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1998年(平成10年)

平成10年神審第33号
    件名
貨物船第八司丸引船第十よし丸引船列衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝嘉榮、工藤民雄、西林眞
    理事官
竹内伸二

    受審人
A 職名:第八司丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:第十一よし丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
司丸…右舷船首部に凹損
よし丸引船列…台船に積載していたコンテナ1個が破損、台船の右舷側ハンドレールなどに損傷

    原因
よし丸引船列…船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
司丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第十一よし丸引船列が、無難に航過する態勢の第八司丸に対し、転針して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが第八司丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月3日23時35分
播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八司丸
総トン数 197.09トン
全長 37.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
船種船名 引船第十一よし丸 台船丸辰2003号
総トン数 101.74トン 692トン
全長 29.50メートル 57.00メートル
中畠 15.00メートル
深さ 3.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
第八司丸(以下「司丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及び妻のB指定海難関係人が2人で乗り組み、雑貨120トンを載せ、船首0.80メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成8年10月3日17時45分大阪港を発し、香川県高松港に向かった。
A受審人は、発航時から操舵操船に当たり、21時30分播磨灘の高蔵瀬東灯浮標付近において、B指定海難関係人に1時間半ばかり船橋当直を行わせることにしたが、同人が無資格ではあるが単独当直の経験が十分あるので任せても大丈夫と思い、船首方に反航船を視認したときには、速やかに報告するよう指示することなく交替し、間もなく操舵室後部のソファーで休息した。
B指定海難関係人は、単独の船橋当直に従事し、23時04分尾崎鼻灯台から338度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点に達したとき、針路を245度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を掲げて9.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
23時23分B指定海難関係人は、院下島灯台から055度2.5海里の地点に至り、船首わずか右3海里のところに、鋼製台船の丸辰2003号(以下「台船」という。)を引いている第十一よし丸(以下「よし丸」という。)の白、白、白3灯を初めて視認し、その舷灯がまだ見えていなかったものの、灯火の視認模様から反航の引船列であることが分かったが、A受審人を起こすまでもないと思い、船首方に同引船列の灯火を認めたことを同人に報告しなかった。そして、同時25分その灯火を同方位2.5海里に見るようになったとき、互いに左舷を対して航過するつもりで、針路を250度に転じて続航した。
やがてB指定海難関係人は、23時28分院下島灯台から049.5度1.8海里の地点で、左舷船首4度1.7海里によし丸の紅灯をも視認し、間もなく台船紅色舷灯が見えるようになり、よし丸引船列と左舷側を200メートル隔てて無難に航過し得る態勢のもと、操舵室中央の舵輪のやや左舷寄りでいすに腰を掛けて見張りに当たり、播磨灘北部を西行した。
23時31分B指定海難関係人は、左舷船首7度1海里に接近したよし丸引船列が灯火を2回点滅したのを認めた。この時点で徐々に左転を開始した同引船列が、間もなく緑灯を見せるようになり、司丸の前路を右方に横切る態勢で新たな衝突のおそれを生じさせたが、同人は、それまで互いに左舷を対して無難に航過するものと思い、同引船列に注目していなかったので、その紅灯が緑灯に変わったことに気付かず、依然これが前方から接近していることをA受審人に報告しなかった。
こうして、司丸は、A受審人によって操船指揮がとられないまま、よし丸引船列に対する動静監視か不十分となり、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
B指定海難関係人は、23時34分少し過ぎ船首少し左300メートルに迫ったよし丸が緑灯を見せていることに気付いた。そして、同船が前路近距離のところを右方へ航過した後、同時35分少し前左舷船首至近に台船の船体を認めて衝突の危険を感じ、直ちに操舵を遠隔の手動に切り替えて左舵をとったが及ばず、23時35分院下島灯台から026度1,700メートルの地点において、243度を向いた司丸の右舷船首が全速力のまま、台船の右舷中央部に前方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮侯はほぼ低潮時であった。
A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まして事後の措置に当たり、船体が積荷の移動により5度ばかり右舷側に傾いていたので、船体傾斜の増大をおそれ、急いで目的地に向けて航行を続けた。
また、よし丸は、鋼製引船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか2人が乗り組み、コンテナ85個1,000トンを載せて船首1.40メートル船尾1.60メートルの喫水となった無人の台船を船尾に引き、船首1.70メートル船尾3.10メートルの喫水をもって、同日17時30分岡山県玉島港を発し、神戸港に向かった。
C受審人は、台船の前端付近両舷の各ビットに係止した長さ8メートルの錨鎖に、長さ15メートルのワイヤロープを連結してその各先端を合わせ、これに長さ50メートルの化学繊維索をつないだ曳(えい)索により、よし丸の船尾から台船の後端までの距離が120メートルとなる状態とし、台船には、船尾灯のほか後部両舷の甲板上2メートルの高さに両舷灯を、前端中央部及び両舷灯付近に白色点滅灯各1個をそれぞれ設置し、いずれも夜間に自動的に点灯するようにして航行した。
