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1998年(平成10年)

平成10年仙審第38号
    件名
貨物船第七摂津丸漁船第一稲荷丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

高橋昭雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第七摂津丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第一稲荷丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
摂津丸…左舷側中央部ハンドレールに曲損
稲荷丸…右舷船首外板に凹損

    原因
稲荷丸…居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(主因)
摂津丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第一稲荷丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る第七摂津丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第七摂津丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月21日11時20分
福島県相馬港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第七摂津丸 漁船第一稲荷丸
総トン数 495トン 9.7トン
全長 71.02メートル 19.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第七摂津丸(以下「摂津丸」という。)は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、スクラップ1,370トンを載せ、船首3.4メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成9年5月20日18時00分青森県八戸港を発し、岡山県水島港に向かった。


11時00分A受審人は、左舷船首40度5.0海里に第一稲荷丸(以下「稲荷丸」という。)のレーダー映像を初めて認め、その後その動静を監視しながら続航した。同時12分少し前同方向2海里に同船が漁船であることを認めるようになり、その後その方位にほとんど変化がなく前路を右方に横切り衝突するおそれがある態勢で接近していることを知ったが、そのうちに同船が自船の進路を避けるものと思い、適切な避航動作をとらないまま接近する稲荷丸に対して避航を促すための汽笛による警告信号を行わず、さらに、間近に接近しても転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行中、同時18分同船が自船の進路を避けないまま0.5海里に接近し、衝突の危険を感じてモーターサイレンによる注意を喚起し、さらに右舵一杯としたが及ばず、11時20分北緯37度38.2分東経141度30.6分の地点において、摂津丸は、船首が259度を向いたとき、原速力のまま、その左舷中央部に稲荷丸の船首が後方から35度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、視界は良好であった。
また、稲荷丸は、まぐろ流し網漁業に従事する船尾船橋型FRP製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、4、5日の操業の目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月20日07時30分岩手県広田漁港を発し、同港東方50海里の沖合漁場に向かった。
ところで、B受審人は、出航の5日前に右脚アキレス腱を断裂してギプスで固定していたが、松葉杖を使用すれば動ける状態であったので、操業中の作業を部下に行わせ自らは専ら船橋当直を担うつもりで出漁した。
B受審人は、予定の漁場に至り適水調査後、同日夕方投網を行い、その後付近で漂泊して部下に休息をとらせ自らも船橋当直の傍ら約2時間の仮眠をとった。翌21日03時ごろ揚網を開始して07時ごろ終了したが、漁獲が芳しくなかったので、更に突棒漁に切り替えて操業を続けるつもりで福島県相馬港沖合漁場に向かった。
10時ごろB受審人は、同県鵜ノ尾埼の東南東40海里沖合に至ったところ、強い北風の影響で海面が波立ち突棒漁を行うことが難しい状況であったので一時漂泊した。
その後間もなく付近海域で適水調査を再開したころ、前日飲酒後3時間ほど睡眠をとって出航したものの、既に出航から1昼夜余り経過しその間一時仮眠したとはいえ睡眠不足の状態であったので、しばしば眠気を覚える状況であったが、付近には他船も見当たらなかったことから、適宜漂泊して仮眠をとりながら当直を続けようと思い、甲板員を組み入れるなどして適正な当直体制を採らず、その後も操舵を自動にかけて時折眠気を著しく覚えながらも単独で適水調査を行いながら当直を続けた。
こうして、11時00分B受審人は、北偉37度36.8分東経141度34.4分付近を、折からの北風の影響を避けるつもりで陸岸に向けて9.4ノットの速力で適水調査を続けた。同時12分少し前北緯37度37.5分東経141度33.1分の地点で針路を294度に定めたとき、右舷船首45度2海里に摂津丸を初めて認め、その後同船が前路を左方に横切りその方位が明確に変わらず、衝突するおそれがある態勢で接近していたが、まだかなり距離があるのでもう少し近づくつもりで操舵輪後方に差し渡した板に腰掛けて当直を続けているうちに居眠りに陥り、摂津丸の進路を避けないまま進行中、稲荷丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、摂津丸は左舷側中央部ハンドレールに曲損を生じ、稲荷丸は右舷船首外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、相馬港南東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、西行中の稲荷丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切る摂津丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の摂津丸が、適切な避航動作をとらないまま接近する稲荷丸に対して警告信号を行わず、間近に接近した際、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、前日の出航以来睡眠不足のまま単独で船橋当直中、しばしば眠気を催すようになった場合、そのまま当直を続けると居眠り運航に陥るおそれがあったから、睡眠及び休息の取得状況を考慮して甲板員を含めた適正な当直体制を採るべき注意義務があった。しかし、同人は、付近には他船も見当たらなかったことから、適宜漂泊して仮眠をとりながら当直を続けようと思い、甲板員を含めた適正な当直体制を採らなかった職務上の過失により、引き続き眠気を催しながら当直を続けて居眠りに陥り、摂津丸の針路を避けないまま進行して衝突を招き、同船の左舷側中央部ハンドレールに曲損及び自船の右舷船首外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、単独で船橋当直中、前路を右方に横切り衝突するおそれがある態勢で接近する漁船である稲荷丸を認めた場合、同船が適切な避航動作をとらないまま接近する状況であったから、避航を促すよう汽笛による警告信号を行い、間近に接近した際、転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、そのうちに同船が自船の進路を避けるものと思い、適切な避航動作をとらないまま接近する稲荷丸に対して警告信号を行わず、間近に接近しても転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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