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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月28日17時40分 香川県 小手島東方沖合 2 船舶の要目 船種船名 漁船明室丸
漁船戎丸 総トン数 2.3トン 1.16トン 全長 5.74メートル 登録長
9.94メートル 機関の種類 ディーゼル機関
電気点火機関 出力 169キロワット 漁船法馬力数 30 3 事実の経過 明宝丸は、主に刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、正月休みで帰省する妹1人を乗せ、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成8年12月28日17時15分香川県丸亀港を発し、同県小手島漁港の第1物揚場に向かった。 A受審人は、発航したとき日没後であったが、多少明るさが残っていたことから、遠距離から視認できて操業中に点灯する操舵室屋根上の、24ボルトのバッテリーを電源とする15ワット4個及び30ワット1個の計5個の紅色回転灯を点灯したのみで、法定灯火を表示せず、操舵室中央の操舵輪右側のいすに腰掛けて操舵操船し、17時34分少し過ぎ青木港第1防波堤灯台(以下「青木灯台」という。)から163度(真方位、以下同じ。)1,580メートルの地点で、針路を小手島漁港に向く308度に定め、機関を全速力前進より少し落とし、26.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。 17時38分A受審人は、青木灯台から280度1.0海里の地点に達したとき、左舷船首2度1,510メートルのところに戎丸が存在し、これを追い抜く態勢となって接近したが、暗夜となり、同船は無灯火であったことからその存在を認め得ない状況で続航し、同時39分青木灯台から288度1.4海里の地点で、同船の方位が変わらず750メートルのところに位置するようになり、同船と衝突のおそれのある態勢で接近することとなったが、依然、これを認め得ないで進行中、17時40分青木灯台から293度1.8海里の地点において、明宝丸は、原針路、原速力のまま、その船首が戎丸の右舷中央部に後方から45度の角度で衝突して同船を乗り越えた。 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮侯は下げ潮の中央期で、日没は17時03分であり、月出は20時15分であった。 また、戎丸は、船外機1基を装備した雑漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、なまこ漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同日17時34分小手島漁港第3物揚場岸壁を発し、香川県佐柳島沖合の漁場に向かった。 発航したときB受審人は、日没後であったが、多少明るさが残っていたので、暗くなってから法定灯火を表示しようと思い、同灯火を表示して航行することなく、無灯火のまま右舷船尾端に腰掛け、左手で船外機の舵柄を握って操舵操船し、小手島漁港出入口の防波堤を替わり、17時38分青木灯台から291度1.8海里の地点に達したとき、暗夜となり、海上に白波を認めたため、小手島北西方300メートル付近の漁場に変更することとし、針路を328度に定め、機関を全速力前進にかけて2.6ノットの速力で小手島漁港の防波堤に沿って進行した。 定針したころB受審人は、右舷船尾22度1,510メートルのところに、自船に接近する紅色回転灯5個を、点灯した明宝丸を視認し得る状況であったが、周囲を一瞥しただけで他船を見なかったことから、前方の見張りに専念して続航した。 17時39分B受審人は、青木灯台から292度1.8海里の地点に達したとき、明宝丸の方位が変わらず750メートルに接近し、その後も方位に明白な変化のないまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船が無灯火のまま航行していたので自船の存在を明宝丸に認識させることができないで進行中、同時40分わずか前缶コーヒーを取ろうとして後ろを向いたとき右舷船尾至近に覆いかぶさるよう迫った明宝丸を初めて視認し、どうすることもできず、身を守るため姿勢を低くし、その際舵柄を右舷にとることとなって、戎丸は、353度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、明宝丸はプロペラ3翼に曲損、戎丸は両舷中央部外板上部に破損及び水没して船外機に濡れ損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人は衝突の衝撃で海中に転落し、明宝丸に救助され、2箇月半の入院加療を要する右足首脱臼骨折を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、小手島東方沖合において、戎丸が、無灯火で航行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、なまこ漁のため、小手島東方沖合を漁場に向かって航行する場合、他船から自船の存在が分かるように法定灯火を表示して航行すべき注意義務があった。ところが、同人は、多少明るさが残っていたので、暗くなってから法定灯火を表示しようと思い、暗夜になっても法定灯火を表示して航行しなかった職務上の過失により、後方から接近する明宝丸に自船の存在を認識させることができないで、明宝丸との衝突を招き、明宝丸のプロペラに曲損、戎丸の両舷外板に破損及び船外機に濡れ損を生じさせ、自身も右足首脱臼骨折を負うに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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