日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年広審第97号
    件名
油送船雄成丸貨物船鳳洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、釜谷奨一、織戸孝治
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:雄成丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:鳳洋丸船長 海技免状:四級海伎士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:鳳洋丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
雄成丸…左舷船首部に破口及び左舷中央部外板に凹損
鳳洋丸…船首部を圧壊

    原因
鳳津丸…狭視界時の航法(速力、信号、レーダー)不遵守(主因)
雄成丸…狭視界時の航法(速力)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、鳳洋丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、雄成丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月31日05時34分半
瀬戸内海伊予灘
2 船舶の要目
船種船名 油送船雄成丸 貨物船鳳洋丸
総トン数 53,773トン 494トン
全長 243.28メートル 73.51メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 9,179キロワット 882キロワット
3 事実の経過
雄成丸は、船尾船橋型油タンカーで、A受審人ほか20人が乗り組み、原油103,000キロリットルを積載し、船首12.78メートル船尾12.94メートルの喫水をもって、平成8年5月30日10時00分鹿児島県喜入港を発し、山口県岩国港に向かった。
A受審人は、船橋当直を航海士3人による4時間3直制として各直に甲板手1人を配し、自らは出入港や視界制限状態時の操船に当たっていた。
A受審人は、日没とともに航行中の動力船が表示する灯火を点灯させ、翌31日03時45分伊予青島灯台から234度(真方位、以下同じ。)15.2海里の地点で、船橋当直中の二等航海士から霧模様となり視程が2海里になったとの報告を受け、機関を12.0ノットの全速力前進に及び自動吹鳴による霧中信号を開始して航行中、04時35分同灯台から249度5.0海里の地点に達したとき、二等航海士と交替した一等航海士から視程が1海里になったとの報告を受けた。
A受審人は、昇橋して船橋当直を引き継ぎ、一等航海士を1号レーダーに、甲板手を2号レーダーに配して見張りに当たらせ、自らも時々レーダー画面を監視して操船指揮に当たっていたところ、05時00分伊予青島灯台から340度1.8海里の地点で、濃霧となり視程が約500メートルの視界制限状態となったが、霧中信号を続けたものの、安全な速力に減じず、また、このころ左舷船首方12.0海里のところに鳳洋丸と同船の付近に散在する反航船3隻を初めて探知したが、まだ遠距離であったのでレーダーの6海里レンジの範囲に入ってから系統的な観察を行うこととして続航した。
05時15分A受審人は、由利島灯台から208度3.1海里で、針路を052度に定め、折からの順潮流に乗じて12.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、甲板手を手動操舵に当たらせ、海図記載の推薦航路線の南側に沿って進行し、同時16分同灯台から206度2.9海里の地点に達したとき、霧が更に濃くなって視程が急激に約150メートルとなり、このころレーダーにより左舷船首12度6.0海里に鳳洋丸及び同船の付近に散在する反航船3隻が推薦航路線の北側に沿って航行して来るのを探知し、それらの監視を続けながら続航した。
05時26分A受審人は、由利島灯台から163度1.4海里の地点で、伊予灘航路第8号灯浮標(以下「第8号灯浮標」という。)との航過距離を狭めるため針路を040度に転じ、同時28分同灯浮擦と並し、同時30分同灯台から125度1.2海里の地点に達したとき、針路をクダコ水道に向けようと鳳洋丸と3隻の反航船の後方に向く030度に転じ、転舵による減速で8.6ノットの速力に落ちて進行した。
05時31分A受審人は、由利島灯台から118度1.2海里の地点に達し、鳳洋丸が左舷船首28度1,550メートルに接近したとき、同船が左転したのを探知し、自船と著しく接近することを避けることができない状況となったとの報告を受けたが、そのうち右転すると思い、針路を保つことができる最少限度の速力に減じ、必要に応じて停止することなく、そのまま続航した。
その後A受審人は、依然鳳洋丸が左転して接近してくるとの報告を受け、注意喚起信号の吹鳴及び右舵一杯を令したが及ばず、05時34分半由利島灯台から096度1.3海里の地点において、雄成丸は、045度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部に鳳洋丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約150メートルで、潮候は上げ潮の中央期で、衝突地点付近には微弱な北東流があった。
また、鳳洋丸は、専ら国内諸港間のコークス及び石灰石輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B、C両受審人ほか3人が乗り組み、コークス1,201トンを積載し、船首3.25メートル船尾4.05メートルの喫水をもって、航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、同月30日21時45分坂出港を発し、関門港小倉区に向かった。
