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1998年(平成10年)

平成10年仙審第34号
    件名
交通船いざなぎ漁船稲荷丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:いざなぎ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:稲荷丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
いざなぎ…船首部外板に擦過傷
稲荷丸…後部両舷外板に欠損及び亀裂を生じてのち廃船、船長が6箇月半の入院を要する左下腿骨骨折

    原因
稲荷丸…灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
いざなぎ…速力不適切(過大速力)、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、稲荷丸が航行中の動力船の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、いざなぎが、過大速力による見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月5日04時07分
宮城県気仙沼港
2 船舶の要目
船種船名 交通船いざなぎ 漁船稲荷丸
総トン数 0.39トン
全長 5.99メートル
登録長 4.82メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 117キロワット
漁船法馬力数 30
3 事実の経過
いざなぎは、船内外機1基を装備し、船体中央部にキャビンを有するFRP製交通船で、A受審人が1人で乗り組み、旅客3人を輸送する目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成9年3月5日03時58分宮城県浦の浜漁港を発し、気仙沼港港奥の魚町にある臨時旅客船発着場に向かった。
ところで、A受審人は、昭和42年から海上タクシー業と一般に呼称される不定期に旅客を小型船で輸送する業務を行っており、主に浦の浜漁港と気仙沼港間を結ぶ旅客船及び他の海上タクシーの運航が終了した深夜、日曜日を除く00時から03時までいざなぎ外1隻を用いて営業していたが、その時間帯以外にも利用客から予約があれば随時運航していた。また、長年運航に従事している間に港内で航走または操業している無灯火の刺網漁船をしばしば見かけていたが、航程3.4海里の前示運航区間を約10分で結ぶことができるという利便性を重視するあまり、無灯火船などに対する適切な見張りが可能な安全な速力とすることなく、21.6ノット(時速40キロメートル)の過大な速力で運航していた。
04時05分半わずか前A受審人は、キャビン上部のマストに白色全周灯及びその下方に両色灯を表示し、キャビン右舷側前部の操縦席に座ってハンドルを握った姿勢で操縦にあたり、蜂ケ埼西方で気仙沼港導灯(後灯)(以下「導灯」という。)から225度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、針路を神明埼東方の突堤南東端の街灯に照らし出された岸壁角に向く341度に定め、機関を全速力前進にかけて21.6ノットの速力で進行した。
04時05分半わずか過ぎA受審人は、導灯から235度930メートルの地点に達したとき、右舷船首7度950メートルのところを稲荷丸が南西方に航行中で、その後同船と衝突するおそれがある態勢で接近していたが、同船が灯火を表示していなかったので、これを視認することができなかった。
04時07分少し前A受審人は、導灯から280度1,030メートルの地点に達したとき、右舷船首7度140メートルのところに稲荷丸の船影を認めることができる状況であったが、港内を航行中の他船はいないものと思い、安全な速力にして見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま21.6ノットの過大な速力で続航中、04時07分導灯から286度1,100メートルの地点において、いざなぎの船首部が原針路、原速力のまま稲荷丸の左舷後部に前方から66度の角度で衝突して乗り切った。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、日出時刻は05時59分であった。
また、稲荷丸は、刺網漁業に従事する船外機1基を装備した和船型の木造漁船で、B受審人が1人で乗り組み、かれい10キログラムを載せ、水揚げの目的で、船首0.0メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日04時00分気仙沼市浪板の定係地を発し、対岸の気仙沼港魚市場岸壁に向かった。
ところで、B受審人は、毎年1月から3月まで03時半ころ起床して前日の漁獲物を水揚げする目的で、04時に定係地から気仙沼港魚市場まで稲荷丸を運航していたが、稲荷丸に法定灯火の設備がなく、夜間、航走中または操業中の他船が近くにいる場合は、携帯した懐中電灯を点灯して自船の存在を知らせていた。
こうして、B受審人は、船尾左舷側の座席に腰掛けて右手で船外機ハンドルを操作しながら前方を向いた姿勢で操縦にあたり、04時05分半わずか前導灯から294度1,030メートルの地点に至り、こんぶ養殖棚の北西端を示す黄色点滅灯を発する灯浮標を正船首110メートルに見て針路を魚市場水揚げ岸壁角の街灯に向首する227度に定め、機関を微速力前進にかけて3.4ノットの速力で進行した。
04時05分半わずか過ぎ導灯から293度1,040メートルの地点に達したとき、B受審人は、左舷船首59度950メートルのところに港内を北上してくるいざなぎの白、緑2灯を視認でき、その後同船と衝突するおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況であった。しかし、同人は、港内を北上してくる他船はいないものと思い、左方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、接近する同船に対して懐中電灯を点灯しないまま続航した。
04時07分少し前B受審人は、導灯から287度1,090メートルの地点で、左舷船首59度140メートルのところにいざなぎがなおも衝突するおそれがある態勢で接近したが、依然として見張りを十分に行わなかったので、このことにも気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらずに進行中、稲荷丸は原針路原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、いざなぎは船首部外板に擦過傷を生じ、稲荷丸は後部両舷外板に欠損及び亀裂を生じてのち廃船にされ、B受審人は6箇月半の入院を要する左下腿骨骨折を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、気仙沼港において、稲荷丸が、航行中の動力船の灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、いざなぎが、過大速力による見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、気仙沼港を航行する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、港内を北上してくる他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、いざなぎが衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船に対して懐中電灯を点灯せず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、いざなぎの船首部外板に擦過傷を、稲荷丸の後部両舷外板に欠損及び亀裂を生じさせ、自身が左下腿骨骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、気気仙沼港を海上タクシーとして航行する場合、長年の港内航行中しばしば無灯火船を見かけていたのであるから、接近する無灯火船を見落とさないよう、安全な速力にして周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、付近に航行中の他船はいないものと思い、安全な速力にして周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、無灯火で航行中の稲荷丸の船影に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を沼き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、更にB受審人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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