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1998年(平成10年)

平成10年神審第32号
    件名
貨物船八晃丸貨物船光永丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、須貝嘉榮、佐和明
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:八晃丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:光永丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
八晃丸…船首部外板及び球状船首部に凹損、船首部のハンドレールを損傷
光永丸…右舷船尾部外板及び付近の居住区を損傷、推進器翼及びシューピースを曲損、船長、一等航海士及び機関長がそれぞれ打撲傷

    原因
光永丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
八晃丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、光永丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る八晃丸の進路を避けなかったことによって発生したが、八晃丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月2日18時50分
瀬戸内海播磨灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船八晃丸 貨物船光永丸
総トン数 1,205トン 328トン
全長 80.00メートル 54.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 625キロワット
3 事実の経過
八晃丸は、主として石材の輸送に従事する砂利・石材運搬船で、A受審人ほか7人が乗り組み、石材2,300トンを載せ、船首4.4メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、平成8年2月2日18時00分兵庫県家島諸島の家島天神鼻沖にあたる、尾崎鼻灯台から116度(真方位、以下同じ。)0.7海里の仮泊地を発し、三重県南牟婁郡御浜町の海岸整備工事現場に向かった。
A受審人は、発航操船に引き続き船橋当直に当たり、抜錨作業を終え昇橋した甲板員を見張りに就けて家島と男鹿(たんが)島との間を南下し、18時11分松島灯台から073度4.2海里の地点で、針路を播磨灘航路第3号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「播磨灘航路」を省略する。)の東方に向く178度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
その後、A受審人は、舵輪後方でいすに腰を掛け、時々レーダーを見て見張りに当たり、18時40分ごろ甲板員が用足しのため降橋し、それから単独で当直に就いて間もなくの同時41分播磨灘推薦航路線に2海里ばかりに近づいた、松島灯台から141度6.7海里の地点に達したとき、左舷船首45度2海里に存在する光永丸のほか数隻の西行船を播磨灘推薦航路線付近にレーダー及び肉眼で認めた。
しかし、A受審人は、一べつしただけで、接近すれば自船を右方に見るこれらの西行船が避けるものと思い、専ら右舷側から接近する東行船のみに注意を払い、引き続き西行船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、その後西行船のうち光永丸の方位が明確に変わらず前路を右方に横切り、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、避航の気配のない光永丸に対し警告信号を行わず、更に間近に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
18時49分半少し過ぎA受審人は、左舷方を見たとき近距離に迫った光永丸の白、白、緑3灯を認め、急いで機関のクラッチを中立としたが及ばず、18時50分松島灯台から149度8.3海里の地点において、八晃丸は、原針路、原速力のまま、その船首が光永丸の右舷船尾部に、後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は、直ちに停船して損傷模様を確認し、次いで光永丸を探したが発見できなかったので、大したことがないものと思ってそのまま航海を続けていたところ、鳴門海峡を通過して間もなく、巡視船に呼び止められて事情を聴かれた。
また、光永丸は、ベンゼンやトルエンなどの輸送に従事する鋼製ケミカルタンカーで、船長C及びB受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.4メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同日13時50分大阪港を発し、山口県徳山下松港に向かった。
本船では、船橋当直をC船長、B受審人及び甲板長の3人による単独4時間交替制で行っており、B受審人は、16時ごろ明石海峡東方で当直に就き、間もなく昇橋したC船長の指揮のもとに同海峡を通峡し、やがて播磨灘に入って同船長が降橋したところで、単独の当直に就き、所定の灯火を表示して播磨灘推薦航路線の北側をこれに沿って西行した。
B受審人は、17時50分江埼灯台から251度12.8海里の地点にあたる、第5号灯浮標を左舷側150メートルに並航したとき、針路を247度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、操舵室前面窓の後ろに立ち見張りに当たって自動操舵により進行した。
18時41分B受審人は、松島灯台から139度8.7海里の地点に達したとき、右舷船首66度2海里に前路を左方に横切る態勢で南下する八晃丸の白、白、紅3灯を視認でき、その後同船の方位が明確に変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近したが、このころ自船を追い越した小型鋼船が前方近距離にいて、さらに後方から大型船が自船を追い越す態勢で近づいてきていたことから、専らこれらに注目し、右方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
そして、B受審人は、18時45分、前示大型船が自船の右舷側至近のところを追い越して先航するようになり、このとき八晃丸がほぼ同方位1.1海里に接近し、依然として衝突のおそれがあったが、先航する大型船に気をとられ、なおも八晃丸の接近に気付かず、早期に右転して同船の進路を避けることなく続航した。
18時48分半B受審人は、先航する大型船を船首左に見るよう、自動操舵のつまみを回し5度右転して252度の針路としたのち、同時49分半少し過ぎ右舷方を見たとき近距離に接近した八晃丸の船体を初めて認め、衝突の危険を感じ、急いで舵輪に駆け寄り、手動操舵に切り換えて右舵一杯をとったが及ばず、光永丸は、船首が258度に向いたとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、八晃丸は船首部外板及び球状船首部に凹損を生じたほか、船首部のハンドレールを損傷し、光永丸は右舷船尾部外板及び付近の居住区を損傷したほか、推進器翼及びシューピースを曲損し、C船長、B受審人及び同船の機関長がそれぞれ打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、播磨灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、光永丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る八晃丸の進路を避けなかったことによって発生したが、八晃丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、播磨灘推薦航路線の北側をこれに沿って西行する場合、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する八晃丸を見落とすことのないよう、右方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船の右舷側至近を追.い越す他船の動静に気をとられ、右方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する八晃丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、八晃丸の船首部外板及び球状船首部に凹損を生じさせたほか船首部のハンドレールに損傷を与え、また光永丸の右舷船尾部外板及び付近の居住区を損傷させたほか推進器翼及びシューピースを曲損させ、光永丸の乗組員3人に打撲傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、播磨灘を鳴門海峡に向け南下中、播磨灘推薦航路線付近に近づいたころ、前路を右方に横切る態勢の光永丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。
ところが同人は、一べつしただけで、接近すれば自船を右方に見る光永丸が避けるものと思い、専ら右舷側から接近する東行船のみに注意を払い、引き続き光永丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、光永丸の乗組員3人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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