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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月18日14時30分 愛媛県 高井神島北東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船幸丸
プレジャーボートホーチューブルームーン? 総トン数
4.88トン 全長 13.40メートル
9.53メートル 機関の種類 ディーゼル機関
ディーゼル機関 出力 40キロワット
169キロワット 3 事実の経過 幸丸は、小型船舶底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業のため、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成9年5月18日05時00分愛媛県高井神島漁港を発し、同県魚島北東方3海里の海図記載の備後灘推薦航路(以下「航路」という。)付近で操業したのち、12時50分広島県横田漁港に入港して漁獲物を揚げ、13時10分高井神島漁港へ向けて帰航の途に就いた。 13時15分A受審人は、横田港一文字防波堤西灯台から090度(真方位、以下同じ。)10メートルの地点で、針路を185度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.2ノットの対水速力とし、航路を航行する貨物船が気になったので、操舵室後方の外に出て立って見張りをしながら手動操舵により進行した。 ところで、幸丸は、全速力前進にすると船首が浮上し、操舵室内でいすに腰掛けて操舵すると船首両舷にそれぞれ10度の死角が生じる状態であったが、平素死角を補うため船首を適宜左右に振るなどして前路の見張りを行っていた。 14時23分少し過ぎA受審人は、高井神島灯台から022度1.2海里の地点に達したとき、正船首1,500メートルに船首を045度に向けて漂泊中のホーチューブルームーン?(以下「ホ号」という。)を認め得る状況であったが、航路を航過したのでほっとし、前路を一瞥して他船を見なかったので、周辺海域には他船がいないと思い、操舵室に入り、いすに腰掛けて操舵を始め、死角を補うため船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うことなく、その後衝突のおそれがある態勢でホ号に接近したが、これに気付かないまま続航し、同時28分高井神島灯台から037度1,200メートルの地点に達したとき、ホ号の方位が変わらず440メートルに接近したが、依然船首死角に入った同船の存在と接近に気付かず、同船を避けないで進行中、14時30分高井島灯台から054度840メートルの地点において、幸丸は、原針路、原速力のままのその船首が、ホ号の左舷前部に前方から40度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期であった。 また、ホ号は、船内外機を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者6人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同18日07時00分広島県松永湾係留地を発し、愛媛県瓢箪島南方沖合の釣り場に向かった。 07時40分B受審人は、前示釣り場に至り、投錨して魚釣りを始めたが釣れなかったので、13時00分他の釣り場に移動することとして揚錨し、同時10分前示衝突地点付近に達し、機関を止めて同乗者を船尾両舷に位置させて魚釣りをさせ、自らは船尾中央の甲板上で同乗者の魚釣りの世話をし、船首を045度に向けて漂泊を始めた。 14時23分少し過ぎB受審人は、左舷船首40度1,500メートルのところに、自船に向首する幸丸を視認し得る状況で、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、同乗者の魚釣りの世話に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行うことなく、これに気付かないまま漂泊を続け、同時28分幸丸の方位が変わらず440メートルに接近してきたが、依然これに気付かず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないで漂泊中、14時30分少し前同乗者の叫び声を聞き、左舷船首至近に迫った幸丸を初めて視認したが、どうすることもできず、ホ号は、船首を045度に向けて漂泊したまま前示のとおり衝突した。 衝突の結果、幸丸は、船首部のたつを折損し、ホ号は、左舷前部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、高井神島北東方沖合において、航行中の幸丸が、見張り不十分で、漂泊中のホ号を避けなかったことによって発生したが、ホ号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、高井神島東方沖合を高井神島漁港に向けて帰航する場合、漂泊中のホ号を見落とさないよう、死角を補うため船首を左右に振るなどして前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路を一瞥したが他船を見なかったので、周辺海域には他船がいないと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船首死角に入ったホ号の存在と接近に気付かず、同船を避けないで進行して同船との衝突を招き、幸丸の船首部のたつを折損、ホ号の左舷前部外板に破口を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。 B受審人は、高井神島東方沖合で漂泊して魚釣りをする場合、幸丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同乗者の魚釣りの世話に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないで、漂泊したまま同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
参考図
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