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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月17日06時05分 石川県高倉漁港 2 船舶の要目 船種船名 漁船第三満丸
漁船恵比須丸 総トン数 3.6トン 1.65トン 登録長 9.66メートル 5.85メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 70 10 3 事実の経過 第三満丸(以下「満丸」という。)は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成8年11月17日06時01分高倉港錨島防波堤灯台(以下「錨島防波堤灯台」という。)西北西方550メートルばかりの高倉漁港姫地区の係留地を発し、同港沖合の漁場に向かった。 ところで、高倉漁港姫地区から出航する際、係留地点の東方280メートルばかりの陸岸から南方に延びる長さ約130メートル、高さ3メートルの防除堤の南端を替わるまで、同防除堤の東側を南下する漁船を認めることができない状況であった。 A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、発航直後針路を123度(真方位、以下同じ。)として操舵室内の台に腰を掛げ、遠隔操縦装置により、機関を回転数毎分1,000の前進に掛けて12.0ノットの速力で手動操舵により進行した。 06時04分少し過ぎA受審人は、錨島防波堤灯台から287度230メートルの地点に達したとき、左舷船首42度255メートルのところに、波除堤東側から現れ、港口に向かい南下する恵比須丸の緑灯1個を視認することができる状況であったが周囲を一瞥(いちべつ)して他船はいないものと思い、同船の存在に気付かなかった。 A受審人は、06時04分半少し前同灯台から283度190メートルの地点で、針路を港口に向かう090度に定めたところ、港口付近において、恵比須丸と衝突のおそれがある状況となって急速に接近したが依然これに気付かず、防波堤灯台付近の釣人などに気をとられ、速やかに行き脚を止めるなどして衝突を避けるための措置をとらないまま続航した。 その後A受審人は、機関を回転数毎分1,500に上げて速力を14.0ノットとし、06時05分少し前右舵をとって回頭を始めた直後、06時05分錨島防波堤灯台から061度50メートルの地点において、満丸は、その船首が135度に向首したとき、恵比須丸の右舷船尾に後方から36度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、日出時刻は06時33分であった。 また、恵比須丸は、一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、B受審人1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日06時01分錨島防波堤灯台の北方350メートルばかりの高倉漁港北東部に位置する通称幸の港地区の係留地を発し、姫錨島防波堤南側の漁場に向かった。 ところで、高倉漁港幸の港地区から出航する際、前示防除堤西側から出航する漁船が同防除堤の南端を替わるまで、同漁船を認めることができない状況であった。 B受審人は、マストの先端に両色灯を点灯しただけで、白色全周灯を表示せず低速力で港内を南下し、06時03分錨島防波堤灯台から002度230メートルの地点で、針路を171度に定め、3,5ノットの速力で、操舵室後方に立ち、左手で舵柄を持って進行した。 06時04分少し過ぎB受審人は、錨島防波堤灯台から017度105メートルの地点に達したとき、右舷正横255メートルのところに、高倉漁港姫地区から出航し、波除堤南端から現れた満丸のマスト灯と両色灯を視認することができるようになったが、定針したとき周囲を見渡して右舷方に他船の灯火を認めなかったことから、同地区からの出航船はいないものと思い、姫錨島防波堤東端との航過距離や沖合の漁船に気をとられ、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので満丸の存在に気付かなかった。 B受審人は、06時04分半少し前満丸が港口に向けて左転し、港口付近において、衝突のおそれがある状況となって急速に接近したがこれに気付かず、速やかに行き脚を止めるなどして衝突を避けるための措置をとらずに続航中、恵比須丸は、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、満丸は船底に擦過傷を生じたが、のち修理され、恵比須丸は右舷船尾に破口を生じて浸水し、その後廃船とされた。また、B受審人が肋骨を骨折した。
(原因) 本件衝突は、日出前の薄明時、石川県高倉漁港において、両船が、異なる地区から出航中、港口付近で出会い衝突のおそれがある状況となって接近する際、満丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、恵比須丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、日出前の薄明時、高倉漁港姫地区から出航する場合、同地区東方にある波除堤の東側から南下する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、周囲を一瞥して他船はいないものと思い、防波堤灯台付近の釣人などに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある状況となって急速に接近する恵比須丸の存在に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、満丸の船底に擦過傷を生じさせ、恵比須丸の右舷船尾に破口を生じで浸水させ、また、B受審人に肋骨骨折を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、日出前の薄明時、高倉漁港幸の港地区から出航する場合、同地区南西方にある波除堤の西側から出航する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった、ところが、同人は、定針したとき右舷方を見て他船の存在を認めなかったので、同地区からの出航船はいないものと思い、姫錨島防波堤東端との航過距離や沖合の漁船に気をとられ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある状況となって急速に接近する満丸の存在に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が肋骨を骨折するに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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