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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年2月19日06時10分 北海道根室市落石岬南南西方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船第十八泰安丸
漁船第一吉進丸 総トン数 4.9トン 2.90トン 登録長 11.90メートル 7.50メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 90 70 3 事実の経過 第十八泰安丸(以下「泰安丸」という。)は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成10年2月19日04時50分北海道根室市落石漁港を発し、落石岬灯台から192度(真方位、以下同じ。)17海里ばかりの漁場に向かった。 A受審人は、発航時から単独で船橋当直に就き、05時00分落石岬灯台から070度1,500メートルの地点で、針路を194度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて15.0ノットの対地速力で、航行中の動力船が掲げる所定の灯火を表示して進行した。 泰安丸は、全速力で航行したことで、操舵室の前面窓にしぶきがかかり、それが凍り付いて次第に同窓から前方を見渡しにくい状態となり、また、船首が浮上して船首方向の水平線が見えなくなって死角が生じる状況となっていた。 06時07分A受審人は、落石岬灯台から192度16.3海里の地点に達したとき、正船首1,400メートルにほぼ停留状態の第一吉進丸(以下「吉進丸」という。)の白、紅2灯及び黄色回転灯の灯火並びに作業灯の灯火とともにその船体を視認でき、同船は漁労に従事していることを示す灯火を表示していなかったが、前日に自船の網を吉進丸が投入した網のボンデンの近くから南西方向に投入していたことから、同船が漁労に従事していることが分かる状況であった。しかし、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、船首を左右に振り、窓から顔を出すなどして船首方向の死角及び操舵室前面窓の結氷による見通しの悪化を補う見張りを十分に行わなかったので、吉進丸の存在に気付かず、また、そのころ0.75海里レンジとしたレーダーを見たものの、注意深く見なかったことから、船首輝線上に映っていた同船の映像を見落としていた。 A受審人は、その後吉進丸に向首して衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然正船首方の見張りを十分に行わなかったので、そのことに気付かず、同船の進路を避けないまま続航中、突然衝撃を感じ、06時10分落石岬灯台から192度17海里の地点において、泰安丸は、原針路、原速力のまま、その船首が吉進丸の左舷中央部に前方から66度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風1の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出時刻は06時10分であった。 また、吉進丸は、刺網漁業に従事する汽笛を備えたFRP製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.05メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同日03時30分落石漁港を発し、落石岬南南西方沖合の漁場に向かった。 05時55分B受審人は、前示衝突地点に至り、機関を中立として乗組員2人を船首左舷側の揚網機に配置のうえ、数日前に投入していたほっけ刺し網のボンデンを揚げたのち、航行中の動力船が掲げなければならない所定の灯火のほか、操舵室上部に黄色回転灯及び船体中央部に作業灯各1個を点灯したものの、漁労に従事していることを示す灯火を表示することなく、06時00分瀬縄を揚網機のドラムで巻き揚げ、080度を向首し、ほぼ停留して揚網を開始した。 06時04分B受審人は、3海里レンジとしたレーダーの画面を見たとき、左舷船首66度1.5海里に2隻の小型船の映像を初認し、操舵室の左舷側前面窓から左舷方を見たところ、泰安丸の灯火及び船体は見えなかったものの、船首が立てる白波を認め、同船が接近して来ていることを知ったが、自船はほぼ停留して揚網を行っているので、衝突のおそれがあれば泰安丸が自船を避けるものと思い、その後は泰安丸に対する動静監視を行うことなく、揚網機を見ていた。 06時07分B受審人は、左舷船首66度1,400メートルに泰安丸が達し、その後、同船は自船の進路を避けることなく衝突のおそれのある態勢のまま接近したが、依然動静監視を行っていなかったので、そのことに気付かず、警告信号を行わず、更に間近となっても衝突を避けるための協力動作をとらないで揚網中、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、泰安丸は右舷船首外板に破口、バルバスバウ及び右舷外板に破損をそれぞれ生じたが、のち修理され、吉進丸は操舵室及び左舷中央部ブルワークを損壊して泰安丸に曳(えい)航され落石漁港に帰港した。
(原因) 本件衝突は、北海道根室市落石岬南南西方沖合において、泰安丸が見張り不十分で、漁労に従事中の吉進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、吉進丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、北海道根室市落石岬南南西方沖合においで漁場に向け航行する場合、しぶきが操舵室前面窓まで上がって凍り付き同窓から前方が見渡しにくい状態となり、また、船首の浮上により船首方向に死角を生じていたのであるから、前路でほぼ停留して漁労に従事している吉進丸を見落とさないよう、船首を左右に振り、窓から顔を出すなどして船首方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、船首方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でほぼ停留して漁労に従事している吉進丸に気付かず、同船の進路を避けずにそのまま進行して同船との衝突を招き、同船の操舵室及び左舷中央部ブルワークを損壊させ、自船の右舷船首外板に破口、バルバスバウ及び右舷外板に破損をそれぞれ生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、北海道根室市落石岬南南西方沖合の漁場において、ほぼ停留して揚網中、左舷方から来航する泰安丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、自船はほぼ停留して揚網中なので衝突のおそれがあれば泰安丸が自船を避けるものと思い、泰安丸に対して動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船が自船の進路を避けずに接近していることに気付かないまま揚網を続けて泰安丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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