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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成7年9月6日03時45分 佐賀県呼子港 2 船舶の要目 船種船名 漁船栄勝丸
漁船新祐丸 総トン数 5.7トン 3.4トン 登録長 11.94メートル 9.52メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 90 70 3 事実の経過 栄勝丸は、いか一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、平成7年9月5日16時ごろ佐賀県呼子港を発し、長崎県壱岐島西方の漁場においていか約40キログラムを獲たのち、船首0.40メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、翌6日01時30分同漁場を発進し、法定の灯火を表示して同港内加部島南岸の呼子大橋西方150メートばかりの水揚岸壁に向かった。 ところで、呼子港は、同港中央部に在る加部島と陸岸間に呼子大橋がほぼ南北方向に架かり、港内を東西に通航する船舶や名護屋浦及び殿ノ浦などに出入航する船舶が行き交い、名護屋浦西方の陸岸寄りには養殖筏(いかだ)があって狭いところであった。また、夜間、呼子大橋の照明や同港東部市街地の灯火が明るく、同橋西側の水域において東行する船舶は、市街地などの灯火により、他船の灯火を見分けにくかった。 同6日03時42分半A受審人は、呼子港加部島防波堤灯台と左舷約50メートルに並航したとき、機関を半速力前進として13.0ノットの対地速力とし、特に前方の見通しを遮るものがない操舵室ではあったものの、市街地などの明かりが前面の窓ガラスに反射して周囲が見にくいため、天窓から顔を出して見張りに当たり、加部島南西端を付け回すように徐々に左転しながら手動操舵で進行した。 03時44分A受審人は、呼子港片島防波堤灯台(以下「片島灯台」という。)から260度(真方位、以下同じ。)890メートルの地点に達したとき、針路を、呼子大橋に設置された2個の橋梁灯の中央(以下「呼子大橋中央」という。)付近に向首する086度に定め、同じころ帰航の途にあり、前路300メートルばかりを先航する僚船の船尾灯を船首わずか右に見ながら続航した。 03時44分少し過ぎA受審人は、呼子大橋越しに市街地を見て進行していたものの、安全な速力として適切な見張りを行えば、ほぼ正船首740メートルのところに新祐丸のマスト灯及び両色灯を視認でき、その後同船とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、前路の僚船のほかに他船はいないものと思い、安全な速力としなかったうえ、周囲の見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま続航した。 こうして栄勝丸は、針路を右に転じる措置をとらずに進行中、03時45分わずか前A受審人が、着岸予定の岸壁に接近したので速力を下げて左転しようと天窓から顔を引っ込めた直後、03時45分片島灯台から256度480メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首部が、新祐丸の左舷船首部に前方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。 また、新祐丸は、はえ縄漁業などに従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首尾0.20メートルの等喫水をもって、同日03時40分呼子港殿ノ浦地区航路標識事務所前の係留地を発し、同港沖合の加唐島南方の漁場に向かった。 B受審人は、法定の灯火を表示し、増速しながら操舵室で見張りに当たって進行し、03時43分わずか過ぎ片島灯台から096度650メートルの地点に達したとき、機関をほぼ全速力前進にかけ、19.0ノットの対地速力とし、針路を呼子大橋中央付近に向首する267度に定め、手動操舵で続航した。 03時44分少し過ぎB受審人は、呼子大橋橋梁下を航過したとき、ほぼ正船首740メートルのところに栄勝丸及び先航する同船の僚船の各マスト灯及び両舷灯をそれぞれ認め、その後栄勝丸とほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが、そのままの針路で同船と互いに左舷を対して何とか航過できるものと思い、安全な速力とすることも、速やかに針路を右に転じることもなく、同じ針路、速力のまま進行した。 03時45分少し前新祐丸は、栄勝丸の僚船と互いに左舷を対して10メートルばかり隔てて航過したのち、同時45分わずか前前路50メートルのところに栄勝丸が迫ったとき、B受審人が危険を感じ、とっさに右舵をとって機関を中立としたが、及ばず、船首が306度を向いたとき、ほぼ原速力のまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、栄勝丸は、船首部に一部亀裂を伴う擦過傷を生じ、新祐丸は、左舷船首部を大破したほか操舵室上部を圧壊したがのちいずれも修理された。
(航法の適用) 本件は、以下のことから海上衝突予防法第14条行会い船の航法をもって、互いに衝突を避けるべきものとするのが相当である。加えて、夜間の港内の狭い水域で、かつ、周囲が市街地の灯火により明るく、表示灯火の視認距離が減じられる状況下において、両船の相対速力が約32ノットに及んでいたことは、互いに海上衝突予防法第6条の安全な速力で航行しなければならない規定を遵守していたとはいい難い。 1 本件発生水域は、港則法適用水域であるが、本件時の状況において適用すべき法定の航法が同法にないこと。 2 本件発生水域は、地形的に狭く、東西方向の狭い水道として海上衝突予防法第9条の適用も考えられるが、港内であって船舶の通航方向力必ずしも一定方向に流れるものではなく、また、呼子大橋付近で著しく通航幅が狭まっているので、東行及び西行船のいずれもが互いに同橋の先を見通せるよう、加部島に接近する針路をとるため、実行に適する水道の右側端が必ずしも明確でないこと。 3 本件発生水域は狭いが、両船がともに小型漁船であって、それぞれ右転をすれば衝突を避けることが容易にでき、またそのための避航水域も十分であったと認めることができること。
(原因) 本件衝突は、夜間、佐賀県呼子港呼子大橋西側の狭い水域において、両船がほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で互いに接近中、栄勝丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、見張り不十分で、針路を右に転じなかったことと、新祐丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、佐賀県呼子港呼子大橋西側の水域において、呼子大橋中央付近に向けて東行する場合、他船の灯火が市街地の明かりに紛れたりするおそれがあったから、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前路を先航する僚船のほかに他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新祐丸を見落としたまま針路を右に転じずに進行して同船との衝突を招き、栄勝丸が船首部に亀裂を伴う擦過傷を生じ、新祐丸が船首左舷側及び操舵室上部を圧壊するに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、佐賀県呼子港呼子大橋西側の水域を西行中、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある態勢で接近する栄勝丸を認めた場合、互いに左舷を対して無難に航過できるよう、速やかに針路を右に転じるべき注意義務があった。しかし、同人は、同じ針路のままでも何とか航過できるものと思い、速やかに針路を右に転じなかった職務上の過失により、同じ針路のまま進行して栄勝丸との衝突を招き、前示損傷を生じるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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