|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月11日13時04分 京浜港東京区 2 船舶の要目 船種船名 遊漁船第16豊丸
プレジャーボートカオル 総トン数 11トン 登録長 6.58メートル 全長
16.5メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 294キロワット 90キロワット 3 事実の経過 第16豊丸(以下「豊丸」という。)は、FRP製の遊漁船で、A受審人ほか同乗者2人が乗り組み、釣り客6人を乗せ、船首0.45メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成10年1月11日05時00分隅田川上流にある東京都荒川区南千住6丁目地先の定係地を発し、京浜港川崎区川崎シーバース付近の海域に至って釣りを行い、12時50分同海域を発進して帰途についた。 ところで、豊丸は、隅田川の橋の下を通航することから操舵室の位置が低い構造となっており、椅子(いす)に腰掛けた状態で操船すると船首両舷にそれぞれ約10度ずつの死角が生じるので、死角を補う見張りを行う必要があった。 こうしてA受審人は、発進時から椅子の上に立って操舵室天井の開口部から顔を出し、手動繰舵で操船にあたり、12時55分東京湾横断道路川崎人工島(以下「川崎人工島灯」という。)から267度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点において、羽田沖灯浮標を左舷側至近に航過できるよう針路を031度に定め、機関を回転数毎分1,680にかけ、21.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、12時58分少し過ぎ川崎人工島灯から295度2.1海里の地点に達したとき、羽田沖灯浮標周辺に多数のプレジャーボート等が存在するのを認め、それらを避けるため東京国際空港南東端に接航することとし、針路を021度に転じて続航した。 A受審人は、日ごろ釣りをする他船を見かけない海域に向く針路としたので、しばらくの間は大丈夫と思い、13時01分21.0ノットの高速力のまま、操舵室の椅子に腰掛け、携帯電話で自宅に入港予定時刻等の連絡を始め、船首方の死角を補う見張りを行わず、13時02分川崎人工島灯から326度2.5海里の地点に達したとき、正船首1,300メートルにカオルを視認することができ、その後東方位標識である羽田沖灯浮標の西側で、かつ、東京国際空港南東端にある東京羽田浅場造成南E灯浮標の南東方約150メートルの水域において、4本の釣り竿を後部両舷から出し、風上に向首して錨泊中の同船に向け接近したが、そのことに気付かなかった。 A受審人は、依然電話連絡を続け、錨泊中のカオルを避けないまま続航中、13時04分わずか前右舷船首至近に迫った同船に初めて気付き、左舵10度をとり、機関を中立にしたが効なく、13時04分川崎人工島灯から337度3.0海里の地点において、原針路、原速力のままの豊丸の右舷船首部が、カオルの左舷船尾に後方から5度の角度で衝突した。 当時、天候は曇で風力4の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。 また、カオルは、FRP製のプレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、一本釣りの目的で、船首0.10メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日10時10分多摩川上流の川崎市川崎区港町地先の定係地を発し、東京国際空港沖に向かった。 B受審人は、10時50分ごろから適宜錨泊場所を移動して釣りを行い、12時00分水深約11メートルの前示衝突地点において、重さ10キログラムのダンフォース型錨を船首から投じ、直径12ミリメートルの合成繊維索を約21メートル延出し、機関を止め、法定の形象物を掲げないまま、釣り竿を後部両舷から2本ずつ出して錨泊し、自身は後部甲板の中央に腰を下ろし船尾方に向いて釣りを再開した。 B受審人は、13時02分前示衝突地点において、016度に向首し釣りを行っていたとき、左舷船尾5度1,300メートルのところに北上中の豊丸を初認し、その後自船に向首して接近するのを知ったが、操舵室に人が入るのを認めたことから、そのうち釣り竿4本を舷外に出して錨泊中の自船を避けるものと思って錨泊中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、豊丸は、右舷船首外板に擦過傷を生じ、カオルは左舷船尾及び左舷側操舵室を圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人は腰椎骨折等の重傷を負った。
(原因) 本件衝突は、京浜港東京区の東方位標識である羽田沖灯浮標の西側水域において、航行中の豊丸が、見張り不十分で、錨泊中のカオルを避けなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、京浜港東京区の東方位標識である羽田沖灯浮標の西側水域を北上する場合、操舵室の椅子に腰掛けると船首方に死角が生じるのであるから、操舵室の椅子の上に立って死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかし、同人はプレジャーボートの多数存在する羽田沖灯浮標付近を避け、東京国際空港南東端付近の日ごろ釣りをする他船を見かけない海域に向く針路としたので、しばらくの間は大丈夫と思い、椅子に腰掛けて携帯電話により業務連絡を始め、死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のカオルに気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船の右舷船首外板に擦過傷を生じ、カオルの左舷船尾等を圧壊し、B受審人が腰椎骨折等の重傷を負うに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
|