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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年10月2日15時10分 島原湾早崎瀬戸 2 船舶の要目 船種船名 漁業調査船鶴水
漁船美勇丸 総トン数 27.8トン 3.4トン 登録長 17.00メートル 10.07メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル幾関 出力
316キロワット 漁船法馬力数 70 3 事実の経過 鶴水は、鋼製の漁業調査船で、A受審人ほか2人が乗り組み、同乗者2人を乗せ、水質調査を行う目的で、船首0.79メートル船尾2.14メートルの喫水をもって、平成9年10月2日10時15分長崎県野母漁港を発し、同港西左沖合の樺島灯台から290度(真方位、以下同じ。)3.4海里の水質調査地点に向かった。 その後、A受審人は、前示地点と橘湾の3箇所での水質調査を行ったのち、14時51分鬼池港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から092度2.9海里の水質調査地点に移動して同地点での調査を終え、同時55分同灯台から057度4.5海里の次の水質調査地点に向かうことにした。A受審人は、単独の船橋当直に就いて発進し、針路をほぼ水質調査地点に向く020度に定めて自動操舵とし、機関の回転数を徐々に上げて機関回転数を毎分1,600の全速力前進にかけ、風潮流で5.5度ばかり左方に圧流されて真針路が014.5度となったまま、9.7ノットの対地速力で進行した。 ところで、A受審人は、折からしけ模様で、海面一面に白波を生じ、レーダーの画面上に海面反射が強く現わていたところから、レーダーのレンジを6マイルレンジとし、感度を絞って使用していた。 15時08分A受審人は、左舷船首62度1,000メートルのところに、自船の前路を右方に横切る態勢の美勇丸を視認することができ、その後、その方位にほとんど変化なく衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、折から左舷正横後20度ばかりのところから自船の前路に向けて接近する他船に気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、接近する美勇丸に気付かず、他船が著しく接近するように見えたところから、同船との船間距離を広げるため、針路を右に5度転じて続航した。 鶴水は、右転したのちも依然として美勇丸と互いに衝突のおそれがある態勢で接近したが、なおもA受審人が左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、接近する同船に対し、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできないで進行中、防波堤灯台から065度3.8海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が美勇丸の右舷中央部外板に後方から76度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力5の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近海域には約1.0ノットの西方へ流れる潮流があり、視界は良好であった。 また、美勇丸は、FRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、たちうおの一本釣り漁を行う目的で、船首0.31メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日04時00分ごろ熊本県宇土郡大矢野町瀬高を発し、06時30分ごろ樺島灯台の北東方5.5海里ばかり沖合の漁場に至って操業を始め、東北東風が強まってきたところから、たちうお約60キログラムを獲たところで操業を中止して帰港することにし、荒天準備として4つのいけすに海水を張り、12時30分ごろ同漁場を発進して漁獲物の水揚げ地である同町柳に向かった。 14時40分ごろB受審人は、瀬詰埼灯台を航過したところ、海面の状況がやや静かになり、いけすに海水を張ったままでは速力がでないので、排水することにし、機関回転数を下げて速力を減じ、排水作業を始めた。 B受審人は、いけすの排水作業を終え、鬼池港と口之津港間を航行するフェリーを避航したのち、周囲を見渡したところ自船に向首接近する他船を認めなかったので、しばらくの間は見張りをしなくても大丈夫と思い、14時58分防波堤灯台から006度2.2海里の地点で、針路をほぼ高杢島付近に向く101度に定め、機関回転数を毎分1,700に上げて16.0ノットの対地速力とし、操舵室内の椅子(いす)に左舷方を向いて腰を掛け、舵を自動操舵として漁具の手入れを行いながら進行した。 15時08分B受審人は、右舷船首33度1,000メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の鶴水を視認することができ、その後、その方位にほとんど変化なく衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、漁具の手入れに熱中し、周囲の見張りを行っていなかったので、同船に気付かないまま続航した。 美勇丸は、B受審人が漁具の手入れに熱中して周囲の見張りがおろそかとなり、接近する鶴水に気付かず、同船の進路を避けることができないで進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、鶴水は、左舷船首錨用ハンドレールに曲損を、美勇丸は、右舷中央部外板に破口を伴う凹傷などをそれぞれ生じたがのちいずれも修理された。また、B受審人は、右肩甲骨を骨折する重傷を負った。
(原因) 本件衝突は、島原湾南部の早崎瀬戸東口付近において、しけ模様で海面一面に白波の立つ状況下、美勇丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る態勢の鶴水の進路を避けなかったことによって発生したが、鶴水が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、島原湾南部のしけ模様で白波の立つ早崎瀬戸東口付近において、熊本県宇土郡大矢野町柳に向けて東行する場合、前路を北上する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に自船に向首接近する他船を認めなかったところから、しばらくの間は見張りをしなくても大丈夫と思い、操舵室の椅子に左舷方を向いて腰を掛け、漁具の手入れに熱中し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から接近する鶴水に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷中央部外板に破口などを、鶴水の左舷船首錨用ハンドレールに曲損をそれぞれ生じさせ、同人が右肩甲骨を骨折するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人は、島原湾南部のしけ模様で白波の立つ早崎瀬戸東口付近において、水質調査地点に向けて北上する場合、左方から自船に向首接近する他船を見落とさないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷後方から自船の前路に向首接近する他船に気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する美勇丸に対し、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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