B受審人は、船橋当直を同人、C受審人及び甲板長の3人による単独の4時間3直制とし、出航操船後引き続いて船橋当直に就き、翌31日00時次直の甲板長に引き継ぎ、02時来島海峡手前で同海峡通過の操船指揮をとるため昇橋して甲板長から船橋当直を引き継ぎ、同海峡を通過したが、霧がかかり視程が100メートルに狭まったので、引き続き操船指揮を続けて航行した。
B受審人は、その後霧が徐々に薄くなって視程が3海里になったものの、引き続いて甲板長とともに在橋し、03時45分愛媛県菊間町北東方沖合で、C受審人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、平素から霧などにより視界制限状態になっても同人に船橋当直を任せていたので、改めて視界制限状態となった際の報告について指示することなく、同人に船橋当直を引き継いで甲板長と共に降橋した。
C受審人は、船橋当直に就き、再び霧が急速に濃くなり視程が約150メートルの視界制限状態になったが、B受審人から視界制限状態となった際の報告について指示されていなかったことから同人にこのことを報告しないまま、レーダーレンジを3ないし6海里に適宜切り換えてレーダー監視を続け、安全な速力に減じず、霧中信号を行わないまま航行した。
B受審人は、C受審人から視界制限状態となった際の報告を受けられず、自ら操船指揮を執ることができなかった。
04時56分C受審人は、釣島灯台から331度1.5海里の地点に達し、釣島水道灯浮標に並航したころ、針路を223度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して9.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
05時16分C受審人は、釣島灯台から253度2.9海里の地点に達したとき、左舷船首3度6.0海里に推薦航路線の南側に沿って北上する雄成丸の映像を探知し得る状況にあったものの、右舷側近距離に同航の第三船(以下「第三船」という。)の映像をレーダーで探知して接近する同船に気を奪われ、レーダーによる前方の見張りを十分に行わないままレーダーレンジを3海里とし、05時25分第三船が更に接近したので同レンジを1.5海里に切り換えて同船を監視しながら続航した。
05時31分少し前C受審人は、由利島灯台から072度1.1海里の地点に達したとき、雄成丸が左舷沿首39度1,700メートルに推薦航路線の南側に沿って航行していたものの、依然レーダーによる前方の見張りを十分に行うことなく、第三船の映像が右舷側に更に接近したのを探知して左転を開始し、その後雄成丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、これに気付かず、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて停止しないで進行した。
05時32分少し過ぎC受審人は、由利島灯台から084度1.1海里の地点で、針路が135度になって続航中、同時34分少し過ぎ雄成丸が吹鳴する汽笛を聞き、船首至近に迫った雄成丸を初めて視認し、どうすることもできず、鳳洋丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
B受審人は、自室で休息中、衝撃で目覚めて昇僑し、事後の措置に当たった。
衝突の結果、雄成丸は左舷船首部に破口及び左舷中央部外板に凹損を生じ、鳳洋丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が、夜間、霧による視界制限状態の伊予灘を航行中、鳳洋丸が、安全な速力に減じず、霧中信号を行わず、かつ、レーダーによる見張りが不十分で、左転したばかりか、雄成丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことによって発生したが、雄成丸が、安全な速力に減じず、鳳洋丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかったことも一因をなすものである。
鳳洋丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、船橋当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、安芸灘を南下中、一等航海士に船橋当直を引き継ぐ場合、視界制限状態時には自ら操船の指揮に当たることができるよう、一等航海士に対して視界制限状態となった際の報告にっいて指示すべき注意義務があった。しかるに、B受審人は、平素から霧などにより視界制限状態になっても一等航海士に船橋当直を任せていたので、改めて視界制限状態となった際の報告について指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態となった際の報告が受けられず、自ら操船指揮を執ることができないで、雄成丸との衝突を招き、雄成丸の左舷船首部に破口及び左舷中央部外板に凹損を生じさせ、自船の船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、伊予灘を南下中、霧により視界制限状態になった場合、他船の存在有無を確かめることができるよう、レーダーによる前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する第三船に気を奪われ、レーダーによる前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、雄成丸をレーダーで探知しないまま左転して進行し、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、霧による視界制限状態の伊予灘を北上中、反航船が左転して自船と著しく接近することを避けることができない状況となったとの報告を受けた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち同船が右転すると思い、進路を保つことができる最少限度の速力に減じず、必要に応じて停止しなかった職務上の過失により、鳳洋丸と著しく接近して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION