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1998年(平成10年)

平成10年函審第55号
    件名
漁船恵洋丸漁船麻美丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年12月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大石義朗、大山繁樹
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:恵洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
恵洋丸…球伏船首に擦過傷
麻美丸…右舷側船尾部に破口を生じて転覆、操縦者が行方不明になり、のち遺体で発見

    原因
麻美丸…有資格者を乗り組ませず、灯火不表示(主因)
恵洋丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、麻美丸が、有資格者を乗り組ませていなかったこと及び灯火を表示していなかったことによって発生したが、恵洋丸が見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
麻美丸の船舶所有者が、同船の使用者に対して有資格者を乗り組ませること及び夜間の運航ができないことを指導していなかったことは本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月8日03時20分
北海道森港
2 船舶の要目
船種船名 漁船恵洋丸 漁船麻美丸
総トン数 6.6トン 0.9トン
全長 17.00メートル 7.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 90 30
3 事実の経過
恵洋丸は、主として採介藻漁業に従事する船首船橋型のFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、養殖中のほたて稚貝を陸上の作業場に持ち帰る目的で、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成10年6月8日03時15分北海道森港の森港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から085度(真方位、以下同じ。)500メートルの東防波堤内側の係留地点を発航し、同港の北北東方約1.1海里沖合の養殖場に向かった。
ところで、森港は、同港西端部の海岸線とほぼ直角の344度方向に185メートル延びる西防波堤の護岸、同護岸沿いにその内側に築造された物揚場北端から同護岸とほぼ直角の073度方向に200メートル、更にそこから沖に向け45度折れ曲がって028度方向に136メートル延びる西防波堤、同港東端部の343度方向に226メートル延びる東防波堤の護岸及び同護岸沿いにその内側に築造された物揚場北端から同護岸と直角の253度方向に537メートル延びる東防波堤によって囲まれて東西に長い方形状をなし、西防波堤と東防波堤との間が港の入口となっていて、その最狭部は68メートルで、西防波堤の先端部に西防波堤灯台が設置されていた。
また、西防波堤の折れ曲がっているところから、陸岸に向けて西防波堤の護岸と平行に70メートルの長さの防波堤(以下「防除堤」という。)が築造され、その西側の港域部分を西港と称していた。
A受審人は、離岸時から単独で操舵操船に当たり、機関を極微速力前進にかけて右回頭のうえ反転したあと、03時17分西防波堤灯台から089度510メートルの地点で、針路を東防波堤にほぼ沿う252度に定め、機関を微速力前進にかけて6.0ノットの対地速力とし、航行中の動力船が表示しなければならない所定の灯火のほか、船橋上部マストのマスト灯上方に設置した白色全周灯を点灯して操舵室中央の操舵スタンド後方右寄りに立ち、手動操舵により進行した。
03時19分半A受審人は、西防波堤灯台から149度160メートルの地点に達したとき、右舷船首17度100メートルのところに西港から出航し、防波堤入口に向けて直進中の麻美丸が存在したが、同船が何ら灯火を表示していなかったことから、視認することができず、そのことに気付かずに同入口に向けるため小角度の右舵をとって右転を開始したところ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近することとなった。
