、住吉丸が、尼崎西宮芦屋港に向けて水島港沖合を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、錨泊中の鶴栄丸を避けなかったことによって発生した ものである。
(受審人の所為) B受審人が、夜間、単独の船橋当直に当たり水島港沖合を航行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって外気に当たり、手動で操舵するなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、錨泊中の鶴栄丸を避けることなく進行して衝突を招き、鶴栄丸の左舷後部外板及び居住区外壁等並びに住吉丸の左舷船首部外板等に、それぞれ凹損を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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