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1998年(平成10年)

平成10年神審第28号
    件名
油送船第二昭成丸貨物船第五近洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝嘉榮、山本哲也、清重隆彦
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第二昭成丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二昭成丸次席一等航 海士海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
昭成丸…右舷船首に擦過傷
近洋丸…左舷中央部のハンドレール曲損、水線下の外板に凹損

    原因
昭成丸…見張り不十分、船員の常務(避航働作)不遵守

    主文
本件衝突は、漂泊中の第二昭成丸が、見張り不十分で、錨泊中の第五近洋丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年6月26日01時10分
鳴門海峡
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二昭成丸 貨物船第五近洋丸
総トン数 699トン 292トン
全長 74.50メートル
登録長 59.71メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第二昭成丸(以下「昭成丸」という。)は、船尾船橋型の油送船で、A受審人及びB受審人ほか4人が乗り組み、C重油1,850キロリットルを載せ、船首4.10メートル船尾5.10メートルの喫水をもって、平成7年6月24日16時00分京浜港川崎区を発し、山口県岩国港に向かった。
ところで、A受審人は、同月7日に前田船長の休暇下船に伴い、一等航海士から船長に繰り上がり、その職を執っていたもので、船橋当直を自身を含めB受審人及びニ等航海士Cと3直4時間交替で実施し、自らは04時から08時まで及び16時から20時までの時間帯に立直していた。
翌25日20時00分A受審人は、稚歌山県市江埼沖合を鳴門海峡に向けて北上中、南流の最強時に同海峡に差し掛かることになると予測し、C二等航海士に船橋当直を引き継ぐ際、同人に対して鳴門海峡南口に到着したら北流に転じる翌日02時50分ごろまで漂泊する旨を告げたが、潮待ちの時間が3時間ばかりと短く、また、機関はいつでも使月可能な状態にしておくので、船体が風潮により流されても問題はないと思い、漂泊中における船橋当直の適正な維持について何ら指示することなく、自室に退いて休息した。
C二等航海士は、同25日23時25分淡路島小浦ノ鼻沖合の鳴門海峡南口に至り、鳴門飛島灯台(以下「飛島灯台」という。)から121度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点において、機関の運転を続けたままクラッチを切り、航行中の動力船が表示する灯火に加え、上甲板を照らす作業灯2個を点灯して漂泊を開始した。
翌26日00時30分昇橋したB受審人は、C二等航海士から鳴門海峡の転流時になったら船長に知らせるようにと告げられ、同航海士と交替して単独の船橋当直に就き、操舵スタンドの後ろでいすに腰掛けて見張りを行っていたものの、レーダーを使用するなどして船体の移動状況を十分確かめなかった。やがて、同受審人は、自船が潮流により東方へ流されていることに気づかず、付近に他船を認めなかったことから、しばらく船橋を無人としても大丈夫と思い、同時45分自船の東方380メートル付近に錨泊した第五近洋丸(以下「近洋丸」という。)を視認しないまま、一服したら船橋に戻るつもりで食堂へ降りた。
こうして、B受審人は、見張りを厳重に行わず、食堂でお茶を飲み、新聞を読むことに時を忘れるうち、船首がほぼ353度を向きながら090度方向へ0.5ノットの潮流で流され、次第に近洋丸に接近していたが、船橋を無人としていたので同船を避けることができなかった。そして01時10分、同人がようやく船橋に戻ったとき、飛島灯台から114度3.5海里の地点において、昭成丸の右舷船首が293度を向いた近洋丸の左舷中央部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天侯は雨で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期に属し、付近には0.5ノットの東流があった。
A受審人は、自室で休息していたとき、B受審人からの報告で衝突の事態を知り、事後の措置に当たった。
また、近洋丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長Dほか4人が乗り組み、スクラップ607トンを載せ、船首2.05メートル船尾3.35メートルの喫水をもって、同月24日17時30分京浜港横浜区を発し、岡山県水島港に向かった。
D船長は、翌々26日00時45分鳴門海峡南口に至り、潮待ちの目的で、水深11メートルの前示衝突地点において、左舷錨を投じて錨鎖3節を延出するとともに、所定の錨泊中の灯火掲げたほか、作業灯2個を船橋の上部両舷から前方に向けてそれぞれ点灯のうえ錨泊し、乗組員が全員休息中、前示のとおり衝突した。
D船長は、自室で休息していたとき、一等航海士からの報告で衝突の事態を知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、昭成丸は右舷船首に擦過傷を生じたのみであったが、近洋丸は、左舷中央部のハンドレールが長さ3メートルにわたって曲損したほか、水線下の外板が直径10センチメートルの範囲に凹損を生じ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、鳴門海峡南口において、潮待ちのために漂泊中の昭成丸が、見張り不十分で、錨泊中の近洋丸を避けなかったことによって発生したものである。
昭成丸の運航が適切でなかったのは、船長が、漂泊中における船橋当直の適正な維持について、船橋当直者に何ら指示を行わなかったことと、同当直者が、船橋を無人として見張りを行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鳴門海峡南口において、潮待ちのために漂泊するつもりで、和歌山県市江埼沖合を同海峡に向けて北上中、次直者に船橋当直を引き継ぐ場合、漂泊中における当直を適正に維持するよう指示ずべき注意義務があった。しかるに、同人は、潮待ちの時間が3時間ばかりと短く、また、機関はいつでも使用可能な状態にしておくので、船体が風潮により流されても問題はないと思い、船橋当直者に対して漂泊中における当直を適正に維持するよう指示しなかった職務上の過失により、同当直者が船橋を無人として錨泊中の近洋丸を避けずに同船との衝突を招き、昭成丸の右舷船首に擦過傷を、近洋丸の左舷中央部のハンドレールを曲損させたほか、水線下の外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、鳴門海峡南口において、潮待ちのために漂泊中、単独の船橋当直に従事する場合、見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船の近くに他船を認めなかったことから、しばらく船橋を無人としても大丈夫と思い、食堂でお茶を飲みながら新聞を読むことに時を忘れ、船橋を無人として見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、自船が潮流により東方へ流されていることに気づかず、錨泊中の近洋丸を避けないで同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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