03時20分少し前A受審人は、白色の船体の麻美丸が船首方40メートルとなったとき、無灯火の同船の船影を視認できる状況となったが前路には支障となるものはないものと思い、右方の東防波堤先端との距離や西防波堤灯台に気をとられて船首方の見張りを厳重に行っていなかったので、同船の存在に気付かず、速やかに行きあしを止めるなどの衝突を避けるための措置をとることなく右転を続け、同灯台をほぼ正船首方に見るようになったので舵を戻し、当て舵をとって針路が同灯台を少し左方に見る000度に定まった直後、03時20分同灯台から178度75メートルの地点において、恵洋丸は、ほぼ原速力のまま、その船首が麻美丸の右舷船尾部に後方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、日出時刻は04時01分で、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、女性の叫び声を聞いて機関を操作のうえ行きあしを止めたところ、右舷側に船底を見せた麻美丸を認めて同船と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、麻美丸は、定置漁業や採介藻漁業などに従事する灯火設備を有しない和船型のFRP型漁船で、海技免状を有しないCが操縦者として同人の家族である甲板員2人とともに乗り組み、ちか定置網の網起こしをする目的で、船首0.05メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同03時18分森港西港の、西防波堤灯台から2.4度160メートルの防波堤内側の係留地点を発航し、同港東方1海里ばかり沖合の定置網設置場所に向かった。
ところで、麻美丸は、同船の船舶所有者で四級小型船舶操縦士の海技免状を受有するB指定海難関係人と同人の父であるC操縦者を使用者として漁船登録していたもので、いつもは同人と一緒にB指定海難関係人が乗り組んで同船の運航を行っていた。
B指定海難関係人は、6月8日が漁期の開始日となっていた共同事業のかに篭(かご)漁に従事するため、麻美丸とは別の漁船に乗船することとなり、同日から漁期が終了するまでの20日間、C操縦者が無資格のまま日出前に麻美丸を運航させることを知っていたが、それを黙認し、同人に対して同船を運航させるときは有資格者を乗り組ませること及び灯火の設備がないので夜間の運航ができないことを厳しく指導していなかった。
こうして、C操縦者は、有資格者を乗り組ませることなく、携帯電灯も所持せずに無灯火のまま日出前に発航し、船尾部右舷側で船外機の舵柄を操作して操船に当たり、西港を波除堤沿いに南下して同堤南端を替わしたあと左転し、03時19分わずか過ぎ西防波堤灯台から190度200メートルの地点において、4.5ノットの対地速力で針路を防波堤入口のほぼ中央を向く018度に定めたとき、右舷船首48度200メートルのところに恵洋丸が存在し、マスト灯こそレーダースキャナーの陰になって視認できなかったものの、全周灯の白灯と紅灯を見せて来航していたが、同船に対し自船の存在を示す灯火を表示することもしないまま直進を続けた。
03時19分半C操縦者は、恵洋丸が右舷船首71度100メートルのところで右転を開始し、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、速やかに行きあしを止めるなどの効果的な衝突を避けるための措置をとらないまま進行し、03時20分わずか前東防波堤が替わったところで同防波堤に沿う針路とするため右転を開始して間もなく、麻美丸は、040度を向首したとき、ほぼ原速力のまま前記のとおり衝突した。
衝突の結果、恵洋丸は球状船首に擦過傷を生じ、麻美丸は右舷側船尾部に破口を生じて転覆し、海中に投げ出された甲板員2人は船底につかまっているところを恵洋丸に救助されたがC操縦者(昭和5年11月1日生)は行方不明になり、のち遺体で発見され、溺死と検案された。

(原因)
本件衝突は、夜間、北海道森港入口付近において、出航中の麻美丸が、有資格者を乗り組ませていなかったこと及び灯火を表示していなかったことによって発生したが、出航中の恵洋丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
麻美丸の船舶所有者が、同船の使用者に対して運航させるときは有資格者を乗り組ませること及び夜間の運航ができないことを指導していなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、北海道森港を出航する場合、麻美丸が無灯火であったとはいえ、同船は白色の船体で日出時刻に近く、衝突回避の措置をとることができる距離で同船を視認することが可能な状況にあったのであるから、同船を見落とすことのないよう、船首方の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路には支障となるものはないものと思い、右方の東防波堤先端との距離や西防波堤灯台に気をとられ、船首方の見張りを厳重に行っていなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近していた無灯火の麻美丸に気付かずに右転を続けて同船との衝突を招き、恵洋丸の球状船首に擦過傷、麻美丸の右舷側船尾部に破口を生じさせて同船を転覆させ、C操縦者を溺死させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、麻美丸の使用者であるC操縦者に対して、同船を運航させるときは有資格者を乗り組ませること及び灯火の設備がないのて夜間の運航ができないことを厳しく指導していなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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