発航後、、C受審人は、同人、一等航海士、機関長及びD指定海難関係人の4人による2、3時間交替の船橋当直体制をとり、17時50分玉島港沖合において、機関長に当直を引き継ぐこととした。その際、申し送りとして、23時から立直するD指定海難関係人に対しては、無資格ではあるが単独当直の経験が十分あるので指示するまでもないと思い、船首方に反航船を認めたときには、速やかに船長に報告するよう指示することなく船橋を降りた。
D指定海難関係人は、23時00分院下島灯台から258度3.1海里の地点において、一等航海士と交替して単独の船橋当直に就き、針路を068度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、よし丸には引船としての灯火を、台船には前示の灯火をそれぞれ掲げて6.5ノットの曳航速力で自動操舵により進行した。
23時28分D指定海難関係人は、右舷側950メートルに院下島灯台を航過したとき、左舷船首2度1.7海里のところに、司丸の白、紅2灯を初めて視認し、同船が反航船であることは分かったが、C受審人を起こすまでもないと思い、船首方に司丸の灯火を認めたことを同人に報告せず、同船と左舷を対して200メートル隔てて無難に航過し得る態勢で播磨灘北部を東行した。
D指定海難関係人は、23時31分左舷船首5度1海里に司丸が接近したとき、同船の左舷方で西島北方沖合に錨泊しているガット船に向首する状況であったことから、これに近づかないうちに早期に左転することとし、探照灯を2回点滅し、自動操舵のまま、針路設定ゆまみを5度左に回して徐々に左転を開始した。そして、間もなく更にこれを15度左に回し、司丸の前路に向けて針路を048度に転じたが依然、同船が前方から接近していることをC受審人に報告しなかった。
そのため、よし丸引船列は、C受審人によって操船指揮がとられないまま、司丸の前路を右方へ横切る態勢で同船と新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中、前示のとおり衝突した。
C受審人は、自室で休息していて衝突の事実を知らず、翌4日01時50分昇橋してD指定海難関係人と船橋当直を交替した際、同人から台船が西行船と衝突した旨の報告を受け、事後の措置に当たった。
衝突の結果、司丸は右舷船首部に凹損を生じ、よし丸引船列は台船に積載していたコンテナ1個が破損したほか、台船の右舷側ハンドレールなどに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、播磨灘北部において、東行するよし丸引船列が、左舷側を無難に航過する態勢の司丸に対し、左転して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、西行する司丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
よし丸引船列の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、船首方に反航船を認めたときには、速やかに報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、船首方に司丸の灯火を認めたことを船長に報告しなかったこととによるものである。
司丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、船首方に反航船を認めたときには、速やかに報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、船首方によし丸引船列の灯火を認めたことを船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
C受審人は、玉島港を発航して瀬戸内海を東行するにあたり、同港沖合において船橋当直を機関長に引き継ぐ場合、申し送りとして、23時から立直するD指定海灘関係人に対して、船首方に反航船を認めたときには、速やかに船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、D指定海難関係人が単独当直の経験が十分あるので指示するまでもないと思い、船首方に反航船を認めたときには、速やかに船長に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人から報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま、司丸と左舷を対して無難に航過する態勢のところ、よし丸引船列が左転して新たな衝突のおそれを生じさせたうえ、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行して司丸との衝突を招き、司丸の右舷船首部に凹損を生じさせ、台船に積載していたコンテナ1個を破損させたほか、台船の右舷側ハンドレールなどを損傷させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、播磨灘北部を西行中、B指定海難関係人に単独の船橋当直を行わせる場合、船首方に反航船を認めたときには、速やかに船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人が無資格ではあるが単独当直の経験が十分あるので任せても大丈夫と思い、船首方に反航船を認めたときには、速やかに船長に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人から報告が得られず、自ら操船指揮をとることができないまま、よし丸引船列が自船と左舷を対して無難に航過する態勢のところ、左転して新たな衝突のおそれを生じさせるようになったが、同引船列に対して警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たり、播磨灘北部を東行中、船首方に反航の司丸の灯火を認めた際、速やかに船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、勧告しない。
B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に当たり、播磨灘北部を西行中、船首方に反航のよし丸引船列の灯火を認めた際、速やかに船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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