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1998年(平成10年)

平成9広審第58号
    件名
漁船第三十三丸福丸漁船吉祥丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、杉?忠志、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第三十三丸福丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:吉祥丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
丸福丸…損傷なし
吉祥丸…右舷中央部に破口を生じて浸水、のち廃船、甲板員1人が溺水により死亡

    原因
丸福丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
吉祥丸…見張り不十分、注意喚起信号不覆行(一因)

    主文
本件衝突は、第三十三丸福丸が、動静監視不十分で、錨泊中の吉祥丸を避けなかったことによって発生したが、吉祥丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月9日18時50分
浜田港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十三丸福丸 漁船吉祥丸
総トン数 189トン 19.32トン
全長 43.70メートル
登録長 17.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 478キロワット
3 事実の経過
第三十三丸福丸(以下「丸福丸」という。)は、旋網漁業船団付属の運搬船として従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、網船、灯船2隻及び運搬船1隻とともに船首1.6メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成8年11月9日18時00分島根県浜田港を発し、法定灯火のほか紅色回転灯を表示して同港の西方20海里付近の漁場に向かった。
A受審人は、出港後引き続き操船に当たり、18時10分馬島灯台から205度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点に達したとき、針路を漁場に向く263度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.8ノットの対地速力で手動操舵により進行し、そのころ出港作業を終えて昇橋したB指定海難関係人と船橋当直を交代して、操舵室後方の無線室に退いた。
ところで、前示無線室は、操舵室床面より1.2メートルばかり高いところに位置し、操舵室が開放された畳敷きの部屋で、畳に腰を下ろしても目の高さは操舵位置にいるより若干高くなることから、船首方を十分見通すことができ、A受審人は、船首方を向いて同室中央より少し右舷寄りにあぐらをかいて座り、操船中のB指定海難関係人と雑談をしながら休息した。
B指定海難関係人は、強い北西風と波浪により船体が動揺する中、舵を左右10度ばかり取って船首の振れを両舷各5度ばかりに押さえながら続航し、18時31分高島灯台から064度7.2海里の地点に達したとき、スタンバイ状態としていた操舵スタンド左舷側のレーダーを6海里レンジとして表示させたところ、ほぼ針路上に吉祥丸の映像を探知し得る状態となっていたものの、たまたま船首が右方に振れたとき同船の映像が左舷船首5度3.5海里に映り、ほぼ同方位に黄色回転灯とぼんやりとした白灯を視認したことから錨泊中の延縄漁船と思い、船体動揺による船首の振れを考慮せず、このまま進行しても吉祥丸は自船の左舷方をかわるものと判断し、レーダーを再びスタンバイ状態に切り替え、その後吉祥丸に対する動静監視を十分に行わないまま、コンパスの船首方位を見て保針に努めながら進行した。
そのころA受審人もまた、無線室から正船首わずか右に黄色回転灯を認め、他船が存在することを知ったが、B指定海難関係人にその旨を伝えると、現在3.5海里であるとの回答を得て、同人がすでにその存在に気付き、レーダーでも確認していることが分かったことから大丈夫と思い、船首が大きく振れている状況下では他船の方位を確かめることが難しい点に留意して自らも動静監視を行うことなく、その後テレビの天気予報を見たり、僚船との無線連絡に従事した。
18時44分半B指定海難関係人は、高島灯台から053度4.9海里の地点に達したとき、吉祥丸がほぼ正船首1海里となり、方位変化のないまま衝突のおそれのある態勢で同船に接近していたが、依然同船は左舷方をかわるものと思い、保針のみに気を取られ、動静監視を行っていなかったので、このことに気付かず、丸福丸は、錨泊中の吉祥丸を避けないまま進行した。
18時50分少し前A受審人は、ふと前方を見たとき、至近に黄色回転灯を認め、あわてて操舵室に駆け込み、機関停止、左舵一杯としたが及ばず、丸福丸は、18時50分高島灯台から046度4.1海里の地点において、ほぼ原針路、原速力のままのその船首が、吉祥丸の右舷中央部に後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の北西風が吹き、波高は約2メートルであった。
また、吉祥丸は、延縄漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月8日04時00分山口県阿武郡田万川町江崎漁港を発し、高島東方沖合の漁場に向かった。
C受審人は、漁場到着後直ちに操業を開始し、その後、江津沖合に移動するなどして操業を繰り返し、翌9日17時00分前示衝突地点付近に至り、水深100メートルのところに105キログラムの錨を付けた錨索を200メートル延出して投錨し、停泊灯のほか、白灯数個を点灯して錨泊した。
C受審人は、18時30分ごろ夕食を終えて昇橋したおり、付近を航行する旋網船団数隻を認めたことから念のため黄色回転灯を点灯したが、これにより他船も容易に錨泊中の自船に気付き、避けてくれるものと思い、錨泊地点が浜田港出入港船の通航海域であったものの、見張り員を配置せず、他の乗組員を休息させ、自らも操舵室後方の寝台に入り休息した。
こうして吉祥丸は、見張り員がいないまま、見張り不十分となって錨泊中、18時44分半308度を向首していたとき、右舷船尾45度1海里に、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近する丸福丸が存在したが、乗組員が同船の接近に気付かなかったため、避航を促すための注意喚起信号を行うことができず、308度を向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、丸福丸は、ほとんど損傷がなく、吉祥丸は、右舷中央部に破口を生じて浸水し、丸福丸により浜田港に曳航されたが、のち廃船とされ、吉祥丸甲板員D(昭和38年3月2日生)が、溺水により死亡した。

(原因)
本件衝突は、夜間、浜田港西方沖合において、丸福丸が、動静監視不十分で、錨泊中の吉祥丸を避けなかったことによって発生したが、吉祥丸が、見張り員を配置せず、見張り不十分となって注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
丸福丸の運航が適切でなかったのは、波浪により船首が大きく振られる状況下、船首方に他船の存在を認めていた休息中の船長が、自らも動静監視を行わなかったことと、当直者が動静監視を行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、浜田港西方沖合において、波浪により船首が大きく振られる状況下、無資格者に航海当直を任せて操舵室後部で休息中、船首方に他船の存在を認めた場合、自らも動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、当直者も同船に気付いているから大丈夫と思い、自らも動静監視を行わなかった職務上の過失により、吉祥丸への接近に気付かなかったため、錨泊中の吉祥丸を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、吉祥丸の右舷中央部に破口を生じせしめ、同船甲板員を溺水により死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C受審人は、夜間、浜田港出入港船の通航海域である同港西方沖合において錨泊する場合、接近する他船に対し注意喚起信号を行うことができるよう、見張り員を配置すべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近した他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、見張り員を配置しなかった職務上の過失により、丸福丸の接近に気付かず、同船に対し注意喚起信号を行うことができずに衝突を招き、自船に前示の損傷を生じせしめ、甲板員を死亡させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人は、夜間、浜田港西方沖合において、単独の船橋当直に就いて航行中、船首方に他船を認めた際、動静監視を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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